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偶然の運命  作者: 柏木椎菜


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十一話

「賭場の再開に、乾杯!」

 真新しい賭場の真ん中、小さな机を並べ、家族だけでのささやかな祝いの場。俺は掲げた酒を皆のコップにぶつけて喜びを表した。

「アレク、強くぶつけんな。酒がこぼれるだろが」

 マキシムが迷惑そうに言ってきた。

「悪い。修理作業からやっと解放されると思うと嬉しくてさ。もう腕がパンパンだったから」

「大分日数がかかったからな。俺も肩が凝っちまった」

 親父は肩をほぐすように腕を回しながら酒を飲む。

「でも日数がかかった分、前より綺麗な雑貨屋と賭場に生まれ変わったんじゃない? 前は暗くて薄汚かったから、一新できたのは唯一いいことだね」

 お袋もコップを傾けながら笑顔で話す。

「これがベルトロ一家の結束力よ。皆の力が合わさった結果、いいものが生み出せたんだ。フェリシティも、わざわざ資材を調達してくれて助かったよ」

 親父が礼を言うと、フェリシティは謙遜して言う。

「もっと助けになれればよかったんだけど、私達はこんなことしかできないから。困った時はお互い様なんだし、礼なんて言わないで」

「私達を助けてくれたのは事実なんだ。素直にありがとうって言えばいいんだよ。あんたは本当控え目な娘だね」

 お袋に小突かれてフェリシティは照れたように笑う。

「でも、役人には目を付けられないの? 聞いた話じゃ、かなり大暴れされたんでしょ?」

「ああ、それなら心配ないよ。役人の首には、この人ががっちり紐を付けてるからね」

「紐って?」

 首をかしげたフェリシティに、親父は指で金を表す仕草をして見せる。

「なるほど。賄賂ってやつね」

「ここの役人は俺達の金なしじゃもう満足に暮らせなくなってる。だから今回の騒動は酔客同士の喧嘩で片付けてくれたようだ。賭場を探られることはないから安心しろ」

 親父はこういうところに抜け目がない。おかげで俺達は平和に賭場を開けるわけだ。

「さすが一家の長。……でも、そもそもなんだけど、襲って来たのはグルーシー一家なんでしょ? 一体何が目的だったの?」

「そう言えば、そっちのほうはどうなったんだ? マキシムだろ? 探り入れてるの」

 俺が聞くと、マキシムは思い出したように言う。

「ああ、お前にはまだ言ってなかったな。親父とお袋にはもう話したけど、一応やつらの目的はわかった」

「え? わかったのか?」

「向こうの中堅とっ捕まえて、どうにか吐いてもらった。で、目的は俺達を潰すことじゃなく、金だったみてえだ」

「金? 賭場の売上を奪う気だったのか?」

「違う。報酬のためだ」

 何だか話が見えない。

「報酬って、何の」

「俺達の店を襲うことが、報酬を貰う条件だったんだと」

「誰に貰うんだよ」

「条件を出したやつに決まってんだろ」

「そいつは誰なんだよ」

「女の占い師らしい」

 占い師? ますます話が見えないんだけど……。

「じゃあ、その占い師が、グルーシーのやつらを金で雇って、俺達を襲わせたってこと?」

「話を信じればそうだな」

「依頼した占い師って誰なの? 知ってる人?」

 フェリシティが首をかしげながら聞く。

「名前だけなら前に聞いたことがあるやつだ。ルシール・ジュノー……聞いたことねえか?」

 確かに聞き覚えのある名前だ。何年も前に、城下でよく当たる占い師がいるってかなり話題になってた記憶がある。その占い師の名前がジュノーだったと思う。でもいつの間にか話にも聞かなくなってたな。

