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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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シュヴァルツヴァルト・ドライブ part2

「アーサー君、何かわかったのか?少年はいたのか?」

 ヘンリーが駆け寄ってきて辺りを見渡すが、アーサーとノーラ以外に誰もいない。

「二人とも、この子が見えないの?ぼくのすぐそばに座っているよ?」

「ぼくの側って……どこにいるんだ?」

「やっぱり、精神的に同調したあんたにしかその子は見えないってわけね」

「そうだ、ねえ、ノーラ、こっちに来て!ちょっと手を伸ばしてみて」

「いったい何?」

「いいから、ほら!ちょうどこの先!」


 一本の樹のすぐ側あたり、アーサーの指差す空間にそっと手を伸ばしてみると、急にノーラの顔色が変わった。

「ちょっと、何これ?」

 その辺りの何もないはずの地面から少し上の高さに、目には見えないが侵入を阻む『何か』が存在しているのがわかった。


 ヘンリーも手を伸ばして、その辺り一帯を同じ様に探ってみるのだが、何の反応も感触もない。

「何だい?アーサー君に姉さん、どうしたっていうんだ?」

「ノーラ、これ、何だと思う?」

「これ……結界よ」

 アーサーとヘンリーが同時に答える。

「結界?誰が何のために?」

「決まっているじゃない」


「伝承に記載されている通り、あの魔女が故郷の村を覆い隠すために作られたものよ」

「ここが、これがそうなの?でも、ヘンリーさんは何も感じないみたいだけど…?」

「アーサー、あんた、ウォルズリーの城でハワードのいる塔に魔法結界が張られているのはわかったでしょう?」

 アーサーはハワードのいる塔に近づこうとして渡り廊下に足を踏み入れた瞬間、まるで電流に触れた様に弾き飛ばされたことを思い出した。

「おじいちゃんのいる塔への渡り廊下に仕掛けられてたやつのこと?」

「そう、あの時もあんたは拒否され、レスターは難なく通ることができたでしょう。

 あれと理屈は同じ。レスターやヘンリーの様な一般の人間には何も見えないし、存在すら気づかない。

 そしてあたしやあんた(アーサー)の様に魔力を持つ者は、立ち入る事を拒むようにできている。

 違いは、これは他の魔力を持つ者を拒むだけで傷つけることはしないけど、ハワードの魔法壁は高い魔力の者であればあるほど、倍にして返してくるところかしらね。実にハワードらしいわ」

 ノーラの説明に、アーサーはハワードのプライドの高さを思い出していた。


「おそらくこの結界の中が、魔女が住んでいた村なんだと思う。

 それにしても、三百年経っても解けない結界なんて聞いた事もないわ。何という魔力なの」


 アーサーはそっと手を伸ばし、恐る恐る触れるとゆっくりと力を入れてみた。わずかだが、見えない何かをすり抜ける感触がある。

「ねえノーラ。ぼく、この中に入れるかも知れない」

「ええ、嘘でしょ?この結界の強さは尋常じゃないわよ?」

 アーサーはうずくまっている少年に声をかけた。

「ひょっとしたら、ここがきみのお家かも知れないよ。行ってみよう」

 アーサーは顔のない少年の手を握ると、眼を閉じて、結界に振れた手に意識を集中して、少しずつ、少しずつ、ゆっくりと力を加えて行った。

 まず右手が消え、そのまま身体が少しずつ消えて行く。

「ちょ、ちょっと待ってアーサー!中はどうなっているのか見当もつかないのよ!」

「大丈夫、ノーラ。ここで待ってて」


 アーサーの姿がゆっくりと消えていった。

「お、おい、アーサー君は一体どこへ消えたんだ?」

 目の前でアーサーが消えて呆然とするヘンリーを横目にノーラはつぶやいた。

「この結界を簡単に破れる魔法使いなんてそうはいない。あの子、もの凄いスピードで魔力が上がっていってるわ。

 まさか、もう目覚めかけてるの?」


 どれくらいの時間をかけたのか、一瞬とも数分ともわからない時間ののち、完全に結界を通り抜けた二人の目の前には古い小さな村が広がっていた。

 広場を中心に集会場らしき建物や、木造の古い家が並んでいる。その周りには何かの畑や小さな赤い実をつけた木々があり、のどかな雰囲気が広がっているのだが、どこにも人の気配はない。

 アーサーは少年と手を繋いだまま、あちこちの家をのぞいてみた。

「あのー、誰か、どなたか、いませんか?」

 どの家にも人気はなく、返事はない。各家の中には食事の支度があったり、仕事で使う道具がそのまま残されて、ついさっきまで誰かがそこにいたかの様だ。


「何だか、時が止まっているみたいだね。ここがきみのお家のある村じゃないの?」

 その時アーサーは男の子が震え出しているのに気がついた。

「きみ、大丈夫?寒いの?」

「あ、ああ、あああ、あああああ!!」

 絶叫すると倒れ込んでしまった。

「しっかりして、どうしたの?」

 抱きかかえた瞬間、少年の姿はアーサーの腕の中から消え、頭の中に顔のない少年の体験したのであろう記憶が一気に流れ込んできた。


 それは、アーサーが生涯忘れる事のできない、凄惨で悲しい記憶だった。

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