表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/113

11


 次の中継地ルートイン、蝶の塔は薄っすらと小さく見えていた。そこから俺の足元まで視線を戻すと一か所、草原が森に食い込んでいる所に気付く。蝶の塔からここまでの、ちょうど中間の辺りだ。


 普通なら、あそこで野営するのだろう。今となっては、無謀と言える。あそこを抜けてから野営するか、抜ける前に野営して翌朝そこを抜けるか。


 カールらの判断は夜を待って朝に抜けるというものだった。俺も賛成だ。夕方、慌てて抜けるのは肉体的にも精神的にも相当こたえる。


 準備を整えて、セイトに挑んだ方が良い。朝方と言わず、一日中タイミングを見ても構わない。セイトを渡るのは次の日に持ち越してもいいぐらいの気持ちが必要だ。とはいえ、あまりにタイミングを見計らうばかり、結果、怖気づいてしまって、先に進めなくなるという恐れがないわけではない。


 何にしろ、ここからだとセイトの状況は掴めない。斥候を出すべきだとカールは言った。タイガーは少し違う意見で、先発隊を出すべきだと主張した。


「ロード・オブ・ザ・ロードは各ジェトリの支配地域にあっても、ジェトリの力は及ばない。ローラムの竜王の所有物だ。いや、竜王の体の一部だと言っていい。ジェトリは命じられる意外、何もできない。それが何らかの理由でローラムの竜王の魔力が落ちていたとしたならどうなる? 最悪、セイトを入口にしてロード・オブ・ザ・ロードへの、はぐれドラゴンの侵入が考えられる。そして、入ったら最後、ジェトリには手が出せない。今まで森に入れなかったはぐれドラゴンはロード・オブ・ザ・ロードを好きに移動するだろう。賢いドラゴンに守られている世界樹は別として、森ははぐれドラゴンのブレスで全て焼き払われて、動物の住めない荒野になってしまう。我々も、ルートインも失うことになる」


 こういっちゃぁ何だが、タイガーは見かけによらず頭がいいと思った。自身の目的のために、カールとも上手くやっている。そもそもタイガーは永らくバラバラだったシーカーを一つにまとめた男だ。行為としては英雄的であり、知能程度も高いのだろう。


 別に軽んじていたわけではない。が、俺は尊敬の念をもってタイガーに接しなければならなかった。


 男色が原因で大勢殺したと噂される。知能程度は低く、かッとしやすいやつだと思い込んでいた。だが、そうではないようだ。大勢殺したという噂は大間違いで、それを回避するため、最初っから少年にマスクをさせていたのではないか。


 あるいは、本当に誰かを殺したのかもしれない。そこで気付いたのだ。二度とそういうことにならないよう対処したとも考えられる。ともかく、知能程度は低くない。いや、むしろ、LGBTは才気溢れる者が多いのだ。


 にしても、ドラゴンのアーメット兜の少年である。珍しくタイガーと一緒にいない。ここまで片時も離れることはなかった。タイガーはなぜ離れることを許したのだろうか。どうも引っ掛かる。


「今から十五人、先発させる。セイトまで、はぐれドラゴンがもしいたなら駆除させる。俺たち六人とカール、キースは安全を踏まえたうえで進む。明日の朝、出発だ」


 タイガーを含め戦闘員は二十名だった。少年をいれると二十一人。その内、十五人を先に行かせる。先発隊と言っても彼らが主力なのだ。カールは、タイガーのその意見に賛同した。


 シーカーたちは、俺たちの盾になろうとしている。当然、先発隊ははぐれドラゴンに接触したら戦う。俺たちはその後悠々と旅を続けることになる。何者にも従わないシーカーにしてみれば、涙ぐましい努力じゃないか。彼らが何をしたいのか、俺たちは薄々感付いている。カールにはそれに答える気持ちがあるのだろうか。


 いいや、それはない。すまない、これは決まりなんだ、と肩を落とし、力なく頭を前に垂れるポーズを彼らに見せるだろう。が、しかし、それはあくまでポーズであって本心ではない。もともとカールには、シーカーのために骨を折る気はさらさらない。やらせるだけやらせてポイっていう腹積もりなんだ。


