魔女裁判 part2
「ニナ姉様、どこにいるんだろう」
数日後、姉の身を心配したミヒャエルが
こっそり村を抜け出して街にきていた。
結界は張られたままになっているが、
万が一のために外部への秘密の出入り口を
設けてあることを知り、
ひとり街までやってきていたのだ。
街中をうろうろしたものの、
周りの人間に聞くわけにもいかず
当然の様に何の手がかりもなく
途方に暮れて座り込んでいると
誰かが声をかけてきた。
「坊や、どうしたんだい?」
顔を上げると見知らぬ若い男たちだ。
「いえ、何でもありません」
ミヒャエルはとっさにそう言うと
立ち去ろうとするが
「そんなに慌てなくてもいいじゃないか」
一人の男が腕をつかむ。
「坊や、ひょっとして黒い森の村の
子供じゃないか?覚えてないかい?
去年の君たちの村の感謝祭に俺たちも
お邪魔してたんだよ。楽しかったなあ」
「え、お祭りにですか?」
ミヒャエルの顔が明るくなった。
いい人間の人たちなんだ。
「そうだよ、坊やたちも大変だな。
俺たちもみんな心配してるんだよ、
いくらなんでも、あんなところに
連れて行くなんてひどすぎるって」
男たちが残念そうに話すのを聞いて、
たまらずミヒャエルは話し出す。
「姉様のことを知ってるんですか?
どこにいるか教えてくれませんか!」
男たちはにんまりと笑った。
「そうかあ、坊やの姉さんなのか。
そりゃあ心配だな。案内してあげても
いいけど、村の大人にも報告してからの
方がいいんじゃないか?」
「あ、そうか、そうですよね。
村に帰ってみんなに相談してきます!」
「坊や、俺たちが付いて行かなくて
大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です!待っててください!」
ミヒャエルが走り去る後ろ姿を見ながら
男が仲間に命じる。
「おい、ガキの後を尾けな。
役人と魔女狩り隊にも報告だ。
こりゃあいい稼ぎになるぜ」
その頃、役所の一室に集まった
委員会の元に、ニナは拷問を受けながらも
何も喋らないことが報告される。
「あの魔女はまだ魔法のことを喋らんのか!
拷問が手ぬるいんじゃないか!」
街の実業家で、今回の委員長を
務める太った男が、声を荒げた。
「あれだけ拷問を受けても
喋らないってのは、そんな魔法ないんでしょう。
魔法の知識がある者に聞いても、
村を丸ごと消してしまうなんて、
聞いたこともないっていってますよ?」
他の委員たちが冷やかすように笑う。
「ううむ、もしそんな魔法があるなら
政府に売り込むチャンスだと思ったのに」
太った男はイライラしたそぶりで
うろつき廻っている。
「それで、どうするんですか?せっかくの
魔女狩りも街の連中も冷めてきてるし。
教会に呼んでもらった拷問専門家の
連中を雇い続けるのも金がかかるんだから、
とっとと処刑しちゃいましょうよ」
若い役人が退屈した様にあくび混じりで
ぼやいている。
「くそう、ひと稼ぎできると思ったのが、
あのクソ魔女のせいで台無しだ!」
そんなことを話していると、一人の男が
はいってきて、そっと耳打ちをした。
途端に男の目の色が変わった。
「本当か!それなら魔法はあきらめて、
教会から懸賞金をいただくとしようか」
「どうしたんですか?」
「一体何が?」
男がニヤリと笑った。
「あの魔女の弟の後を尾けて、魔女の村を
突き止めたそうだ」
拷問室の隅、粗末なゴザの上に
横たわりながら、ニナは考えていた。
『あれから何日たったんだろう。
毎日、昼夜を問わず身体中を焼かれ、
切り刻まれ続けてもう時間の感覚も
無くなってしまった』
爪を剥がされ、手足の腱を切られてからは
もう立つことも、何かを持つこともできない。
長く美しい黒髪は引きちぎられ、
短く刈られてしまった。
おそらく体中のほとんどの骨が
折れるか、ヒビが入っているのだろう。
息をしても苦しい。
しかし死なない。
『さすが教会直属の拷問専門家だわ。
その辺り、生かさず殺さずの加減を
よくわかっている。
まあいつまでも拷問していても
市としても費用がかさむだろうから、
もうすぐ処刑だろう。
もう少しの辛抱かな』
ニナは死を前にしても冷静に計算している
自分に気がつき、笑ってしまった。
まあ、いい。
死ねば、魂だけはまた
あの森に帰ることができる。
ミヒャエルは泣いてないかな。
エミールは魚がたくさん獲れただろうか。
ああいけない、ヨゼフ爺さんに関節の薬、
余分に渡すのを忘れていた。
子供たちはみんな歌ってるかしら。
もうすぐ村に帰るからみんな待っててね。
鉄のドアが開き、拷問専門家に続いて、
司祭が入ってきた。
「黒い森の魔女、ニナ・ヒルデガルト。
おまえに最後のチャンスを与える。
その方、魔女として一族を率いこの地方に
災いと混乱を招いたことを認めるか」
本当にしつこいな。
ニナは寝そべりながら、
首だけを力なく横に振った。
「そうか、これだけ機会を与えてもか。
それでは仕方ない。
おまえを火炙りの刑に処す」
ああ、やっと終わるんだ。
神様、感謝します。




