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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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二人の朝食

 翌朝、アーサーはフローレンスに連れられて、気まずい思いで朝食用のダイニングに向かっていた。

「レスターさん、怒ってるかなあ……」

 ふうーっと、長いため息をついた。


「どうしました、アーサー様。朝からため息ばかり。幸せが逃げてしまいますよ」

 心配したフローレンスが話しかけてくる。

「あ、ありがとう、フローレンスさん。うん、いや、実は……」

 アーサーは昨夜起こった事の一部始終は話さなかったが、夜中に城内を出歩いて怒られたことをフローレンスに打ち明けた。


「あらあら、まあまあ!」

 フローレンスは目を丸くして驚いていたが、にっこり笑うと胸を叩いて断言した。

「アーサー様、大丈夫ですよ!レスター様は過ぎた事をいつまでも引っ張るような人ではないですし、万が一まだ怒っているようでしたら、このフローレンスがとっちめて差し上げますから!」

 アーサーもつられて笑顔になった。

「ありがとう、フローレンスさん、なんだか勇気が出たよ」


 ダイニングに到着すると、レスターはいつもの通りの穏やかで、冷静沈着な様子でアーサーに挨拶をした。

「おはようございます、アーサー様」

『よかった、怒ってないや』

 アーサーがフローレンスの方を見ると、フローレンスもにっこり笑っている。

「遅いわね〜朝食は1日の始まりなんだから、早く席に着きなさいよ」

 席に着いたアーサーは、目の前の席にノーラが座って朝食をとっていることに驚かされた。


「ええ、ノーラ!?なんで?隠れておかなくていいの?」

「事情が変わったのよ」

「事情?」

 最後のデザートに取り掛かろうとしたノーラは手を止めると、フローレンスを呼び寄せた。

「あ、フローレンス!確かハモン・イベリコ*1があったでしょう?あれをちょっと切って持ってきてくれる?え?ない?じゃあプロシュート・ディ・パルマ*2でいいわ。くれぐれも言っとくけど、ハモン・セラーノ*3はダメよ。あれは口に合わないわ」


 ノーラはフローレンスに薄くスライスした生ハムを持って来させると、デザートに出されているイチジクに器用に巻きつけて食べだした。

「ノーラ様は、相変わらずグルメですわねえ。しかも、全然お変わりない。羨ましいですわ」

「ありがとう、フローレンス。あんたも全然変わんないわよ。老け込んだのはレスターくらいじゃないの?」

 ノーラとフローレンスが久しぶりに同窓会で出会った懐かしい同級生のように言葉を交わし、笑いあっているのをレスターはポーカーフェイスで聞き流している。


「うん、今日はまあまあね」

 食後にレスターが淹れたフォートナム・メイソンの紅茶を味わいながら、ノーラは満足げな表情を浮かべている。

 アーサーは恐る恐る切り出した。

「あのさあ、ノーラ。さっき言っていた事情って?」

 ノーラはティーカップを静かに置いた。

「いちいちあたしが表に出る必要もないと思ってたけど、相手がいけ好かないあのクソ女となると話は別よ。」

 あの魔女のことらしい。

「親族会議の日まで大したことはしてこないと思っていたけど、昨日みたいな化け物を城内に放り込んでくるような、礼儀知らずで下品な相手とわかったからには、こっちもうかうかしてる訳にはいかないわ」


「ハワードは別として、あんたやレスター、それにフローレンスたち使用人の安全のためにも、城内の警護はあたしが受け持つことにしたのよ」

「えーっ!そうなの?レスターさん、いいんですか?」


「もちろん。単純な暴力ー例えばギャングのようなーへの対応でしたら、私にも多少の心得はございますが、相手が魔女ということでしたら、いささか専門外ですので。

 ノーラ様がご指導いただけるのでしたら、それに越したことはございません」

 レスターは軽く頭を下げた。

「物分かりのいいこと。あんたの主人も見習ってくれたらいいんだけど。とりあえず、城内の警備状況の再確認から始めましょうか。レスター、案内して」

 ノーラが椅子からヒョイっと飛び降り、レスターを従えて部屋を出て行こうとするのを、アーサーは必死で呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待ってよノーラ!おじいちゃんはどうするの?」

「ああ、ハワード?あいつなら大丈夫よ、多分。まったくあんなところに引きこもって、何やってんだかあのバカは!ほんとに昔から、素直さのかけらもないガンコな小僧なんだから!」

「ノーラ様、その辺で……」

 主人思いのレスターが小さな声で機嫌を取り繕う。

 だがまだアーサーは引き下がらない。

「あ、待って!ぼくは?ぼくは何をしたらいい?」

 ノーラとレスターは二人揃って振り向くと、同時に答えた。


「勉強をしておきなさい」


*1ハモン・イベリコ…正式には「ハモンイベリコ・デ・ベジョータ」と呼ばれ、どんぐりのみを与えて飼育したイベリア種の黒豚セルド・イベリコで作られるスペイン産の最高級生ハム。

*2プロシュート・ディ・パルマ…イタリアのエミリア・ロマーニャ州にあるパルマ近郊で作られている生ハム。

*3ハモン・セラーノ…ハモン・イベリコとは違い、白豚で作られるスペイン産の生ハム。アラゴンのテルエル産、グラナダのトレベレス産などが有名。

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