惨劇の村 part3
「アーサー君!」
ヘンリーはとっさに爆風から身を伏せながら絶叫した。
タイガー戦車から物凄い爆音とともに放たれた砲弾はアーサーを直撃し、あたり一面が見えなくなるほどの真っ白い瀑煙があがった。
ヘンリーとノーラがあまりの衝撃に息を呑んでいると、徐々に視界が晴れてきた。
「……おい!あれは!」
地面が深くえぐれ、周囲は焼き尽くされているのに、無傷のアーサーが立っている。
よく見るとアーサーの髪が逆立ち、瞳が真っ赤になって体全体がぼんやりと光っている様に見える。
「まさか、あの子……」
「白猫姉さん、あれって何だ?なんで無事なんだ?」
「アーサーの周りに強力な結界が張られているわ」
「あの子、そんなことができたのか?」
「あたしも初めてみたわよ!あんなの教えたこともないのに」
「とにかく無事なんだな?でも、いったい、どういう事なんだ…」
ヘンリーとノーラが唖然とする間も、アーサーは呆気にとられた様に固まっている戦車隊の方へどんどんと向かっていく。
「あ、おい!アーサー君!」
アーサーはゆっくりと右手を真上に上げた。
「今度は何だ、何が始まるんだ?」
その時、二人はアーサーの上空に急速に分厚い雲が集まりだしたのに気がついた。
「一体、何が始まるってんだ⁈」
アーサーが掲げた手をまっすぐに戦車隊に向けて振り下ろすと、分厚く膨れ上がった雲から巨大な雷が先頭の戦車を直撃し、凄まじい衝撃に轟音と共に吹き飛んだ。
慌てた様に二台目、三台目の戦車砲が立て続けにアーサーに向けて火を噴くが、当たる直前にすべて弾かれてしまう。
アーサーが立て続けに二度、三度と繰り返すと雷は残った戦車にも直撃し、みな空中に浮き上がったと思うと爆発してしまった。
ヘンリーが唸った。
「こいつは……とんでもない力じゃないか。あの子の魔法ってこんなに凄いのか!
これなら連中と戦うのも……」
言いかけたところで、さらに雷が降り注ぎ、戦車の残骸を木っ端微塵にした。
アーサーは機械の様に腕を振り下ろし続け、その度に周囲の木々は根元まで真っ二つに裂けて吹き飛んだが、攻撃は止まらず、
アーサーは手を緩めることなく辺り一面に雷を落とし続ける。
「おいおい、流石にヤバいぞ。この辺りの森が全部焼け野原になってしまう」
「アーサー、ダメ、止めなさい!」
「アーサー君、もういい、もう終わったんだよ!」
二人の叫びが届いたのか、アーサーはこちらを振り返ったが、その目は虚ろで意思の光を感じさせない。
アーサーは二人の方を向いたまま、すーっと手を天空に向けて差し伸べた。
「おいおいおい待て待て待て待て!」
「ヘンリー、離れるわよ!」
二人が必死に車を離れ木陰に飛び込んだ瞬間、雷が直撃しメルセデスは空中高く舞い上がると爆発してしまった。
「あちゃー!こりゃあまたボスに大目玉くらうなあ。あれ凄え高いんだよな」
「そんなのんきなこと言ってる場合じゃないでしょう!」
「しかし何だい、あの子は訳が分からなくなってるのか?」
「その様ね。無意識に周りのすべてを敵と判断して攻撃し続けているわ」
「で、姉さんどうする?このままだと俺たち、ここから歩いて帰らないといけないぜ?と言うか、この森から生きて出られる気がしないんだがね」
「あーもう、仕方ない!」
ノーラがぼやきながら、呪文の詠唱を始め、光に包まれたかと思うと見る間にその姿を変えていく。
ヘンリーが感心して見つめる中、ノーラはアーサーの母親のアンに変身していった。
「太郎、もう止めなさい!いいの、もういいの。止めなさい!」
その声が聞こえたのかアーサーの動きが止まった。
こちらを振り向くと、アーサーは真っ赤に染まった瞳から涙を流し続けている。
「………………」
何かをつぶやくと、膝から崩れ落ちゆっくり地面に倒れ込んでいった。
「今のうちよ。アーサーを連れて逃げるわよ!」
「ええ?逃げるって、どうやって?」
「……あんたに、魔女のとっておきを見せてあげるわ」
ノーラは白装束の“はじまりの魔女”の姿に変身すると、今度は長い杖を掲げて呪文の詠唱を始めた。
「我“はじまりの魔女”ノルディア・ブラウンが
精霊の名において汝に命じる。
万能の杖よ、天翔ける翼を持つ
風纏いの箒へとその姿を変えよ!」
光に包まれたと思うと見る間に杖は箒へと姿を変え、ノーラは伝統的な魔女のイメージそのままにまたがった。
「ヘンリー、何してるの?一刻も早くここから帰るわよ」
「ああ、ちょっと待ってくれよ。手ぶらで帰るわけにもいかないんで、本部にちょっとお土産をね」
アーサーを肩に担いだまま、ヘンリーはそこら辺り一面に飛び散った戦車の部品をポケットに詰め込めるだけ詰め込んでいた。
「しかし、魔女って本当に箒に乗るんだな、感動したよ。記念写真が欲しいところだな」
「馬鹿なこと言ってないで、あんたも早く乗るのよ!絶対に箒から手を離さないでね」
ヘンリーも恐る恐るまたがってみるが、アーサーを担いで片手で細い箒を持つのは不安定極まりなかった。
「姉さん、このままだとちょっと不安定なんで抱きついていいかい?」
「しょうがないわね。あんた、余計なとこ触ったりしたら突き落とすからね?」
「……ちょっと位、ダメ?あ、ウソウソ!」
「じゃあ、行くわよ!」
次の瞬間、三人を乗せた箒は一気に空高く舞い上がると、滑る様にイギリスの方角へ向けて飛び立った。
「こりゃあ想像以上の速さだな!これなら最初からドイツまで飛んでいけばよかったんじゃないのか?」
ヘンリーはアーサーを膝の上に乗せてまたがり、後ろからノーラの腰を強く抱いて密着しながら話しかけた。
「これはこれで結構疲れるのよ。ところであんた、ちょっとくっつき過ぎよバカ!」
「すまない、高所恐怖症でね。せめて楽しい思いをして、怖さを忘れたいんだよ」
「本当に調子狂うわね、あんたといると」
「ところで、アーサー君の…あの凄まじい力はいったいどう言う事なんだ?」
しばらくの沈黙の後、ノーラが口を開いた。
「……覚醒よ」
「覚醒?」
「あの森で経験した事が引き金になって、今まで眠っていたあの子の本当の力が覚醒したのよ」
「経験って、あの森で、あの結界とやらに入ったことぐらいだろう。いったい何がおこったんだ?」
「……さあね。そんな事、あたしにもわかんないわよ」
またしても沈黙の後、ヘンリーが口を開いた。
「あのさ……もう一ついいかい?」
「何よ、もう。まだなんかあるの?」
「その格好も悪くないんだけどさ、今度私服で一回デートしない?」
「……あんた、今度口開いたら本当にドーバーに突き落とすからね!」




