蛇と魔法と拳銃と part2
大蛇が二人のすぐ後ろまで迫った、その時だ。
「二人とも伏せろ!」
廊下の突き当たりに家庭教師のヘンリーが立ち、こちらに向けて拳銃を構えている。
二人がヘンリーの左右に滑り込むと同時に、向かってくる大蛇の目と目の真ん中あたりにダン、ダン、ダンと正確に弾を撃ち込んだ。
大蛇は巨体をバタつかせ周囲の装飾品を壊しながら突進すると、壁に激突した。
「アーサー君、大丈夫か!?」
ヘンリーは銃を降ろすと、アーサーに駆け寄った。
「へ、ヘンリーさん、大丈夫です!ありがとうございました」
「安心するのはまだ早いわよ!」
ノーラが叫んだ。
壁に激突した大蛇は、どうやら失神していただけだった様で、再び鎌首を持ち上げて動き出していた。
「あれは魔法使いによって命を与えられている眷属よ!普通の弾丸じゃ死なないわ!」
「おいおい、マジかよ。鉄板をも撃ち抜く特製の徹甲弾を食らっても死なないってか?この弾丸、高いんだぜ?」
ヘンリーは白猫が喋り出したのを見てもさほど驚かず、軽口を叩きながらアーサーに手を貸して立ち上がらせた。
「で、白猫のねーさん。ここからどうすりゃあいいと思う?」
ノーラはアーサーに向かって叫んだ。
「アーサー!あんた、マジックボックスなくても魔法使えるでしょうが!」
「え、えええと、どうするんだったっけ?えーと、えーと、ごめんノーラ、集中できないよお!」
恐怖でパニックになっているアーサーは使い物にならない様だ。
「あーもう!仕方がないわね!アーサー!あんた、後でたっぷり説教だからね!」
ノーラは勢いよくジャンプし、空中で光に包まれたと思うと、変身してヘンリーとアーサーの前に降り立った。
純白のロープに流れる様な長い銀髪、白い三角帽に片手には長い杖。
ノーラは三角帽の鍔を目元を隠す様に下げると、杖を大蛇に向けて、タンカを切った。
「この“はじまりの魔女”ノルディア・ブラウン様を怒らせたからには、あんたのライフはもうゼロよ!」
杖をくるくると回しながら、呪文の詠唱を開始する。
大蛇がゆっくりと動き出したかと思うと、次の瞬間、驚くべき速さでノーラに襲いかかってきた。
「危ないノーラ!」
アーサーが叫んだと同時に、ノーラの杖の先から凄まじい轟音とともに旋風が巻き起こり、大蛇は廊下中の美術品や調度品を巻き込みながら長い廊下の反対側の壁まで一気に吹き飛ばされ、叩き潰された。
その威力の凄まじさにヘンリーが感心した様に口笛を吹き、アーサーが呆然と口を開けた状態のまま、
ノーラはまるで西部劇のガンマンが相手を倒した時のポースの様に、杖の先に唇を近づけると、ふうーっと息を吹きかけた。
「ま、ざっとこんなものよ」
そして再びジャンプすると、あっという間に元の白猫の姿に戻った。
「もう大丈夫みたいだ。アーサー君とえーと…そちらのレディは?」
ヘンリーはつま先でつついて大蛇が動かなくなったのを確認すると、構えた拳銃を下ろした。
「ノーラよ。で、あんたの正体は?これはあたしの勘だけど、ひょっとして英国政府のワンちゃん?」
「ヘンリーだ。まあ、そうだなあ。政府の番犬兼何でも屋ってところかな。巨大なヘビに魔女にしゃべる猫。おかげで退屈はしないよ」
「ふふん、確かに」
アーサーもホッと一息をついた。
「ふー。助かってよかったねえ!ノーラ。すごい魔法だねえ!」
ビターン!
「バカじゃないの!あんたが魔法使ってたらさっさと終わってたの!ちょっとは反省しなさい!」
「痛いよお、ひどいよおおお」
涙目になったアーサーを見てこらえきれずに笑い出すヘンリー達だったが、
『ふ、ふふ、ふ』
どこからか、低く、まるで地の底から響いてくる様な笑い声が聞こえてきた。
『蛇一匹殺すのに、大騒ぎか。おまえたちに、何ができる?ふ、ふふ』
「誰よ、出てきたらどうなの?」
ノーラが叫ぶが、問いかけには答えず、
『ふふ、ふふ。楽しみが増えた。ふふふ』
その声は闇に溶けていった。
「ノ、ノーラ、今のは?」
「こいつをけしかけてきた張本人でしょ」
しばらくするとレスターが駆けつけてきた。
「……これは一体なんの騒ぎですか?」
「えっと、あのですねえ」
アーサーはなんと説明しようか考えたが全然浮かんでこない。
真夜中に廊下で大蛇が死んでおり、貴重な装飾品や絵画が見るも無残な姿でそこら中に散乱している。
おまけにそのヘビの上には猫が仁王立ちして、拳銃を持った家庭教師と談笑しているのだ。
こんなの説明不可能だよ。
と、思っていると、
「お久しぶりです、ノーラ様」
レスターはノーラに深々と会釈をした。
「久しぶりね、レスター。あんた、だいぶ老けたわねー」
「ええっ、二人とも知り合いなの?」
「あんたねえ、私が何百年この家に仕えてると思ってんの?この子なんてこの屋敷に奉公しにきた、ケツの青いガキの頃から知ってるわよ!最初は失敗ばっかりで、随分助けてあげたんだから。ねえ?」
レスターは苦笑している。
「返す言葉もございません。ノーラ様、あらかじめ仰っていただければお食事も別にご用意いたしましたのに」
「あんたが出てくるとかたっ苦しくて面倒になるからね!まあ、仕方ないけど」
「しかし、この有様は」
レスターさんはそこら中に壊れて飛び散った花瓶や絵画と銃をぶら下げたヘンリーを見つめる。
「あ、あの、ヘンリーさんはぼくたちを助けようとしてくれたんです!」
アーサーはあわてて叫ぶ。
「おまえはツメが甘過ぎる。そう言うところがまだ半人前なんだぞ、ヘンリー」
「ロイズ保険会社には政府の方から連絡を入れておくよ、父さん」
ヘンリーは屈託のない笑顔で答えてる。
「えー!ちょっと待ちなさいよレスター、あんたこんな大きい子供がいたの?聞いてないわよ!」
ノーラがびっくりして大きな声を上げた。
「私にもプライベートの秘密はございます」
レスターは、すまし顔で答えた。
え、え?父さん?ちょっと待ってなにそれ?わからないことばっかりだよお!
アーサーはさらに途方にくれた。




