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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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忘れる事などできない part1

 アーサーたちが箒に乗ってドーバーを渡り、ウォルズリー城に帰り着いたのはその日の夕方だった。

 城の中庭にふわりと降下しながら、ヘンリーがぼやく。

「あっという間にイギリスまで戻ってこれたな。いやはや、何とも大変な一日だった」

 空から魔女姿のノーラが箒で降りてきたのを見て、フローレンスの様に長年城勤めをしているものは久しぶりにいいものが見れたと縁起物扱いをして喜び、若い使用人たちは伝説の魔女の姿に見とれていたのだが、

 意識のないアーサーの姿を見て、またもやみんな悲鳴をあげ集まって大騒ぎしているのをノーラが一喝した。

「あんたたち、心配し過ぎ!今回は疲れて眠ってるだけだから!

 みんな解散!仕事場に戻りなさい!」


 アーサー付きのメイドであるフローレンスだけが、ヘンリーが眠ったままのアーサーをベッドに運ぶのを付き添い手伝った。

 そのままそばにいて看病したいと言い張るのを、白猫姿に戻ったノーラが改めて説教とともに追い払った。


「なあ、医者を呼ばなくてもいいのか?」

 ピクリとも動かないアーサーを見ながらヘンリーが心配そうにノーラにたずねる。

「前回のメリッサの時の様に直接攻撃を受けたわけじゃないし、あれだけ強力な魔法を一度に使ったから疲労困憊なのよ。

 まあ、よく眠れば大丈夫よ」

 まるで、ちょっと激しいトレーニングをした選手に接するコーチの様に、ノーラはことも無げに話す。

「……あんたがそう言うなら、まあ」

 ぐったりとしたアーサーの横顔を見つめながらヘンリーは考えていた。

『あの結界とやらから出てきてからの変化。あれはなんだったんだ?あの中で、一体何があったんだ?』


「ノーラ様、よくお戻りになられました。

 ご無事でよろしゅうございました」

 ガウン姿のレスターが寝室から駆けつけ、ベッドのアーサーの姿をちらりと確認する。

「アーサー様は、大丈夫ですか?」

「ホントにだーいじょうぶだって!あんたたち、親子揃って心配性ね!」

 ふんっと、呆れた様に鼻を鳴らしてノーラが答えた。

「……そうですか。ノーラ様、お茶はお持ちしなくてもよろしいですか?」

「レスター、あんたまだ傷が完全に治ったわけじゃないんだからね。

 人の心配してる場合じゃないでしょう?

 とっとと寝なさい」

「ノーラ様……執事としてそういう訳には参りません。しかしいったい何が」

「まあ、朝になってアーサーが目覚めたら聞くとしましょう。あたしも疲れたわ」


「ぼく、見ちゃったんだ」


 全員がぎょっとして振り返ると、アーサーが目を覚まして、上体を起こしうつむいたまま話しだした。

「アーサー君、見たって何を?」

 しばらく沈黙した後、アーサーはゆっくりと喋り出した。


「あの森で、あの子と結界の中に入った時。

 ぼく、全部見たんだよ。

 昔、あの村、あの場所で、何があったか。

 あの子……ミヒャエルは、魔女の弟だったんだ。

 お姉さんが捕まったのを心配して

 街に行ったんだけど、悪い連中に

 後を尾けられて村がばれちゃったんだ。

 魔女狩りの連中や街の人たちが

 あの子を人質に取って、

 酷い拷問をして、村の人たちを捕まえて。

 それで、

 それで……」


 アーサーの両手がシーツをしわくちゃに

 握りしめて、小さく震えてる。

「なんで、あんな、あんな酷いこと…!」

 勝手がわからないヘンリーはとまどいながらアーサーに声をかける。

「アーサー君……その村は魔女の村で、それは……魔女狩りだったんだろ?

 確かに酷いことが行われたとは思うけど」


 顔を上げたアーサーを見て、ヘンリーはギョッとした。

 その表情は、今まで見たこともない、怒りとも、理解してくれないことへの絶望のようにも見えた。

 再びうつむいたアーサーの肩が震えている。

「……いくら!相手が魔女だからといって!

 あ、あんな事が許されていい訳ない!!」


 絞り出す様なアーサーの叫びが部屋中に響いた。


「あんな、あんなこと!

 に、人間のやる事じゃない!

 大人も!

 子供も!

 男の人も!

 女の人も!

 たくさん、たくさん酷い事をされて、

 みんな!みんな!みんな殺されて!」


 そこまで話すと、両手で顔を覆い、堰を切ったように大声で泣き出した。


「あの時、あの子の記憶が、

 全部ぼくの中に入ってきたんだ!

 痛みも!

 苦しみも!

 悲しみも!

 全部!

 もう……れる事なんてできないよ!」


 アーサーは声をあげて泣き続ける。


「アーサー、落ち着いて」

 ノーラがゆっくりと諭すように話す。


 涙と鼻水でくしゃくしゃの顔を上げて、

 みんなを見つめアーサーは話し続ける。


「みんな……みんな言ってたよね?

 あの魔女は悪いやつだ、

 倒さなきゃいけないって。

 みんなが…不幸になって、

 世界が大変なことになるって

 言ってたよね!?」


 嗚咽でしゃくりあげながらも声を絞り出して話し続ける。


「ぼくもう解らないよ。

 本当に悪いのはだれ!?

 自分の、大切な家族や友だちに、

 あんな事されたら!

 人間なんて!

 復讐されて!

 殺されて当然だよ!」

「そういうことを言うのは止めなさい、アーサー」

「……え、ノーラ。

 あの子も救えなかった。

 約束したのに!

 友だちなのに!

 あの子はまだ、

 あの黒い森の中で

 独りぼっちでさまよっている。

 ぼく、何にもできなかったんだよ。

 ノーラ」


 声をあげて泣き続けるアーサーを、

 皆、ただ黙って見守るしかなかった。

 しばらくして,泣き疲れたアーサーが眠りについたのを見計らって、ヘンリーがノーラに声をかけた。

「なあ、ちょっと話があるんだけど、いいか?」

「……いいわよ、場所を変えましょうか」

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