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ホテル出禁と別れ



将軍閣下が心底満足した顔で、軽くなった身体を揺らしながら帰路につくのを見送り、私は番台で大きく伸びをした。



「……ふぅ。これでようやく、この宿の運営システムも安定稼働に入ったかしらね」



おじいさんは常連客と笑い合いながら、誇らしげに新しい暖簾を整えている。

港の「作業課」の男たちも、今や立派な仲居としてキビキビと立ち働きいていた。




かつての瓦礫の山は、今や帝国の辺境で最も輝く「癒やしの聖域」へとアップデートされた。

私は番台の横に立てかけた愛用のバット、エクス号をそっと撫でる。



(ふう……やばい。早く、言いださなきゃ)

私は冷や汗をかきながらも、覚悟を決め、震える声で言い放った。



「さあ、私の仕事はここまで。あとはじいさん、あんたがこの『最高傑作』をしっかり保守運用していきなさい。……バグが出たら、いつでも呼び出しなさいよね」



「……マリアさん!? どうしたんじゃ、改まって。まさか、どこかへ行ってしまうのか?」



おじいさんが慌てて番台に駆け寄ってくる。

その後ろで、作業課の男達が「姐さん、行かないでくれ!」と言わんばかりの顔で立ち尽くしていた。



感動的な別れのシーン……になるはずだったんだけれど。



「じ、実は……さっき高級宿から通信が入って。強制的にチェックアウトさせられちゃったの……」




感動の渦に包まれていたロビーに、今日一番の沈黙が走った。

かっこよく去ろうとした矢先に、ただの宿泊拒否っていうあまりにも世俗的な理由。


「……は? 出禁?」



おじいさんが呆気にとられた声を出す。


「だって、お偉いさんも通い詰めてくれてるじゃないか?これからって時に……」

「姐さん!高級旅館の茶菓子食べようって……あの夢は……」



「チェックアウトの時に、ご丁寧に百個くらい頂いたわよ」




シー―――――――――――ン。



「いいじゃない! どのみち、一箇所に留まるのは私の主義じゃないの! じゃあね!」



背後からおじいさんの「おい、マリアさん! せめて茶菓子を詰めた包みを持っていけ!」という怒鳴り声と、作業課の男たちの「姐さん、お元気で! またバグが出たら頼んます!」という涙混じりの咆哮が聞こえてくる。



……全く、暑苦しいったらありゃしない。



でも、悪くない気分ね。




湯煙の向こうに沈む夕日が、新築のヒノキを鮮やかな黄金色に染め上げていく。

私は肩に担いだエクス号の重みを心地よく感じながら、地平線の向こう側へと足を踏み出した。

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