惨劇の村 part2
アーサーが結界の中に入って小一時間がたった。
ヘンリーはアーサーが消えたあたりを手で探る様な動きを繰り返すが、何も感じ取れずに苛ついている。
「本当にこの先に何かあるのかい?何にもないぜ」
「遅いわねえ、何をやってるのかしら、あの子は」
ノーラとヘンリーが心配していると、何もない空間からゆっくりとアーサーが現れた。
「何やってたの、心配するじゃない。…ちょっとあんた、大丈夫?」
アーサーは真っ青な顔色に視線も虚ろな状態で、ヘンリーの腕の中に倒れ込んだ。
「おい、アーサー君!」
「アーサーしっかりして!」
「とりあえず車に戻ろう」
アーサーを抱きかかえ車に戻ろうとする二人の前に、人影が立ちふさがった。
「英国情報部、ヘンリー・レスターさん御一行ですね?
ドイツ国家保安警察です。ご同行いただけますか」
軍服姿の二人の男が、訛りのない完璧な英語で話しかけてきた。
「……何を言ってるのかわからないなあ、僕たち単なるイギリス人旅行者だけど、人違いじゃないかい?」
言ってるそばからもう1台の車がやってきて止まり、さらに二人の男が降りてきた。
ヘンリーは表情に出さずに状況を分析していた。
『計四人か、こいつはちと厳しいな。さてどうしたものか』
「……大人しくご同行いただくほうが、お互いの利益にかなうと思いますが」
「うーん、そうだな。その前にこの子を車に降ろしてもいいかい?」
四人の男たちは城に現れた双子のメイドと同じ様に、息の合ったタイミングで顔を見合わせるとうなずいた。
「かまいません」
「そうかい?悪いね」
アーサーをゆっくり助手席に座らせると同時に、上着から銃を引き抜き男たちに突きつけた。
「はい、動くなよ!今から抜いても絶対間に合わないからな。
こちらとしても、英独関係にいらないもめ事を起こしたくはないんだよ」
しかし、男たちは無言で距離を詰めてくる。
「おいおい、命知らずはケガの元、止めておいた方がいいぜ?止まれ!おい、止まれってば!」
まったくの無反応で、退くことを知らない様だ。
「ちっ、仕方ない!」
ヘンリーは素早く先頭の男の膝を撃ち抜いた。
だが男は撃たれた膝をちらりと見ると、そのまま近づいてくる。
「……何だよ、こいつらまでそうなのか?」
男たちは、唸り声をあげながら、軍服を引き裂くと、巨大な熊のような姿に変貌した。
「ヘンリー、この連中もメリッサやあのメイドと同じで、魔女の眷属よ」
「その様だな。まさかドイツの正規軍まで魔女の支配下にあるとはねえ。ま、そういう事なら話は別だ!」
ヘンリーはスボンの後ろに手を伸ばすと、腰に挟んでおいたクイントン特製の弾丸が込められた愛用のエンフィールドを取り出し素早く撃ち込んだ。
撃ち込まれる度に怪物は断末魔の様な悲鳴をあげ、悶え苦しんで倒れていく。
「こいつは効くだろう?MI6武器部オリジナルの弾だ。高いから三下相手には使いたくなかったんだがね」
素早いモーションで銃を連射しながらヘンリーが叫ぶ。
「バカな事言ってないで、今のうちに逃げるわよ!」
「オッケー、長居は無用だな」
だが運転席に乗り込んだヘンリーとノーラは、前方の森の中から見た事のない巨大な車両が三台、地響きを立てて現れたのに気づいた。
「おいおい嘘だろ、噂には聞いていたけど、もう完成してたってのかよ」
それは後のヨーロッパ戦線で連合国を震え上がらせる事になるナチスが開発した重戦車、ティーガーIのプロトタイプだった。
キュルキュルキュルキュル。
先頭車両の75ミリの主砲がゆっくりと狙いを定めると、ものすごい轟音とともに、砲弾を発射した。
「!!!!!!!!!」
ノーラたちの車のすぐ横をかすめた砲弾は、背後の森を跡形もなく吹き飛ばした。
「ちょっと何なのよアレ!とっとと車出しなさいよ!」
ヘンリーは首を横に振った。
「逃げ出したくても、あれだけの長距離戦車砲、それも三台に狙われたら逃げ場はないよ」
気を失っているアーサーを挟んで二人のやりとりが続く。
「じゃあ何、むざむざ捕まるしかないってわけ?」
「姐さんだって木っ端微塵で人生を終えるのはイヤだろう?ここはとりあえず仕方ないだろう!」
「捕まって拷問されるのも、まっぴらよ!」
“拷問”と言う言葉が出た瞬間、アーサーの身体がビクッと反応した。
『拷問?また?拷問は、もういやだ!』
それまで意識を失っていたアーサーが急に目を覚まし、ドアに手をかけた。
「ちょっとアーサー、あんた何やってんの、出ちゃダメよ!」
「アーサー君、危ないからやめろ!」
アーサーは二人の呼びかけに一切返答せず、まるで何かに取り憑かれたかのように車を降りるとまっすぐに戦車隊の方へ向かって行く。
「馬鹿野郎、戻れ!」
「アーサー戻って!」
ヘンリーがドアを開け駆け寄ろうとした瞬間、戦車砲が火を噴いてアーサーを直撃した。




