表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/243

第十三話「親睦」

 パーティーは夕方から始まった。

 場所は、いつもの黒猫亭である。

 出席者は、チーム・マーベリックの全員が揃った。

 初めて来た時に四人で座った席に、この日は六人が腰を掛けた。一番奥の席は、今回主役のヘレンとクリスのものである。U字型の席に左から、ボーイ、ナチア、ヘレン、クリス、ユーキ、シンの順に並ぶと、ちょうど席が埋まった。

「えー。それでは不肖、ボーイ・ブロスが乾杯の音頭を取らせて頂きます」

 ボーイが立ち上がり、グラスを手にする。

 他の五人も同様にグラスを取り、ボーイの掛け声を待つ。

「クリス少年の今後の活躍を期待し、ミズ・スタイナーの美しさに敬意を表しましてぇ…」

 ボーイの大声が店内に響く。

「かんぱーいっ!」

 乾杯!

 六人は、それぞれの高さでグラスを掲げた。

 この日一同が集ったのは、クリスの歓迎会兼ヘレン含めた全員の親睦会のためであった。

 次に休暇がきたらやろうと、ボーイ達は話していたのだが。その休暇がやってこないまま、クリス着任から十日が過ぎてしまった。駄目で元々の気持ちで、訓練を早めに切り上げたいとの申し出をしたところ、ヘレンはあっさり了承してくれた。こんなことなら早く言えばよかったとボーイは悔やんだが、誰に文句が言えるでもなかった。

「なんですの、さっきの掛け声は?」

 ボーイが席に着くと、隣からナチアが文句をつけはじめた。

「感動的だったろ」

 平然と答える。

「クリスの分はともかく、教官のあれは、なんですの?」

「おっ、やきもちか、ナチア」

「馬鹿を言わないでいただきたいですわ」

「照れるな、照れるな」

「まったく。店中に注目されてしまったではありませんか」

 ナチアの言葉はそのとおりであった。チーム・マーベリックの六人は、従業員を含めた店内中の注目を集めていたのである。

 これまでに二回の大喧嘩を繰り広げたシン、ボーイ、ユーキ、ナチアの四人は「クレイジー・ボーイズ」の名称で、すっかり街の有名人となっていた。さらにこの日は、新しい二人も加わっている。一人は、褐色の肌を持つ長身の女性。一人は、明るいブラウンの髪を持つ利発そうな少年。しかも、全員が軍服を着用していた。

 軍服の着用はヘレンが要求したものである。チームの連帯感向上という目的がある以上、軍服の着用は当然というのが、その趣旨であった。

 理由はどうあれ、数を増したクレイジー・ボーイズが、全員軍服で乾杯をする姿は、壮観ともいえた。

「あらためまして、よろしくね、クリス」

 ユーキがクリスに、笑顔を向ける。

「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 対するクリスは緊張気味に挨拶をして、一気にグラスを空けた。こういった場所が初めてであったし、何よりも、美人に左右から囲まれていることが、クリスの体を固くさせていた。短い間とはいえ、ともに過ごしたメンバーではあったが、ここまで接近したことはあまりない。十四歳の少年としては、平常心を保つのに懸命であった。

「教官も、今日はありがとうございました」

「こちらこそ。これからも、宜しくお願いします」

 クリスの目の前では、ユーキとヘレンが、にこやかに話しはじめていた。

「どうした、クリス?」

 途中で、シンが声をかけてきた。

「は、はい、大丈夫です」

 あまり意味の繋がらない返答をする。大丈夫じゃありません、と言っているのと大差ない。この時すでに、クリスは酔っていたのである。

「どうしたの、クリス?」

 続いてユーキが覗き込むと、すっかり赤くなった顔がそこにあった。

「ユーキ、クリスのグラスは、アルコールか?」

「ううん。そんなこと、ないんだけど…」

 シンに対してユーキが首を振る。ユーキがクリス用に頼んだのは、ただのジュースであった。

「ぼ、ぼく、大丈夫ですから」

 クリスの上半身は、緩やかに円を描きはじめていた。

 その横からヘレンの腕が伸び、空になったクリスのグラスを、形のいい鼻に近づける。

「…少し、強いですね」

 シンとユーキが顔を見合わせた時、横から明るい大声がした。

「おっ、どーしたクリス、もう酔っぱらったかっ」

 あくまでも明るいボーイである。

「犯人はお前か」

 やれやれ、といった顔でシンが首を振り、ユーキが小さく溜め息をつく。

「また何か、やりましたの?」

 ナチアも呆れた声をだす。

「なーに、元気の出る薬さ。な、クリスっ」

 ボーイの大声に刺激されてか、ヘレンに介抱されていたクリスが、突然顔を上げた。

「はいっ、ボーイさんっ」

 高い声が響く。

 ユーキとヘレンが押さえようとするが、逆にボーイが煽り立てた。

「よーし、それじゃあ、なんか言ってみろ、クリスっ」

「はいっ。ぼっ、ぼくはっ…」

「ぼくはっ?」

「ぼくはっ、負けなーいっ!」

 制止するユーキとヘレンの腕を払いのけ、クリスはいきなり立ち上がった。何に負けないのかは、無論よく分からない。

「ちょっと、酔うの早すぎ」

「飲んだことありませんの?」

 戸惑うユーキと、呆れるナチア。どちらの声も、クリスには届かない。

「負けるもんかーっ!」

「いいぞーっ」

 喜んでいるのは、ボーイと店の客達であった。

 ボーイの扇動をナチアが咎めたが、あまり効果はなかった。

 この頃になると、シンはとめることを諦めて、自分のグラスを傾けている。

「ぼくは大人だーっ! ぼくは、子どもじゃなーいっ!」

 テーブルに上ったクリスが絶叫する。

「そのとーりぃ!」

 店内から、やんやの声援が上がる。

 クリスはテーブル上で何やらポーズを作る。

「見てっ、ガッツ・ポーズだってできちゃうっ!」

 クリス自身、自分が何をやっているのか、もはや分かっていなかった。

「見てっ、ぼく…、ぼくっ…」

 本人曰くガッツ・ポーズの格好のまま、クリスはゆっくりと、テーブルの上に倒れ込んでいった。

「おーっ」

「よくやったーっ」

 少年が倒れたことに対しても、店の客は惜しみなく賞賛の声をあげていた。

続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