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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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破滅 part2

 あたりが暗闇に包まれ出した頃、アーサーとヘンリーはロンドンから戻り、ウォルズリーの城に帰着した。


 ルーパスの屋敷から漆黒の馬車が到着したのは、それから間も無くのことだった。

 同期であるフローレンスを先頭に、アーサーにヘンリー、そしてレスターが玄関で出迎えた。

 ノーラの姿は見当たらず、レスターによると用事で出かけており、夜には戻るとのことだった。


 アーサーはノーラがいないことに一抹の不安を感じたが、表情には出さないように我慢していた。

『フローレンスさんの友達で、ルーパスさんに長年仕えているメリッサさん。一体どんな人なんだろう?』


 馬車の扉が開き、中からメイド頭のメリッサと、二人の若いメイドが降り立った。

 メリッサはフローレンスとは対照的に、折れてしまいそうなほど細く、

 大人しい雰囲気の女性だったことにアーサーは少し驚いていた。


 フローレンスが笑顔でメリッサを抱きしめた。

「メリッサ、お久しぶり!元気そうで、会えてうれしいわ」

「お久しぶりね、フローレンス。何年ぶりかしら」


「久しぶりだね、メリッサ」

「お久しぶりでございます、レスター様。お変わりございませんか」

「ああ、大丈夫だよ。君も元気そうで何よりだ。こちらは私の息子のヘンリー」

「初めまして、メリッサさん」

「まあ、こんな大きな息子さんがいたなんて初めて知りましたわ」


「そして、メリッサ。こちらがアン様のご子息である、アーサー様だよ」

 レスターがメリッサにアーサーを紹介すると、

 メリッサはとても驚いたようで、しかし本当に嬉しそうだった。

「まあまあ、アンお嬢様の!お嬢様、いえお母様はお元気ですか?」


「初めまして、アーサーです、メリッサさん。ママも元気です」

「そうですか、それはよろしゅうございました。

 イギリスへは、アーサー様お一人で来られたのですか?」

「あ、はい、まあひとりです」

 自分でも不思議に思ったが、なぜだかとっさにノーラの事は口から出てこなかった。


「まだ小さいのにひとりで何て、大変だったでしょう。お可哀想に。」

 メリッサはアーサーを上から下までじっくりと見ながら、小さな声で呟いた。

「この子には何の罪もないのに。本当に可哀想」

「え、何か?」

「いえ、何でもございません」


「ところでメリッサ、後ろのその二人は?」

 レスターがメリッサの背後に控える、双子のようなメイドに目を向けた。

「……この子たちは、うちの見習いメイドでございます。

 本日こちらにお伺いすることを話したら、ぜひお伴したいと言い出しまして。

 ご迷惑だったでしょうか?」

「迷惑とは言わないが、君と話している間。席は外してもらうことになると思うのだが、構わないかね?」


「それで結構でございます。有難うございます、レスター様」

「それで結構でございます。有難うございます、レスター様」

 二人は同時に答えると、静かに微笑んだ。


「立ち話もなんですから、中に入りましょか」

 フローレンスが中へと招き入れた。アーサーは三人が前を横切るとき、

 なぜかほんの一瞬だが、空気がヒンヤリとしたのを感じていた。


 アーサーとヘンリー、それにレスターは一階の応接室で

 テーブルを挟む形でメリッサと向かい合わせに座った。

 ニナのお付きのメイドたちは、外の廊下に無表情で立っている。

 フローレンスが全員分の紅茶を運んできて、セッティングしていく。


「ニナ様について、ですか」

「そうなんだ、メリッサ。彼女とルーパス様の関係について、

 一番詳しいのは長年ルーパス様のお付きである君だと思ってね。

 知っている事を教えてほしいんだよ」

 レスターは極めて柔らかな口調でニナについての情報を

 メリッサから引き出そうとしていく。


「ニナ様とルーパス様が出会ってから、確かに様々な事がありました」

 レスターの質問にメリッサは、ぽつり、ぽつりと語りだした。


「屋敷の人間がずいぶんと辞めてしまったと言うのは本当なのかい?」


 フローレンスが使用人仲間から聞いた話では、ルーパスの屋敷から

 メイドや下僕、執事など沢山の人間が辞めたという噂は聞くが、

 不思議な事にこちらへ戻ってきた人間や、他の屋敷に奉公に行った者はいないらしい。


 メリッサは紅茶のカップを両手で抱えたまま、ゆっくりと話し出した。

「ええ。もともとルーパス様は、大人しく繊細で優しい方だったのですが、

 あの方と一緒に暮らすようになってからは些細な事で怒りっぽく、

 時にはひどく攻撃的になる事があり、耐えきれず多くの者が去ってしまいました」


「あなたにもなの、メリッサ?」

 フローレンスが心配そうに聞く。

「いいえ、私にはほとんど。まあ、見ての通りの年寄りですしね」

 メリッサは自嘲っぽく笑った。

「そんなことを言うもんじゃないよ、メリッサ。君は昔と少しも変わらない」

「ありがとうございます、レスター様」

 メリッサが少し微笑んだ。


 埒が明かないな、と感じたヘンリーが場の空気を変えるように質問する。

「ルーパスさんの回りで、何か不可解な現象は起こっていませんか?」

「いえ、特にこれといっては」


「ルーパスさんをそれまでは訪れた事のない人間―

 例えば、外国人が訪れた事はありませんでしたか?」

「外国の方ですか、いえ、無かったです」


「ルーパスさんは、この一年の間に外国へー

 例えばドイツなどへー出かけられた事は?」

「いえ、ニナ様を連れて南フランスから戻られてからは、

 どこへもお出かけにはなられていないはずです」


「外国からルーパスさん宛てに手紙や郵便物が届けられた事は?」

「いえ、特にはございません」


 その後も、ヘンリーはいくつも質問を重ねるが、

 答えはほぼ「知りません」「わかりません」の繰り返しだった。


「あのう」

 メリッサがヘンリーをじっと見つめて、問いかけてきた。

「これは、何かの取り調べなのでしょうか?」


 その声には、小さいが確かな怒りの炎が含まれているのをアーサーは感じ取った。

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