暴君ルーパス誕生 part1
舞台は再び、ニースの娼館へと戻る。
「ふふふ……両親や兄弟から疎まれ追い出され、残ったものはメイドただ一人というわけね」
謎の女はルーパスの心の奥深くまで侵入し、少年時代からの屈辱を再び引きずり出し、思い出させていた。
「ああ、やめてくれ、誰か……誰か……助けてくれ……メリッサ……助けてくれ……メリッサはどこだ……」
黒い影にまとわりつかれ、ルーパスはベッドの上で喉をかきむしるように身悶えし続けている。
謎の女はルーパスに顔を近づけると、囁き続ける。
その声は甘く、しかしまるで地の底から響いてくるような不気味さに満ちている。
「ルーパス……誰にも愛されず……必要とされず……お情けでただ生かされている……惨めな……あまりにも惨めな人……」
「やめろ……やめろ……やめろ……やめろおお!」
ルーパスはボロボロと大粒の涙と鼻水を垂らしながら、体をエビのように曲げ泣き続けている。
「憎い、憎い、父上、母上、兄弟たち、みんな、みんな!」
暗闇の中、悲痛な叫びを続けるルーパスに、誰かの呼ぶ声が聞こえて来た。
「ルーパス……。その魂を虐げられ、傷つけられた可哀想なひと」
「あなたの悲しみは私の悲しみ……。私だけがあなたの理解者……」
そっと目を開けると、黒髪の女が優しく微笑んでいる。
「お、おまえ、わしを助けてくれるのか」
ルーパスは喘ぐ様に涙を流し続けている。
女はルーパスの目を見つめ、その頬を長い指でそっとなぜながらささやく。
「あなたは理不尽に蔑まれてきた……。本来のあなたは誰もが羨む力に溢れ、神話の世界に君臨すべき存在……。
あの年老いたハワードに替わり、ウォルズリーを継ぐ偉大な力を持つ者……」
「む、無理だ。何の、何の力もない、わしなんか、に、兄さんや弟たちにかないっこない!」
喘ぎながら首を振るルーパスにさらに
「大丈夫…私があなたに力を与えて上げる……。あなたを鋼鉄の勇者にしてあげる……。
私とあなたが組めば……愚かな兄弟たちはもちろん……一族の者をひれ伏させ……統べることなど造作もないこと。
あなたを傷つける者など……もう、誰もいない」
女の漆黒の瞳からしたたり落ちる影が、ルーパスの瞳にダラダラと注がれてゆく。
「あなたは……強い」
まるで夢遊病者の様に、女の囁くことをおうむ返しにルーパスは呟く。
「わしは……強い」
「あなたは……誰も恐れない」
「わしは……誰も恐れない」
「あなたに……歯向かう者などいない」
「わしに歯向かうやつなど……いない」
ルーパスの心を怒りと悲しみが埋め尽くし、すべてをゆっくりと黒く塗りつぶしていく。
それと共に、ルーパスの両目が黒い影で満たされ、女と同じように完全な漆黒へと変化した。
ルーパスはゆっくりと起き上がった。
何かを確かめるように、両の手を握っては開いてを繰り返す。
それはまるで、初めて世界を認識した赤ん坊のように見える。
身体の中から、ふつふつとエネルギーが満たされてゆき、それと共に精神が高揚していくのがわかる。
「何だこれは……。これがわしの体なのか……?とてつもない力が、みなぎってくるようだ……」
女の方を振り返り、ルーパスはたずねた。
「女……おまえの、おまえの名前は」
女は微笑みながら、ささやく。
「私の名はニナ。ニナ・ヒルデガルト。黒い森からきた女」
「ルーパス様、あなたは生まれ変わったのです…。
力強く、自信に満ちたその姿こそ、本来のあなた…。
今こそ…あなたを不当に苦しめ…悲しませた者たちにその力を見せつけ、復讐する時が来たのです…」




