魔女裁判 part1
「異端審問官立会いのもと、バーデン地方
シュヴァルツヴァルトの魔女裁判を行う!」
新しく赴任した司祭が宣言し、
ニナの魔女裁判が始まった。
裁くのは教会関係者と地元の有力者により
結成された「委員会」と呼ばれる組織だ。
この地方では二百年ぶりに行われる
魔女裁判とあって、街の裁判所を利用した
臨時法廷は世間の関心を集め、
傍聴席には多くの市民が殺到した。
「その方、名前は」
「ニナ・ヒルデガルトです」
ニナは後ろ手に縛られたまま、
まっすぐ正面を見つめて答えた。
その神秘的な美しさと凛とした
たたずまいに、傍聴席からため息が漏れる。
「その方、黒い森に住む魔女の一族で
あることを認めるか」
「はい、認めます」
傍聴席が一斉にざわめいた。
まさか簡単に魔女であることを認めるとは。
委員会の者たちも驚いている。
「では、魔女のリーダーであることを認めるか」
「はい、認めます。私がリーダーです」
傍聴席からウオーという声と
罵声が次々と上がる。
「魔女だ!魔女だぞ!災いの女王だ!」
「殺せ!吊るせ!あいつを高く吊るせ!」
「焼け、焼いてしまえ!魔女に死を!」
「その方、魔女として一族を率いこの地方に
災いと混乱を招いたことを認めるか」
一拍もおかずニナは力強く答えた。
「いいえ、認めません」
再び傍聴席から怒号が飛ぶ。
「ふざけるな!魔女め!」
「許されると思うなよ!おまえの一族も
すべて同罪だ!地獄へ落ちろ!」
「もう一度、問う。
その方、魔女として一族を率いこの地方に
災いと混乱を招いたことを認めるか!」
「認めません。私たちは人間と比べて
いくらか長命なだけでいずれ滅びゆく存在。
今では魔力を持つ者もほとんどいません。
私たちの願いは、人間と共存して、
静かに平和に暮らす事、それだけです。
罰せられるのは私ひとりで十分です」
「審判の場において虚偽の証言は許されぬ。
ここ数年の不作、疫病の流行などは
きさまたち魔女の仕業であろう!」
「いいえ、違います。
私たちは季節ごとに収穫を占って、
不作が予想される時には
近隣の村をはじめ、多くの方々に
これに備えるように伝えてきました。
疫病が流行った際には、私たちの治療や
薬草で助かった方もたくさんいたはずです。
そこに座られている方々にも
お分けしてきました」
ニナは審判を担当する街の役人や、
傍聴席の人間を見つめながら発言を続ける。
皆、視線が合わないように下を向いてしまった。
「私は魔女であることを認めます。
村のリーダーであることを認めます。
私が縛り首になろうと、火あぶりに
なろうと覚悟はできております。
しかし、他の者は関係ありません。
教会から約束していただいたように、
すでに連行されている他の村の
人間たちの解放と、
我が村の一族の恩赦を改めて求めます」
法廷内がざわつきはじめた。
ニナの聡明で、強い言葉に
傍聴席の空気が変わりだした。
委員会のうち、一番上座の席に座っている
太った男が手を挙げた。
ニナはその男の顔をじっと見つめた。
『こいつはよく覚えている。
確か街の実業家のはずで、物々交換で
町を訪れた際に悪質な値切りをしたり
いやらしい目をしていた男だ」
「質問を変える。おまえは教会の
派遣した神聖な魔女狩り隊から逃れるため、
怪しげな魔法を使ったことを認めるか?」
「……ご質問の意味がわかりません」
ニナは質問した男の目をじっと見つめ、
心の奥底をのぞき込む。
男の目の奥に、魔法で軍隊を隠して
国境を越えさせる映像が浮かんでいる。
そうか、こいつは目隠し法を悪用した
侵略方法を政府に売り込もうとしている!
こんな奴に悪用させるわけにはいかない。
「そんな魔法を私は知りません。
使った事もございません」
「嘘をつくな!魔女狩り隊の報告では
黒い森周辺でいくら捜索しても
魔女の村は発見できなかった。
貴様たちが何らかの禁じられた魔法で
村を隠したのであろう。
これは教会に対する反逆であり違法行為だ。
どんな魔法を使ったのか詳しく話せ!」
「さあ、存じません。皆様、森の奥で
ピクニックでも楽しまれていたのでは?」
ニナは微笑むとユーモアたっぷりに返した。
傍聴席から笑いが起こり、口笛が飛んだ。
苛立った司祭が、法廷中に
響き渡るように木槌をたたいて叫ぶ。
「いったん閉廷!後日また改めて再開する。
魔女ニナ・ヒルデガルトよ、おまえは
虚偽の証言のため、改めて拷問専門家の
取り調べを受けることになる!」
ニナは法廷を出ると拘束され、
街外れの古い病院へと移された。
ここは本来、疫病にかかった者が
最後に運び込まれる場所で、
臨時の拷問室として用意されたのだ。
鉄格子がはまった石作りの個室に
ムチや剃刀、巨大なやっとこ、焼きごて、
針がびっしりと埋め込まれた椅子など、
あらゆる拷問道具が運び込まれている。
動物の皮で作られた奇怪なマスクをかぶった
二人の男が両脇を抱えて連れてくる。
一人がくぐもった声で話す。
「おまえはこれから、死んだ方が
マシと思えるような目に遭うのさ」
もう一人が、卑屈な笑い声をあげる。
「何も喋りたくないなら、それでいい。
苦しむ時間が増えるだけだからな」
ニナは無表情で拷問室に入っていった。
鋼鉄のドアが閉められた。




