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第9話:カザス騎士団


ゴールラン大陸の南部、リビア王国の統治下にあるとある村。


昼下がりの陽気の中、幼い兄妹が家の前で鬼ごっこをして遊んでいた。

二人を優しく見守るのは、頭にスカーフを巻いた素朴な服装の母親だった。


「遠くまで行っちゃダメよ!」


母親が声をかけると、子供たちは元気よく返事をし、石造りの橋を渡って川の向こう側へと駆けていった。

広がるのは、一面に広がる美しい草原。北からの涼しい風がそよぎ、まるで絵画のような穏やかな風景が広がっていた。


草原の中央にそびえる大きな木の下で、兄妹は足を止め、一息ついた。


「ここって、本当に平和だよな、マリ。ずっとこのまま、どこにも行かずに暮らせたらいいのに」


茶色の髪を持つ少年――兄が、木にもたれかかりながら呟いた。

短めの髪を揺らしながら、妹のマリもまた、膝を抱えて遠くの景色を眺めていた。


「でも、いつかはここを出て、外の世界で生きていくんだよ?

 私はね、お父さんみたいに都で働いてみたいな」


「手紙を届ける仕事か? なんか普通じゃないか?

 俺なら絶対、世界で名を馳せる冒険者になるね!」


「すごいこと言うね。でも、お兄ちゃん、魔法使えないじゃん?」


「そんなの関係ないさ! 魔法が使えなくたって、努力すればなんとかなるって!

 お父さんも言ってたよ、『生まれつき才能がある奴なんていない』って。

 俺は必ず強くなって、お前を守るから!」


少年は自信に満ちた声でそう宣言した。

夢は大きいほど良い――子供の頃なら、誰もがそう思うものだ。


だが、この世界では、魔法こそが全てを支配していた。

生活においても、仕事においても、夢を叶えることにおいても。

魔力を持たぬ者は、どれだけ努力しようとも、生まれながらの才能を持つ者には敵わない。


「努力しない天才が、努力する凡人を超えていく」

それは残酷な現実だった。


だが、なぜか――成功を掴むのは、いつだって最後まで諦めなかった者なのだ。


「そろそろお昼の時間だし、帰ろうか」


少年は立ち上がり、妹に手を差し出した。


――!


その瞬間だった。

背後から、鋭い何かが猛スピードで飛んできた。


ズブッ!!


矢の先端が、少年の胸を貫いた。


小さな体が硬直する。目を大きく見開いたまま、ゆっくりと自分の胸元を見下ろした。

そこには、鮮やかな赤が滲む矢じりが突き刺さっていた。


「マリ……に、げ…」


かすれた声でそう言いながら、少年は妹を振り返ろうとした。


ヒュンッ!


ズブッ!!


――次の瞬間。


二本目の矢が、少年の額を正確に射抜いた。


「お兄ちゃん!!!」


少年の体は、その場に力なく崩れ落ちた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


少女は絶叫しながら、兄の亡骸へと駆け寄った。

大きな瞳から涙があふれ、頬を伝い落ちる。


「うそでしょ……? お兄ちゃん……!」


細い体は震え、嗚咽が漏れた。


その泣き声は、静かな草原に響き渡っていった――。


「おおっ!さすがサー・ドム!相変わらず正確な射撃ですね! まあ、一発目は頭を外しましたけど!」


「黙れ、ビルキン!わざと狙いを外したんだ。あのガキに逃げるチャンスをやろうと思ってな……。だが少し高く狙いすぎたか……。いや、単に子供を撃ったのが初めてだっただけかもしれんな!ハハハハ!」


罪悪感の欠片もない笑い声が、少女の背後から響いた。

彼女は絶望に満ちた瞳で振り返る。


そこには、黒い鎧をまとった騎兵隊が100騎以上も整列していた。


その中の一人が、濃紺の旗を掲げていた。そこには金色の猛牛の紋章が描かれている。


――それはすなわち、恐怖による支配を敷くカザス王国の軍勢であることを示していた。


クロスボウを構える男は、見るからに粗暴で冷酷な顔をしていた。

彼は黒い鎧の上に白い羽毛のマントを纏い、逞しい筋肉を誇示するような体躯をしていた。


彼の名は サー・ドム・カリスマ。

カザス王国第14騎兵隊の隊長。


そして今、彼は騎兵83名、黒衣の召喚術師16名とともに、ここにいた。


彼らの目的は明白だった。


――リベリア王国への明確な宣戦布告。

そして、大ダンジョンの占領。


カザス王国とリベリア王国は、昔から決して友好的な関係ではなかった。

カザス軍は長年、侵攻の機会を伺っていたが、容易に行動できる状況ではなかった。


その理由は、ノア王国が両国の間に立ちはだかっていたからだ。


しかし、最近になってノア王国がオークの問題に追われているという情報が入った。


カザス軍はこれを好機と見て、ついに動き出した。

そして、その侵攻の第一歩として選ばれたのが、この村だった。


「泣くなよ、お嬢ちゃん……」


サー・ドムは邪悪な笑みを浮かべた。

舌で唇を舐めながら、12歳にも満たない少女の体を舐めるように見つめる。


「肌が綺麗だな……これなら王国の貴族たちに売れば、高値がつくだろう」


彼は低く笑い、無慈悲な声で命令を下した。


「傷をつけるなよ。売り物にならなくなるからな。捕えろ。」


そして、振り返りながら、他の兵士たちにも命令を続ける。


「残りの村人どもは……好きに暴れろ!」


邪悪な笑みを浮かべたまま、冷徹に付け加えた。


「反抗する者は殺せ。女は全員捕えろ。ただし年寄りは除外だ。」


「さあ、行くぞ!!」


轟くような命令の声。

そして、それに呼応するように上がる兵士たちの歓声。


次の瞬間、黒鎧の騎兵たちは一斉に馬の手綱を引き、村へと突進していった――。


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