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第11話 : 即席の魔術師


「その矢を止められるってことは、ただのガキじゃねぇな… まさか、変装した魔術師か?」


セルダムは目を細め、少年をじっと見つめた。だが、ネロはただ無言で二本の指を立てた。人差し指は一つ目の答え、中指は二つ目の答えを示している。


「一つ、俺は魔術師じゃない。そして二つ、これからお前らは俺が何者かを知ることになる」


その自信に満ちた言葉に、兵士たちは本能的な恐怖を覚えた。一方で、捕らえられていた少女・マリは少年の姿に一筋の希望を見た。彼が敵であれ味方であれ、この連中を倒せるなら、彼女は何も惜しくはなかった。兄や村人たちの仇を討つためなら――。


「魔術師様!」


「どうか…私たちをお救いください!!」


彼女は声を張り上げ、必死に助けを求めた。しかし、その叫びはセルダムの苛立ちを買い、彼はすぐにマリの口を手で塞いだ。


「誰が喋っていいって言った? 黙れ、愚図が!」


だが、その瞬間、セルダムの表情が険しくなった。怒りのまま叫ぶ。


「誰であろうが関係ねぇ! 全員、そいつを殺せ!!」


「了解しました! 将軍殿!」


兵士たちは一斉に応じ、ボウガンを構えた。ネロは冷たい眼差しを向け、口元に薄く笑みを浮かべる。


「――じゃあ、少し遊んでやるか」


「撃てぇっ!!」


号令が下った瞬間、無数の矢がネロへと殺到した。しかし、彼は真正面から受け止めることはせず、一瞬で動き出した。


屋根の上を駆け、圧倒的な速度で飛び移る。兵士たちが放つ矢は、彼の影すら掠めることができなかった。


「な、何だあの速さは!?」


一人の兵士が驚愕の声を上げた。


ネロは地上の兵士たちを見下ろし、勢いよく跳躍した。20メートル以上も宙に舞い、兵士たちは思わず彼を見上げた。


「…そろそろ鬱陶しくなってきたな」


空中で身を翻し、左手を前に突き出す。すると、巨大な黄色の魔法陣が手のひらに出現した。


彼は腕を振るい、大地へと雷撃を解き放った。


――ズガァァァァァァンッ!!!!


雷鳴が轟き、村が激しく揺れる。無数の騎兵が雷に貫かれ、焼け焦げた死体となって倒れていく。周囲の建物も巻き込まれ、無残な瓦礫と化した。


もともと焼き払われ、廃墟と化していた村は、この一撃で完全に崩壊した。生き残っていた村人たちは、その場に膝をつき、声すら出せなかった。


戦場は、一瞬にして黒焦げの死体と化した兵士たちで埋め尽くされた。彼らが身に着けていた鎧すらも、ただの鉄屑となり果てた。


たった一撃――それだけでネロは兵士の半数以上を殲滅した。


「……嘘だろ……」


セルダムはガタガタと震え、冷や汗を流した。その顔には焦燥の色が滲んでいる。自然と足が後ずさる。


だが――彼にはまだ切り札があった!


「フフッ… なかなかやるじゃないか、小僧」


セルドムはそう言いながらも、笑みにわずかな恐怖を滲ませた。


「だがな、俺にはまだ中級召喚士が16人もいるんだ。お前がどれほど強かろうが、これだけの人数を相手にできるはずがない… さっきの魔法でかなりマナを消費しただろう? 今度は俺たちの番だ!」


外見こそ自信に満ちていたが、心の中では恐怖が渦巻いていた。こいつはいったい何者なんだ…?


生き残った兵士たちも、さっきの攻撃に震え上がっていたが、カザス王国の将軍であるセルドムの命令に逆らえる者などいない。もし戦場から逃げれば、待っているのは死刑。それを理解している彼らは、覚悟を決めて剣を握りしめ、雄叫びを上げながらネロへと突撃した。


兵士にとって「勇気」は最高の名誉。しかし、ネロにとってはただの「邪魔者」に過ぎなかった。


「邪魔だな」


ネロはそう呟くと、わずかに手を上げた。


次の瞬間、兵士たちの体が謎の力によって一斉に100メートル以上の高さへと持ち上げられた。彼らは恐怖に震えながら悲鳴を上げる。そして、ネロが手を握りしめた瞬間——


「バキバキッ!」


無数の断末魔が響き渡る。


兵士たちの肉体は強大な圧力によって押し潰され、空中で粉々に砕け散った。血の雨が大地を赤く染め、まるで紅の嵐が吹き荒れるかのようだった。


飛び散った血飛沫は辺り一面を覆い尽くしたが、ネロの体には一滴たりとも触れなかった。彼はバリアを展開し、血の汚れすら拒絶していたのだ。


その光景を目の当たりにした者は誰一人として言葉を発することができなかった。


村人、召喚士、そして生き残った兵士たち… 彼らの目の前にいるのは、本当に人間なのか? たった一瞬で十数人を消し去ったその姿は、まさに—— 悪魔 だった。


「な… 何だ、あいつは…!」


セルドムの顔が青ざめ、全身が震え上がる。彼はこの少年を完全に見誤っていた。


召喚士たちも恐怖に立ち尽くしていた。その中の一人が、ある考えを抱く。


"この少年の正体を確かめなければ"


そう決意した彼は、魔法を詠唱し始めた。


「天の神よ、この者の真の姿を我に示したまえ…!」


詠唱が終わると、彼の両目が金色の光を放ち、ネロのマナの流れを透視し始めた。


しかし——


彼が見た“何か”のせいで、その場に崩れ落ちた。


「ガクガク…!」


召喚士の体が激しく痙攣し始める。白目を剥き、意味不明の言葉を呟き出した。


「…ザラヌス…パスス…カディマル…ラパス…マニク…カラシク…」


「ザラヌス…パスス…カディマル…ラパス…マニク…カラシク…」


何かに取り憑かれたかのように、同じ言葉を延々と繰り返す。


体が硬直し、目の焦点が合わなくなり、最後は激しく痙攣を起こした後—— 静かに息絶えた。


「……な、何が見えたんだ?」


セルドムと召喚士たちは恐怖に凍りついた。彼は“何か”を見て、発狂し、死んだ。


その“何か”とは—— ネロの“力”だったのか?


「愚かだな」


ネロの声が響く。


彼はゆっくりと歩み寄り、冷笑を浮かべた。


「俺の力を覗き見ようとするなんて… 身の程を知れよ」


ネロが嗤った瞬間、残る召喚士たちは背筋が凍りつくのを感じた。


彼は、まるで獲物を見つけた捕食者のように、彼らを見つめていた。


「16人…いや、今ので15人か」


「いいねぇ、どれも中級召喚士ってわけか」


「それだけマナが豊富なら——」


ネロの唇が不吉に歪む。


「遠慮なく、もらわせてもらうよ」


彼の瞳が妖しく光る。


その瞬間、召喚士たちは理解した。


"コイツはただの脅威じゃない—— 災厄 そのものだ"


マリはその場で震えながら、ネロの背中を見つめていた。


彼は… 本当に 味方 なのか? それとも、悪魔 なのか——?


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