あなたが好きだった紅茶を用意して待ってるわ。【特別編②】
「……ああ、かなり頭が痛いかも。何でこんな展開になるんですかね?」
「さっきからため息ばかりじゃないの。少しは明るい顔を見せてくれないとお姉さんは心配しちゃうな。それにしても宣人くんが神社の社務所に、私を訪ねてきたから最初はとても驚いたんだよ」
「奈夢子さんは平気なんですか? 今夜、僕の妹たちが女の子だけで真冬の肝試しをするなんて。あなたにも迷惑が掛かるかもしれないから、オリザには内緒で僕だけが相談しに来たんですよ!!」
「う~ん、確かにゆゆしき問題よね。わが万代橋家が代々管理している鎮守様の森に怪異が出没するなんて噂が立ったら、参拝客の減少につながりかねないかしら……」
「……な、奈夢子さぁ~ん!! 出るのはお化けですよ。怪異っていうとめちゃくちゃ怖そうじゃないですか。それに久里留神社の心配よりも僕が気にしているのは。オリザをこの森に連れてきて大丈夫なのか? という話なんです」
「あら、宣人くんごめんなさいね。オリザさんについては別に大丈夫よ。あなたに前回、話した内容を彼女に知られなければ、私のことは単なる神社の巫女さんとでも紹介して貰えるかしら」
「なんか妙に軽くないですか。奈夢子さん……」
「宣人くん。オリザさんの前で私たちは出来るだけ明るい顔をしていたほうがいいと思うの。いまの彼女はもとの能力をとても行使出来る状態ではないけれど、犬の優れた能力は侮れないから」
奈夢子さんのいう通りだ。オリザはいま自分の過去を忘れている。それは彼女の持つ特殊な《《さとり》》の能力も完全に封じ込められていることを意味する。僕たちの考えを読まれる心配はないが、犬にだけ備わっている第六感のような感覚で察知される恐れも無きにしもあらずだからだ。事前に奈夢子さんの家に出向いて相談しに来て本当に良かった。
「……それに一度オリザさんには会いたいと思っていたの。私のたったひとりの妹に」
「奈夢子さん……」
やっぱり腹違いの妹であるオリザのことが片時たりとも頭を離れないんだろう。奈夢子さんの表情に一瞬、暗い影が射す。僕はあえて気が付かない素振りをするのが精一杯だった。陰キャな自分じゃなければ気の利いたセリフ一つも相手に掛けられるのに……。
「今夜、オリザをこの屋敷に連れてきます。いまの彼女が……。かりそめかもしれないけど幸せに僕と暮らしている姿を奈夢子さんにもぜひ確かめて貰いたいんです」
「……宣人くん、あなたは。本当にありがとう。オリザさんに会っても私は取り乱したりしないから安心して。妹さんたちの計画している肝試し。その現場に踏み込む前に、ここに立ち寄ってお茶でも飲んでいきなさい。ふふっ、彼女は紅茶が好きだったからぜひ振るまいたいの」
「こちらこそよろしくお願いします。それにしても意外だな。オリザが紅茶を好きだなんて初耳です。おやつや飲み物も甘い物が大好物なんですよ」
「宣人くん、それは記憶を失う前と変わっていないわ。オリザさんの好きな紅茶は甘いミルクティーですもの」
こうして僕は数奇な運命に引き裂かれた姉妹を再会させる一助を担うことになった……。
次回に続く。




