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第五十二話「正体」(2)

「名前は、キキっていうんだ」

 クリスが嬉しそうに紹介した。

 一同は、自動修復システムのメンテナンス・ルームに入っていた。中央の通路からドアをくぐり、一メートルほど進むと、そこで通路は右に折れる。そのまま船尾側に伸びる十メートルほどの通路が、そのままメンテナンス・ルームである。

 その中ほどに、キキと呼ばれた、猫がいた。

 体長約四十センチ。黒い体毛。金色の瞳。紛れもなく、昨夜の黒猫であった。

「へえ、可愛い」

 昨夜、シンとの睨み合いを見ていないユーキが、近づいてキキの頭を撫でた。

 ナチアは眉をひそめたが、過日の迫力はどこへやら、黒猫は、嬉しそうに目を細くした。

「これが、システムの全てなのか?」

 シンが問い、クリスが首を振る。

「ううん。これは、自動修復システムをメンテナンス・ルームの側から直すために作った、あくまでも部分的なもの」

 システムの本体はキキの百倍以上だよ、と、クリスは笑う。

「通路に実体化できるのは、この猫だけなんだな?」

 シンが念を押す。昨夜の出来事が、シンを慎重にさせていた。

「うん。一応、意識は共有してるけど、ぼく達の生活スペースとかで実体化できるのは、キキの分だけ」

 へえ、と言いながら、ユーキはキキの頭を撫で続ける。

 撫でられた黒猫は喉を鳴らしている。

「猫としての概要と、スペックを話してくれ」

 シンに命ぜられ、クリスは喜んで説明を始めた。

 名称はキキ。

 体長は四十センチ。ただし、変形できるため、ある程度の伸び縮みは可能。

 体重は約三百キロ。見かけよりも、相当に重い。

 体毛は黒。色を変えることもできる。

 知能レベルはサイバー・ビーングとしてトップ・クラス。反面、マーベリックのメモリーの大半が消失したため、知識レベルは低い。

 単純な物理的パワーは大型のポリス・ロボット以上。反応速度や危機察知能力も高く、例えるならば、戦闘用ボディ・スーツの塊のようなものである。一般的な人間など、勝負にすらならない。

 外界の情報収集は、基本的に本体の自動修復システムから行う。ただし、擬似的ではあるが、目や耳を持ち、実際に光や音の識別も可能。触覚や味覚、嗅覚と呼べるものまである。

 その他に、微量ながら電磁気を操ることもできた。ただし、あくまでも微量であり、船の修復には利用できるが、人間に影響を感じさせるほどではない。

「へえ、じゃあ、見かけによらず強いんだぁ」

 ユーキはすっかり、キキが気に入ったようであった。

「ほんとうに、危険はないのですわね?」

 ナチアは、まだ疑っていた。

 知能が高くて知識が少ない。その時点で相当に怪しい。

「うん、ないよ」

 クリスの返答は明確である。

「作り直した、と言ったな。マスターはクリスか?」

 シンが確認した。

 ロボットを含めて、すべてのサイバー・ビーングには、マスターの設定が義務づけられている。これは、連邦も帝国も違いはない。

「いちおうね」

「いちおうって、なんですの?」

「クリスって、呼ばせてるんだ。ぼくの友達だもん。マスターなんて、柄じゃないでしょ」

 クリスらしい考えであった。

 クリスは、自動修復システムが自己修復を行って四人の命を救って以来、大の「自動修復システム好き」になっている。その愛情は、並々ならぬものがあった。

「でも、なんで夜中に、外に出てたの?」

 ユーキが何気なく尋ねた。

 実は、シンが次に聞こうと思っていた質問でもあった。

「たぶん、環境確認だと思うんだ」

「環境確認?」

「うん。キキは、システム本体の存在する、このメンテナンス・ルームから出られないんだ。本来実体化できない場所で、無理矢理に形を保っている状態だからね。一定距離以上離れると、動けなくなる」

「ええ。それで?」

「自分がどこまで離れられるか、試していたんだと思う」

「ああ、そうなんだ」

 ユーキは簡単に納得したが、シンは聞きとがめた。

「待て、クリス」

「なに?」

「この猫は、マスターであるお前に何も言わずに、そんな事をしたのか?」

「そうみたい」

「一切の痕跡、データが消えていたが…」

「修復システムは、けっこうな権限持ちだからね」

「自己防衛本能によるものだな?」

「うん、たぶん」

「一応確認しておくが、防衛本能よりも上に、マスター設定がプログラムされているな?」

「ううん」

 あっさりとクリスが答えた。

「…ナチア」

 シンから名前を呼ばれた意味を、少女は的確に理解した。

「バカクリスっ」

 怒鳴り、思いっきり頭をはたく。

「それでは、マスター設定の意味がありませんわよっ」

 はたかれた頭をさすりながら、クリスが反論する。

「だって、いいじゃない。自動修復システムはこれからも必要なんだし、防衛本能を一番にした方が、作業効率よかったんだもん。マスター設定なんて、そんなもの、その下で十分だよっ」

 相変わらずの、確信犯ぶりであった。

「…クリス。お前はDブロックで、何を学んだ?」

「あの時のサイバー・ビーングは、防衛本能よりも上位に、自殺願望を持たされていたよっ。比較にならないよっ」

 比較にならない訳はない。

「マーズのエミリア事件は、知っているな?」

 シンは、宇宙暦以前に起きた、重大な事件のことを持ち出した。

 クリスは頷く。その道を歩む者達にとっては、有名な事件である。クリスが知らない訳がなかった。

続く

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