「城下じゃ結構な有名人だったよな。今はどうしてるかも知らないけど」

「今は王家お抱えの占い師になって、城で暮らしてるって話だよ」

 お袋が横から教えてくれた。

「へえ。城下から城暮らしか。すごい出世だな」

「そんな幸せな人が、何でここを襲わせたりするの? 理由がわからないけど」

 俺もさっぱりわからない。ベルトロ一家とその占い師が揉めたなんて聞いたことないし、関係は少しもないはずだけど。

 すると親父が腕を組みながら言う。

「俺も話を聞いた時は首をひねるしかなかったが、よく考えりゃ、占い師は王侯貴族に使われる立場だ。そういうやつらに頼まれて、断り切れず、代わりに依頼したのかもしれない。でなきゃ本人が俺達を襲う理由なんざないだろ」

「そうだとして、貴族達にはここを襲う理由があるの?」

「表じゃあまり知られてないが、一部の貴族に西地区の安い土地を買い漁ろうとする動きがある。住人を立ち退かせ、そこで何かしら事業を始めたいようだが、当然住人達の反発を買って話は今止まってる。諦めたか定かじゃないが、そうでないなら標的や手法を変えて強引に奪いに来てもおかしくないだろ」

「まあ、金と力と権力を持ってるやつは、そういうやり方が得意だと思うけど、だからって俺達の店を襲うか? ここでベルトロの名前を知らないやつなんかいないのに」

「貴族が絡んでるのか、本当のところはわからない。これはあくまで推測だ。わかってるのは、ジュノーって占い師がグルーシー一家に金を払って襲わせたらしいってことだけだ」

 襲撃の黒幕は占い師と考えていいのか? それとも親父の推測のように、占い師を使ってるやつが後ろにいるのか――

「なあマキシム、占い師は直接依頼に来たのか?」

「いや、依頼しに来たのは本人じゃねえ。代理人を名乗る男達だったって」

「じゃあ占い師は顔を見せてないのか? それでよく信じて引き受けたな」

「前金を貰ったから信じたんだろ。二人組の男がジュノーの名前を出して交渉に来て、襲撃後もそいつらが報酬を渡しに来たらしい」

「……二人組の、男?」

 この言葉に、俺は反応するようになってしまった。何度も会い、目撃した、あの追い剥ぎの二人組――そう言えば襲撃の日も、あいつらを見たよな……。

「その二人組、誰なのか調べたか?」

「そうしようと思ったが、何せ情報がなさ過ぎて調べようがなくてよ……聞いたのはひげと坊主の容姿だけだ。そんなやつ、そこいら中にいるからな」

 俺の中で何かがつながった気がした。あの追い剥ぎ、やっぱりただの追い剥ぎじゃなかったんだ。あいつらは占い師と関係があり、代わりに襲撃を依頼した。その占い師は城で暮らし、王侯貴族に気に入られ使われてる。エリーはそんな貴族側の一人で、そしてあいつらはエリーを襲い、付きまとってる――これが偶然のはずがない。何がどうつながったのか、具体的にはまだわからないけど、あいつらがエリーに今も何かしようとしてるのは間違いないだろう。でなきゃ襲撃現場に姿を見せたりしない。あの時、あそこにはエリーもいた。手こそ出してこなかったが、何かたくらみを持ってるはず……エリーが、危ないかもしれない。

 皆はグルーシー一家への対応と、依頼した人間を捜すべきか話し合ってたけど、俺はまったく聞いてなかった。エリーのことで頭がいっぱいで、どうにか助けられないかずっと考えてた。でも教えるにもこっちには長いこと来てないし、伝えに行くにもどこにいるかわからないし、だからって放っておけばエリーの身が危なくなるかもしれない……俺はどうしたらいいんだろうか。

