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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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惨劇の村  part1

 ハア、ハアッ、ハアッ。

 ニナの弟・ミヒャエルは、人間の街で聞いた捕えられている姉の行方について、村の大人たちに相談しようと急いで黒い森に戻ってきた。

 ずっと走りっぱなしで、足も肺も痛むが、そんなことを気にしている余裕は今のミヒャエルにはなかった。

「ニナ姉様のことを、みんな心配している。早く知らせないと」


 森の奥深く、ニナが作った結界で見えなくなっている村の場所まで来ると、木陰にある秘密の出入り口から入ろうとした瞬間、誰かに腕を掴まれ、力づくで引き戻されてしまった。

「よう、坊や。ここまで案内、ご苦労様だったな」

 振り向くと、街で会った親切な人間たちと、武装した沢山の人間がいた。


 にやりと笑う男の顔を見て、ミヒャエルは初めて自分がだまされ、村の場所まで尾けられていた事に気づいた。

「さてと。俺たちには皆目わからないんだけど、この辺りにおまえら魔女の村があるんだろ?

 ひとつ案内してもらえると助かるんだがな」

 今更ながらにミヒャエルは、自分のうかつさを後悔した。

『ぼくが信用したばっかりに、悪い人間を連れてきてしまった。村のみんなを巻き添えにするわけにはいかない』

 ミヒャエルは人間たちの問いかけに一切答えず、下を向いて黙りこくったままだ。

「なんだぼうや、協力してくれないのか。残念だなあ」

 固く口を閉ざすミヒャエルを見た男は小さく笑うと、懐から家畜の腹を裂くのに使うナイフを取り出し、

 いきなり何も言わずにミヒャエルの右腕に突き刺した。


「ぎゃあーーーーー!」

 絶叫とともにミヒャエルは泣き叫んだ。あまりの痛みで体がひどく痙攣し、膝から崩れ落ちそうになるのを男が腕を掴んで離さない。

「どうだい、協力してくれる気になったか?」

 男は笑いながら、傷口をえぐるように突き刺したナイフをまわす。

「ぎゃああああああ!いやいやあああ!」

 泣き叫びながらも、ミヒャエルが何も喋らないのを見ると、男は周りの森に向けて叫んだ。


「おい魔女ども!おまえら見てんだろ?早くしないとこのガキがどうなっても知らないぞ?

 次は耳がいいか?それとも目か?お前らが出て来るまで、好きなだけこいつを切り刻んでやるぞ!」

 その時だった。

「やめろ!子供を離せ人でなしども!」

 怒りに震えるエミールが、クワを片手に結界から飛び出してきた。

 大量の出血で青ざめた顔で、大粒の涙を流しながらミヒャエルが必死に叫ぶ。

「来ちゃダメ、エミール!みんなも出てこないで!」


「何だよ、いるじゃねえか。武器を捨てて全員出てこいよ。

 そうしないと、本当に手遅れになるぜ?」

 男はミヒャエルの腕からナイフを引き抜くと、塩漬け肉をスライスする様な気軽さで、無情にも右耳を削ぎ落とした。

「ぎゃああああああああああああ!」

 三たび絶叫が森中に響き渡る。


「わかった!わかったからもうやめてくれ!」

 結界から、村の長老格の老人たちを先頭に、村人たちが出てきた。

「おお、ミヒャエル!」

「そんな小さい子になんて、なんて酷いことを!」

「お願い、もうやめて!!」

 泣き叫ぶミヒャエルを見て、みんな涙を流している。

「ふん、これで全員か?てめえら嘘ついてないだろうな!」

「嘘はない!もうその子を解放してやってくれ。人質なら代わりにワシがなる」

 フックスが一歩前に出る。


「ふん、どうやらあんたがいちばん偉いさんみたいだな。ま、別にそれでもいいか」

 男の気がそれた瞬間、ミヒャエルは屋外で焚き火をするのに便利だからと

 ニナに教わった唯一の魔法である火おこしの術で、小さな炎を起こし男に向かって投げつけた。

 炎は男の片目を捕らえ、火花が散った。

「ぐああー!目が、俺の目が!」

 男の手を振りほどいて、ミヒャエルが村のみんなの元に駆け寄ろうとした瞬間だった。


「何しやがるこのくそガキ!」

 何発もの銃弾が小さな身体を貫き、ミヒャエルは地面に叩き付けられた。

「おお、ミヒャエル!おのれ、貴様ら!もう許さんぞ!」

 魔法を使えない者たちがクワや棒を握りしめ、男たちに立ち向かった。

「おまえたち、そこを退くのじゃ!」

 強い魔力を持つヴェルナーをはじめとする長老たちが、男たちに向かって一斉に魔法を放った。

 銃やナイフで武装した男たちに、激しい炎や鋭い氷の柱、切り裂く様な強風が襲いかかる。

「ぐわあ、くそ、こいつら!この呪われた魔女の一族め!」

 何人かはその場で倒れ、魔法を逃れたものは散り散りに周囲の木に隠れながら銃を乱射した。

「こいつら調子に乗りやがって!全員生け捕りにしろって話だったが、もうかまわねえ、皆殺しだ!」

「きゃああ!」

「痛い、痛いよお!ニナ様、助けて!」

 男たちは狙いを長老たちから女子供に切り替えて、銃や弓で狙い出した。

 そして長老たちが気を取られた隙に、隠れていた別の一団がいっせいに長老たちを銃で攻撃してきたのだ。

 いくら魔法が使えても、多勢に無勢。長老たちは倒され、あっという間に村人たちは制圧されてしまった。

「まったくこいつら、バケモンのくせに人間様に抵抗しやがって!たっぷりと痛めつけてやるぜ!」

 人間たちは吐き捨てる様に言うと、村人たちをオモチャのようにもてあそびながら殺していった。


「きさまら、止めろ!女子供に手を出すな!!」

 最後まで激しく抵抗したエミールをはじめとする村の男たちは、取り囲まれ、よってたかって切り刻まれた。

「お願いです、助けてください!赤ちゃんが、もうすぐ赤ちゃんが生まれるんです!」

 人間たちは泣きながら這いつくばって懇願するグレタを立たせると、笑いながらその大きなお腹にナイフを突き刺して切り裂いた。

「……ああ、赤ちゃん、あたしの……」

 グレタは胎児がこぼれ落ちない様に必死でお腹を抱えながら、そのまま息絶えた。

「いやー!やめて!誰か助けて!」

 女性の多くは集団で陵辱され、執拗に弄ばれた後、首をはねられて無残に殺されていった。

「パパ、ママ、どこなの!誰か助けて!」

「ねえさま、こわいよ、ニナねえさま!」

 泣きながら逃げ惑う小さな子供たちは、ナイフや弓矢の格好の的にされ、人間たちは兎狩りの様に誰が一番遠くに逃げた子供を殺せるかを競い合った。


 それらの悲惨な状況をミヒャエルは地面に横たわった瀕死の状態で血の涙を流しながら見ていた。

『ごめんなさい、みんな。ぼくのせいで。

 ごめんなさい、ごめんなさい』


「このガキ、まだ息があるぜ」

 片目を押さえた男がミヒャエルの金髪を掴み引きずり起こした。

「てめえ、魔女の仲間のガキめ!よくも俺の片目を焼いてくれたな!

 倍にして返してやるぜ」

 ミヒャエルの目の前にナイフの切っ先が迫ってきた。


 それが、ミヒャエルが最後に見た記憶だった。

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