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前略、可愛い子犬を飼うはずが黒髪清楚な美少女とひとつ屋根の下、甘い同棲生活が始まりました。  作者: Kazuchi


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現役女子高生と一緒に可愛い下着選びのお買い物♡ そのいち。

 様し向かいに座る女の子――阿空香菜《あくかな》。いつものボーイッシュな快活さはすっかり陰をひそめ、彼女の瞳には強い戸惑いの色が浮かんでいるのを僕は見逃さなかった。


「……宣人《せんと》さん、どうしてそんなことを聞くんですか!? お姉さんって。私にはずっと兄しかいませんけど」


 こちらから投げかけた質問に香菜ちゃんは明らかに動揺している。意図的に視線を外しているのが何よりの証拠だ。


「いや、香菜ちゃんって天音《あまね》に比べたらお姉さんキャラでしっかりしている印象があるからさ。ほら!! 恒例のお泊まり会、ああ今は作戦会議がメインになってるけど、みんなから出た意見を書記係としてまとめてくれてるじゃないか」


 気まずい雰囲気に陥ると急に多弁になるのは自分の悪い癖だ。相手が沈黙している時間が耐えられないんだ……。案の定、彼女は固く口を閉ざしたまま伏し目がちになってしまった。


「……それがなんで私にお姉さんがいるのか。って質問になるんですか? ごめんなさい、ちょっと宣人さんの言っている意味が分からないです」


「あ、ああっ、兄貴の祐二《ゆうじ》はチャラくて論外だけど、香菜ちゃんがしっかり者なのは他に女の姉妹《きょうだい》がいるのかな? なんて思ったりしたからさ!!」


 我ながらかなり苦しい言い訳に、冬だというのに思わず背筋に冷や汗が流れる。香菜ちゃんのもっとも悲しい記憶を覗いたから、気になって質問しているなんて口が裂けても言えない……。


「……宣人さん、正確に答えるならば女の姉妹は過去に存在しました。としか言えません。ごめんなさい、この話には出来れば触れて欲しくないんです。私以外にも悲しむ人がすぐ近くに存在していますから」


 意を決したように僕に告げる彼女の瞳は涙で潤《うる》んでいるようにみえた。


 これ以上彼女の気持ちに土足で踏み込んではだめだ……。


「香菜ちゃん。ぶしつけな問いかけをしてしまって本当にすまない。誰にでも打ち明けたくない思い出はあるというのに……」


「……宣人さん、そんなに深々と頭を下げないでください。私が弱虫なだけなんです、いまだに過去の出来事を引きずって、中学三年生になってもこんな男の子みたいな格好までして。本当におかしいですよね」


 香菜ちゃんが少しずつ語りはじめる。パズルピースのような断片的な言葉。そのか(・)け(・)ら(・)だけでも深い悲しみの結末が伝わってくるようだ。彼女がボーイッシュな格好を好むのには、そんな切ない意味があったのか。


「香菜ちゃん、僕は……」


 言葉が出なかった。悲しみに暮れる女の子に掛ける気の利いた言葉なんて、僕のうすっぺらい|語彙(ごい)の中には存在しなかった。


「ふうっ、いつか宣人さんには笑って話せる日がくると思います。あっ、大親友の兄貴から先にするかもしれませんけど」


 しばしの沈黙の後に一度大きな深呼吸をしてから彼女は普段の明るい笑顔に戻った。


 笑って話せる!?  その言葉の真意は掴めなかったが兄の祐二がその話に関係しているのは間違いない。


「ああっ、宣人さん、大事なことを忘れてますよ。お兄ちゃんのはじめてのおつかいです!! 早く下着屋さんに行きましょう。ほらちょうどそこに有名なお店がありますから」


 おわあああっ!? 僕はとんでもないお使いを忘れていたぁ!! そのとんでもないミッションは……!?


 【宣人お兄ちゃんのドキドキなはじめてのおつかい。オリザちゃんの可愛い下着ブラパンセット購入の巻《まき》】


 天音の謀略にすっかりはまり、そのふざけたタイトルのお使いミッションを遂行せねば僕は死刑に処されるんだ……。


 死刑とか何やら物騒だが、天音のいう意味はそれに匹敵するくらい鋭い刑罰なんだ。


 罰ゲームにどんな無理難題をふっかけてくるか分からない。一例を挙げるとお泊り会で友達の女子中学生を僕の部屋に連れ込んで天音だけその場からいなくなるとか。


 どこが罰ゲーム!? そんなの美味しいシチュエーションじゃないか、というニキやネキもいそうだが考えてみて欲しい。陰キャな僕が妹の天音を介さず中学生の女の子たちと長時間会話を続けるのがどんなに過酷なのかと!! ある意味死刑よりもツラい地獄の責め苦だ。


 まあ、いまはオリザと個室部屋で同棲中だから、その刑罰じゃないとは思うけど……。


「さあ、宣人さん、ぐずぐずしていないで下着屋さんに急ぎますよ!!」


「ああっ、香菜ちゃん、そんなに僕の手を引っ張らないで!?」


 それ以上身体が接触するのは違う意味で困るんだぁ!!


 なし崩し的に僕は女子中学生と可愛い下着選びをするはめになったんだ……。


「……お~い香菜ちゃん!! やっと見つけたよ、こっちこっち!! あれっ、何で宣人お兄さんが一緒にいるの!?」


 こ、これ以上誰が現れるんだ。もう勘弁してくれぇ……!!



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