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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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煉獄 part1

 そして遂にニナの処刑の日がやってきた。


 処刑場は、普段なら朝市や

 カーニバルの場所として使われる、

 町の中央にある市民広場を

 臨時に利用して作られていた。


 何もない退屈な田舎町にとって、

 二百年ぶりの魔女の処刑とあって

 近隣の町や村からもたくさんの人が

 見物に訪れて、会場周辺は

 大変な賑わいを見せていた。


 ご丁寧なことに、盛り上げ役として

 市民による楽隊まで用意され、

 軽快な音楽が演奏されている。

 入り口では男たちが芝居っ気たっぷりな

 口上で、見物客を呼び込んでいる。


「さあさあ、早く入った入った!

 世にも恐ろしい魔女の処刑が始まるよ!

 この辺りを荒らしまわった悪逆非道な

 黒い森の魔女の最後が見られるんだ!

 これを見逃したら、また二百年、いや

 三百年はお目にかかれないよお!」


「今ならまだ貴族様のような特等席で 

 世紀の一瞬を見ることができるよ!

 おおっと、正義のために悪辣な魔女と

 戦い、この場を設けてくださった

 教会への寄付を忘れずになあ!」


 入り口の左右には陶器でできた

 大きな壺が置かれており、寄付を

 放り込めるようになっている。


 何のことはない、芝居小屋の様に

 見たいものはテラ銭ー入場料を

 払えと言う事だ。


 押し寄せる見物客の『寄付』で

 壺はたちまちあふれんばかりになり、

 男たちは新たな壺を用意しながら

 顔を見合わせ満面の笑みを浮かべた。


 会場内部は見やすいようにひな壇が

 組まれ、哀れな魔女の登場を今か今かと

 待ち構える超満員の熱気に満ちていた。

 周辺には観衆をあてにした土産物や

 スナック売りの屋台が立ち並び、

 ちょっとしたお祭り気分となっている。


 狭い拷問部屋から連れ出されたニナは、

 会場に出る前に手足に太い釘を打ち込まれ

 巨大な十字架に固定された。

 口には鉄製の猿ぐつわをはめられ、

 声をあげることもできない。


 やがて、大勢の観衆が見守る中

 台車に乗せられ会場へと運ばれてきた

 十字架は、四方から見やすい様に

 広場の中央に立て付けられた。


「おお、何と酷い有様だ!」

「あんなに神秘的で美しかった魔女も、

 ああなるともうおしまいだな」

「やれやれ、恐ろしいこった」


 見物客たちはニナのあまりにも

 悲惨な姿に悲鳴に近い声をあげたが、

 それもつかの間、二百年ぶりに行われる

 今では伝説となっていた魔女の処刑を

 前に、興奮を隠しきれない。


 十字架の上からニナは、会場に集まった

 人々の中に、捕まっていた村の人間たちが

 いる事に気づいいてた。


『ああ、よかった、解放されたのね。

 約束は守られたんだ。

 これでもう、心配することはないわ。

 ミヒャエル、収穫祭は人間たちと

 一緒に、みんなで楽しめるといいね』


 その時、十字架の上空を鴉が飛んでいる

 ことにニナは気づいた。


『ああ、あの子、生きていたのね……。

 ここはもうすぐ火の海になるから、

 危ないから、あっちに行きなさい』

 

 楽隊の音楽が一層大きくなり、

 教会の司祭と、委員会の男たちが

 ゆっくりと処刑場へ姿を現した。


「いいぞー!司祭様!」

「神の使い、感謝します!」

「よくぞ魔女を捕まえてくれた!」


 満場の観衆から拍手と歓声が上がり、

 満面の笑みで手を振っている。

 やがて十字架の側まで近寄ると、

 委員長の男はニナをじっと見つめて

 哀れみを込めた声で話しかけた。


「哀れな魔女、ニナ・ヒルデガルト。

 ひとりぼっちで焼け死ぬ気分はどうだ?」


 ニナは男を蔑むような目で見て思った。

『何をいまさら。愚かな者たちよ。

 私にはもう恐れも、後悔もない。

 とっとと処刑するがいい』


 男たちはやれやれといった、

 憐憫の表情で首を振る。

 司祭が一歩前に出ると、話しかけてきた。


「後悔と恐怖で、声もでないか。

 だがな、私たちも非情ではない、

 おまえがいくら悪逆非道な魔女で

 あったとしても、ひとりぼっちで

 死んでいくのは見るに耐えん。

 そこで、おまえに心ばかりの

 プレゼントを用意した。

 …受け取ってくれたまえ」


 楽隊がドラムロールで盛り上げる中、

 人垣をかき分ける様にして

 広場に一台、二台、三台と布をかけた

 大きな荷車が次々に入ってきた。


 その途端、あたり一面に、何とも言えない

 血と腐肉の香りが立ち込める。


 ニナはぎょっとして、注視した。

『あれは……あれは一体何なの?』


「魔女よ、喜べ。おまえの仲間を

 連れてきてやったぞ!ほうら!」


 荷車にかかる布を男たちが

 次々に剥ぎ取っていくと、

 荷台には村のみんなが切り刻まれ

 無残な姿で山積みにされていた。


「ウオオオオオオオオオオーッ!!」

 広場に集まった大勢の見物客が

 地鳴りの様な歓声を上げる。


『何なのこれは!うそ、うそ、うそ!

 なんて、なんて酷い事を!』

「ンンンンンーーー!」


 ニナは十字架の上で絶叫するのだが、

 鉄の猿ぐつわで声が出せず、

 縛り付けられた身体は、

 わずかに身もだえする事しかできない。


「どうだ、懐かしいだろう!

 安心しろ、村の者、一人残らず

 おまえと一緒だ!」


 すべての荷車が傾けられ、みんなの

 遺体がそこら中に転がり落ちる。


 共に薬草を摘んだ女たちや

 ヨゼフをはじめとする長老、

 働き者の男たち、

 歌が大好きな幼い子供たち。


 みんな、顔を、手足を、

 ひどく切り刻まれて

 嬲り殺しにされたのがわかる。


 中でもよほど抵抗したのか、

 両腕を切り落とされた上に、

 身体を切り刻まれ

 上半身だけの無惨な姿になった

 エミールが転がり落ちてきた。


「ンンンンンーーー!」

『あれはまさか、エミール!

 ああ!ミヒャエル!あの子はどこ?』


「おお、そうだ、忘れておった。おい。」

 長い槍を持った男が荷台に槍を突き刺し、

 丸い何かをニナの顔の前に差し出した。


 それは、無残に切り落とされた

 ミヒャエルの頭部だった。

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