「――おい、アレク!」

 親父の呼び声にハッとして俺は顔を上げた。

「え、何?」

「金槌振り過ぎて疲れてんのか? 何ぼーっとしてんだ」

「あ、ちょっと考え事してた。で? 何か話、まとまったの?」

「話はとっくに終わったよ。酒もなくなったからお開きだ」

 机の上を見れば、空になった酒瓶とコップが並んでた。まだ酒が入ってるのは俺のコップだけだった。結構な時間、俺はエリーのことを考えてたらしい。

「雑貨屋と賭場の本営業は明日からだよ。疲れてるならちゃんと休んでおきな」

 お袋が空き瓶を片付けながら言った。

「おばさん、私も片付けるわ」

 フェリシティが手伝おうとしたのを、お袋は手で制する。

「大丈夫よ。こっちは男どもにやらせるから。それよりフェリシティは早く宿に帰りな。明日の早朝にはここを出るんだろ?」

「そうだけど、私も一緒に飲んだんだし、片付けぐらい――」

「そんな気遣い、いいから。もう十分助かったよ。フェリシティも疲れてるだろ? 休んで明日に備えな。……アレク、あんたそんなに酔ってないでしょ? 彼女送ってやんな」

「うん、わかった」

 俺が椅子から立ち上がると、フェリシティは俺に近付いて来て言った。

「いいってば。宿まで遠いわけでもないんだし」

「でも深夜だし、女を独りで歩かせるわけにはいかないよ。それに……送れば俺、片付け手伝わなくて済むからさ」

「え? そういう理由なの? がっかりね」

 呆れながらも微笑む彼女に、俺は笑って見せた。

「まあまあ、俺のためと思って送らせてよ。……じゃあ行って来る」

 お袋に言って俺達は賭場を出た。

「……お酒のせいか、夜風が気持ちいいわね」

 星が点々と見える夜空。普段なら賭場の営業時間で、道には客や酔っ払いがたむろして騒がしくなってるが、修理作業中だった最近はそんな人影も消えて、静けさだけが辺りに広がってる。緩やかな風に吹かれながら、俺達は並んで歩き出した。

「わざわざ来てくれて、ありがとな」

「大変な時に駆け付けるのは当たり前のことよ。アレクも、こっちが大変だったら来てくれるでしょ?」

「そりゃそうだけどさ……大きな借りができたな」

「別に大きくもないし、借りでもないって。それでもって言うなら、またこっちに来た時に何かご馳走でもしてくれればいいわ」

「そんなんでいいのか?」

「そんなんでいいわ」

 フェリシティはニコッと笑う。それに俺も笑みを返した。

「……何か、悩み事?」

「え? 急に何?」

「だって、笑っても暗い感じだから……賭場で皆と話してた途中から黙り始めて、ずっとそんな感じに見えるけど」

「あ、ああ、そうか……」

 考え込んでたのを見られてたか……。

「私でよければ相談に乗るけど?」

 フェリシティは興味ありげに俺の顔をのぞき込んでくる。まあ、彼女は口が軽いってわけでもないし、話してみてもいいか。

「……ちょっと、心配なことがあってさ。少し前まで、俺に会いに来てくれてたエリーって娘がいて、その娘に怪しいやつが付きまとってるんだよ」

「へえ……その娘、アレクのことが好きなの?」

「そ、それはないと思う。エリーは貴族の娘だから……多分、興味本位で遊びに来てるだけだ」

「ふーん、それで?」

「その怪しいやつなんだけど、何かたくらんでることは間違いないと思うんだ。だからエリーに注意しろって教えたいんだけど、彼女はもうここには来てなくてさ」

「教えたくても教えようがないってこと?」

「そういうこと。どこに住んでるかも知らないし、俺なんかが中央地区に入れてもらえるとも思えない。捜しようがないんだよ。こっちが考えてる間に、もしあいつらがエリーを傷付けたらと思うと、じっとしてられなくて、どうすればいいのか……」

 フェリシティは考える素振りを見せると、足を止めて言った。

「あのさ、もしかして、あの娘がエリーだったりする?」

「……え?」

 何を言ってるのかと目で問えば、フェリシティは後ろを見て、その視線である場所を示す。何かあるのかとよく見てみると、ぼろい建物の壁の向こうに動く人影があった。身を隠しながらこっちを見ようとしてるらしかったが、はっきり言って隠れられてはいない。そのおかげで顔も確認できた。

「……エリー? エリーなのか!」

 驚いて名前を呼ぶと、向こうも驚いたのか、全身を小さく跳ねさせ、今さら壁に身を隠す。その反応から俺は確信した。そこにいたのは会いたかったエリーだった。

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