90「エンジーの気持ち」②
「ごほっ、げほっ」
「……す、すまん。急に変なことを聞いたな」
咽せてしまったエンジーに近づくルルウッドが背中をさする。
「まさかこのように過剰反応するとは思ってもいなかったんだ」
「……げほっ、い、いや、過剰反応って」
ありがとう、とエンジーが背中をさすってもらったお礼を言いながら、ジト目をルルウッドに向けた。
「どうしたの、急にそんなことを聞くなんて。ルルウッドらしくないっていうか、なんていうか」
ルルウッドは恋愛事に余計なことを言わない。
友人たちに対しても、見守るくらいにしているのだ。
そんなルルウッドが、エンジーにミナに恋をしているのかと直球で聞いたので、二重の意味でエンジーは驚いてしまったのだ。
「あー、その、なんだ。私から見るとあからさまだからな。そろそろエンジー自身も気持ちを自覚したのではないかと思ってつい聞いてしまったんだ」
「……そ、それは」
「言葉に詰まるということは、想いに自覚はあるのだろうな」
「…………」
エンジーは無言だったが、それが答えである。
違うなら違うはずだ。
ルルウッドも、別にエンジーの気持ちを暴こうとは思っていない。
暴くまでもないのだが、そういう意味ではなく、できることなら見守るだけでいたいと思っている。
同時に、兄弟同然に育ったエンジーのことを、ルルウッドは自慢の家族だと思っている。
だからこそ、人に対して恐れることなく接することができてきたのだから、次の段階に進んでもいいのではないかと思い、つい余計なことを言ってしまった。
ルルウッドから見てエンジーはミナを好きだろう。
恋なのか愛なのか、それとも好意なのかルルウッドにはわからない。
見る限り、恋か愛だろうとは思っている。
対して、ミナはエンジーをどう思っているのだろうかと考えると、好意は間違いなくある。それと同じくらい、弟として可愛がっている面もあるだろう。
ミナはまだ子供だ。もしかしたら、まだ自分の感情に気づいていない可能性だってある。
そんなふたりの関係は緩やかで優しいものだ。
だが、ルルウッドや治癒士の同期たちからすると、ミナはさておき、エンジーに関してはちょっともどかしく思ってしまう。
かつて人が怖くてしかたがなかったエンジーが、今は人付き合いがちゃんとできるようになっただけではなく、災厄の獣に立ち向かう勇気も得た。
今日、結界術も習得し、将来は有望だ。
どこからか政略結婚が舞い込んできてしまい、エンジーが望まぬ結婚をすることは親友として望まない。
(――個人的に、今が好機だと思うんだがな)
エンジーはレダからの信頼も厚い。
ルルウッドたちよりも一歩、ディクソン一家に踏み込んだ関係だ。
おそらくだが、エンジーの気持ちはディクソン家の女性陣にはバレているだろう。
周りから見ていると、一部の人間を除いてみんながエンジーとミナの関係を暖かく見守っているのだとわかるのだ。
(せっかく普段のアムルスとは違う王都にきたんだ。気持ちを変えて、王都の話をしてみるとか、教会内を散策するとか、ちょっと街に出てみるとかいろいろできるんだがなぁ)
大きなお世話だと言われてしまうだろうが、エンジーの幸せを心から望むルルウッドは王都にいる間にエンジーとミナの関係が少し進展すればいいなと思うのだった。




