表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/134

ホタル狩り part1 アーサー独白

 ゆっくりと眠りの底へと落ちていくアーサーの耳に、またあの声が聞こえてきた。

『アーサー……アーサー……』

 遠く、小さく、聞いたことのない声。でも、なぜだか心が安らぐ響きに満ちた声。


『ああ……アーサー……アーサー……』


 でも、今日はなんだか悲しげに聞こえる。まるで泣いているようにも、途方にくれたため息のようにも聞こえる。


 眠りのとばりに包まれ、おぼろげな意識の中でアーサーが声の主の事を考えていると、またどこからか、違う声が聞こえてきた。


『……太郎、太郎……』


『太郎……?その名前で呼ばれたのは、いつ以来だろう。

 イギリスに来てからは、みんながぼくのことをアーサーと呼ぶ。ノーラですらそうだ。

 いつしか自分でもアーサーと呼ばれるのが自然になっていったけど、違うよ、ぼくは太郎だ』


『太郎……太郎……』


『あの声は……パパ?

 でも、そんな訳がない、

 だって……パパは、ずっと入院中だし……』


『最後にあったのは、日本を発つずっと前、まだ桜が咲いている頃だった。

 パパはうちの町から離れた、山の中の小さな病院に入院していたんだ。

 ママに連れられて華子と一緒にバスに揺られ、最後のバス停からもずいぶん歩いた場所にその病院はあった。

 訪れたその病院の、いろいろな花が咲いているキレイな中庭に面した病室に、パパはいた。

 ママは病室に入れたけど、ぼくたちは感染るといけないから中には入れてもらえず、ぼくと華子は庭からパパに手を振ったんだ』


『パパは随分痩せていて……それでもぼくたちを見ると、笑って手を振ってくれた。

 ぼくはパパに会いたくて、昔みたいに飛びついてぎゅうって抱っこしてもらいたかったけど、ガマンしたんだ。

 だって、ぼくはお兄ちゃんだから』


『華子は庭のお花を摘むと、パパに見せようと走って行こうとしたけど、ぼくは一生懸命に華子を引き止めた。

 癇癪かんしゃくを起こした華子に顔や頭をいっぱい叩かれたけど、ぼくはガマンしたんだ』


『だって、だって、ぼくはお兄ちゃんだから』


『入院する前に、パパが言ったんだ。ママと、華子を頼むよって。

 お兄ちゃんなんだから、頼んだよって言ったんだ。

 ぼくは胸を張って、パパ、だいじょうぶだよって言ったんだ。

 これは、男と男の約束なんだ』


『病院から帰るとき、パパはぼくに言った。

 病室から、大きく手を振り、精いっぱいの声で言ってたんだ。

 退院したら、夏になったら、またホタル狩りに行こうって。

 だから、寂しくなんかないんだ』


『太郎……太郎……おきなさい……』


『パパ、パパなの?』


『ホタル狩りに行くよ、おきなさい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