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前略、可愛い子犬を飼うはずが黒髪清楚な美少女とひとつ屋根の下、甘い同棲生活が始まりました。  作者: Kazuchi


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水色のワンピースを着た絵の中の少女。かくれんぼの記憶。【特別編➂】

「なあ、オリザ。天音《あまね》はもう出掛けたよな?」


「わ……、いまは鳴いちゃだめだね。ご主人様、ちょうど玄関を出たところだよ」


 母屋の玄関を見渡せる個室部屋の窓越しに、外出する妹の後ろ姿が確認出来た。やっぱり僕たちには内緒で肝試しに向かったんだな。


「大丈夫だよ、無理に鳴くのを我慢しなくてもさ。もう天音には聞こえないから」


「そっかあ、オリザ、かくれんぼをしてるみたいな気分になってたんだ!!」


「おっ、わんこでもかくれんぼとかして遊ぶんだな。初めて知ったよ」


「あれっ? いま私、知らない言葉が景色とともに急に頭の中に浮かんできたの。か(・)く(・)れ(・)ん(・)ぼ(・)って、いったいどういう意味なの。ご主人様」


 ……また同じ現象が彼女の身に起こったな。


 僕とオリザが飼い主と子犬という奇妙な同棲生活を送り始めてから、度々耳にした現象だ。普通の女子高生としての記憶を失った彼女だが、すべての行動様式や知能が犬そのものにはなっていない。


 特に言語の分野で、彼女自身も知らない言葉を不意に口にするんだ。その度にオリザはとても困惑した表情を浮かべる。


 医者でありオリザの容態について現在も調べている僕の父親。猪野誠治《いのせいじ》に言わせると彼女の上書きされた人格(正確には犬格《けんかく》か)が不安定で、元の女子高生だったオリザの知性がときおり表出するのだろうとの見解だった。


「……かくれんぼ、か。鬼ごっことも言うんだよ。懐かしいよな、子供のころ、良く近所の森で妹の天音とやったもんだ。あっ、そうだ!! 僕がかくれんぼをしていたのは鎮守様《おちかんさま》の森じゃないか!?」


「ご主人様。その森の名前はこれから私たちがいく場所だよね?」


「そうだ。天音の計画した肝試しの場所と同じなんだ。……オリザ、君の見た風景って思い出せるかい」


「ううっ、さっきは何が見えたのかなぁ? あっ!! 少しだけ思い出したよ。私はご主人様の教えてくれたかくれんぼをしていたんだ。狭い場所から見えた景色には辺りをきょろきょろ見まわしている女の子が立っていたの」


「その女の子は君の知っている人なの?」


「ううん、知らない女の子。いまの私よりもかなり幼い感じ。そうだ!! 可愛いピンクの花を髪の毛につけていたよ」


「それはきっと髪飾りかもしれないね。オリザはお絵描きが上手だからその女の子を描いてくれないか?」


「わん!! ご主人様のプレゼントしてくれたオリザの日記帳に描いてみるね。これがお気に入りなんだよ」


「……そんなに気にいってくれると僕も嬉しいな。君が肌身離さないから、表紙も折り目が付いちゃってるけどね。もうかなり日記も書いただろうから新しいのを買ってやろうか?」


「私はこれがいい。まだまだ日記も書けるから。あっ、いくらご主人様でもオリザに内緒で中身を読んじゃだめだよ。お絵かきは紙が外せるから出来たら渡すね」


「大丈夫だよ。君(・)以(・)外(・)が中身を見れないように、鍵の掛かる日記帳をわざわざ選んだんだからさ」


 オリザが見たという女の子も気になる。彼女のお絵描きに何かヒントでもあればいいんだが……。


「そういえば祐二はどうしたの? いつもならご主人様といっしょに出掛けたがるんじゃない。オリザと同じだからよく知ってるよ!!」


 ……祐二、子犬のオリザにまで完全に行動を読まれているな。


 でも不思議なことに奴は乗り気じゃなかったんだよな。自分の溺愛する妹、香菜ちゃんが女の子だけで肝試しという危険に飛び込んでいくというのに。参加はしないと断られたんだ。


 僕が事情を説明して場所が鎮守様の森と聞いた途端。急に顔色を変えたんだよな。いったい何なんだ? 


 そういえば最近、祐二の奴、どこか変なんだよな。何かこう、過敏というか挙動不審なところがある。学校で話しかけてもいつもの陽キャ乗りじゃないから調子が狂っちまう……。


「ご主人様。そろそろ鎮守様の森にお出かけしないと……」


 僕の親友へ疑念はオリザの言葉で不意に遮られた。顔を上げると彼女の得意満面の笑顔が目に入る。


「な、何だよオリザ。その笑顔は!? ええっ、もうお絵描きが出来たのか。早っ!!」


「えへへっ、ご主人様。ほめてほめて!! 上手に描けたでしょう。わん!!」


 確かに上手だ。とても子犬な彼女が書いたとは思えない。大きな花の髪飾りを頭に付けた可愛らしいワンピースの少女が用紙には描かれていた。


「凄いな、オリザ、絵がとても上手で驚いたよ。この背丈なら小学校の高学年くらいかな。隣に君の全身の絵も描いているので比較しやすいよ。あれっ、女の子のワンピースの胸に描いてある丸いマークは何なのかな?」


「……それは見たままのカ(・)タ(・)チ(・)で描いただけ。オリザもよくわかんない」


 僕はそのマークをどこかで見た覚えがある。思い出せないがそんなに昔ではないはずだ。


 水色の色鉛筆で塗られたワンピースの少女が絵の中で微笑みを浮かべていた……。



 次回に続く。


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