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徴税官からの依頼



「……ふん。拠点を構えるにしても、ここは随分と年季の入ったあばら家ね」



私はエクス号を止め、目の前の空き家を眺めた。


屋根はひん曲がり、壁は剥がれ落ちている。

でも、ここを作り替えれば、花街の住民たちに読み書きを教える拠点にはちょうどいいはずだ。


寝泊りだって、いつまでも花街の宿にいるわけにはいかない。



(……流石に、一泊で金貨が消えたときは骨が折れた)



「さて、まずは不法占拠と言われないように、ここの持ち主を調べないと……」



そう思った時、背後から馬車の車輪の音と、場違いなほど高級な靴の音が響いてきた。



「おい。そこの娘、ここで何をしている」



そこに立っていたのは、いかにも上流階級といった身なりの男。

仕立ての良い帝国の官服に、鼻持ちならないほど磨かれた金の刺繍。


その後ろには、数人の役人が控えている。



「あら、奇遇ね。私はただの物件探し中よ」



私がそう言うと、男――この街の徴税官は、眉間に深い皺を寄せて私を睨みつけたわ。



「有効活用だと? 笑わせるな。この一帯は帝国の再開発予定地として、既に我々の管理下にある。文字も読めぬ藍の連中のために、掃き溜めのような家を貸し出す道理などないわ」




男はそう吐き捨てて私を追い払おうとしたけれど、ふと、私の装備に視線を止めた。

私の二つ結びの髪、後ろで揺れる蝶の髪飾り。動きやすいように丈を短く加工したドレス。

そして何より、リヤカー「エクス号」と、そこに無造作に置かれたバット。



「……待て。二つ結び、翠色のリボン。丈の短いドレス……極めつけはそのバットとリヤカーか」




徴税官の男は、私を凝視する。

そして、その強張っていた顔が、一瞬にして驚愕の色に染まった。


「君か……! リュグナーという男が今朝、青い顔をして自首してきたぞ。自分の不正をすべて記した書状を持ち、震えながらな。……奴は今、帝国法に基づき『肉刑』に処されたそうだ。」


「……へぇ、自首? 随分と素早い処理じゃない。」




私がそう皮肉っぽく笑うと、男はさっきまでの傲慢さを一変させ、私に向かって深々と頭を下げた。



「失礼した。私は徴税官のアルベールだ。……君には礼を言わねばなるまい。リュグナーはこの街の癌だった。奴の不正を暴こうにも、私一人の権限ではどうすることもできず、手をこまねいていたのだ」



「……はぁ? ちょっと待ちなさいよ。あんた、悪徳商人の仲間じゃなかったの?」



「まさか。私は帝国から派遣された身だが、この街の歪んだ格差には反吐が出ていた。……君がリュグナーを叩き潰してくれたおかげで、ようやくこの街も安泰だ」




アルベールは顔を上げると、確信に満ちた瞳であばら家を指し示した。




「この家は、今日から君のものだ。書類上は私が『公務執行拠点』として登録しておく。君の望む通り、藍の民のための学び舎にでも、何にでも使うがいい」



「……公務執行拠点? 随分と都合のいい書き換えを当てるのね。」




私は呆れ半分、感心半分でアルベールを見たわ。

でも、住む場所と活動拠点が「公式」に手に入るなら、旅人としては願ってもない環境だ。



「いいわ、その提案、受理してあげる。このあばら家を、一瞬にして変貌させて見せるわ」



私がエクス号の荷台を整理し直そうとすると、アルベールが少し言い淀むように、けれど真剣な面持ちで言葉を続けた。



「……それと、君にこんなことを頼むのは筋違いだと承知しているのだが……実は、私の姪が何かと困りごとを抱えていてね。もしよければ、彼女を手伝ってくれないだろうか?」


「姪っ子さん? 帝国のエリート徴税官の親族が、私みたいな流れのエンジニアに何の用よ。」




私はバットを肩に担ぎ直し、アルベールの目を覗き込んだ。



「彼女は少し……いや、かなり特殊な感性を持っていてね。この街の現状を憂うあまり、一人で無茶な調査を進めているようなんだ。そして、今とても厄介な壁にぶつかっていてね」


「ふーん。要するに、お転婆な令嬢の『ボディーガード兼デバッグ補助』ってことね」




私はリヤカーを引き、あばら家の敷地内に一歩踏み出した。




「いいわよ。この拠点の『家賃』代わりとして、その依頼しかと受け取るわ」

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