 大体、何もかも薄っぺらなんだ。上っ面を取り繕う、は言い過ぎかもしれないけど、兄とはこういうもんだ、王太子とはこういうもんだ、を世間の尺度で忠実に行っているだけ。心はない。言うなれば、ただ単に義務を遂行しているに過ぎない。


 あの小さいドラゴンに対してはどうだったか。カールも過去、旅立ちの儀式で誓ったはずだ。“竜王のものは竜王のもとへ 我は復讐の連鎖を断つ者”でなかったのか。恐れを知らないというか、竜王にこれから会おうっていう男の態度ではない。


 つまり、カールは一皮むけば、不遜なのである。それは一見、革新と見違える。どの時代も人々は変化を求めている。しきたり、規則、習慣にとどまらず、あらゆる事柄に押し付けられ感を覚えている。そして、人々はそれを軽視したり、否定したりする人物に対し拍手喝さいを送りがちだ。だが、おごり高ぶった者も自分以外、あらゆる事柄を軽視し、否定する。


 そんなカールがタイガーのために、自分の身を差し置いてローラムの竜王にお願いをするだろうか。残念ながらタイガーは世間の噂に騙され、カールを見誤っているとしか言いようがない。


 なにしろカールは、自分も殺されるかもしれない状況でありながら、小さなドラゴンを助けなかった。カールには出来たはずだ。魔法を使えるのだ。庭師の様にロード・オブ・ザ・ロードの外に出て、世界樹を植え替えるのだ。


 別に本心から小さいドラゴンを助けたいと思わなくっていい。罪滅ぼしでもいいし、それこそディールでも構わない。だが、カールの頭にはまるでそのことはなかった。俺には、カールがローラムの竜王を軽んじているとしか思えない。


 時刻は昼過ぎであった。タイガーはさっそく隊員を選抜し、先発隊を出発させた。彼らに何もないことを願うばかりだ。






 早朝、俺たち八人は出発した。道中、戦闘の跡は見かけなかった。はぐれドラゴンが侵入しているかもしれないというタイガーの心配は杞憂に終わったようだ。ただ、ここでも、庭師は朽ち果てていた。動かず、イーグルの塔とライオンの塔の間の庭師と同じように道に放置されたままだった。


 それ以外、旅は順調で、しかも先のことが心配とあって急いていたこともあり、俺たちの速度は上がっていた。夕暮れまで二時間を余し、野営地予定のセイト付近までたどり着いた。


 先発隊の十五人は全員健在であった。ロード・オブ・ザ・ロードに光が差し込んでいるそのすぐ近く、深い森側の、光が届かない暗がりに、身をひそめるように陣取っていた。


 ロード・オブ・ザ・ロードは、まるでトンネルのどてっぱらが穿たれたように、そこから光が差し込んでいた。そんな風な場所がこの先、見える範囲でも何か所もあった。先発隊はその光が差し込んでいる幾つかの場所の一番手前を指差した。


 遠目に、何かいるのが分かる。大型の犬ぐらいの大きさの、ドラゴンだった。形はワイバーンだと言っていい。翼があり、長い首に、長い尾があった。二本足で立ち、前足が翼で、コウモリと同じく、飛行のための飛膜が指の間に張られていた。水掻きを思い浮かべたらいい。


 飛行せず、歩いていた。地上に降りている時はゴリラのようにこぶしを地につけている。それはつまり、指は後ろ側に折れているということでもある。鳥のように翼が脇に収納されるわけではない。後ろ側に広げられ、ワイバーンはまるでマントを束引かせているように歩いていた。


 ドラゴン界隈で言えば、このタイプはほぼ、はぐれドラゴンであるという。世界樹の空きを求めて放浪するのに飛行は適した能力だ。とはいえ、元々ドラゴンの背には翼があった。賢いドラゴンは魔法と合わせその翼を使うらしいが、はぐれドラゴンには魔力がない。素で飛ぶ必要があった。ゆえに元々の翼は使われず、退化してしまったらしい。


 他にも言うとすれば、ことエトイナ山周辺では、はぐれドラゴンのブレスはほぼ炎で間違いない。場所によっては冷気だったり、毒ガスであったりと様々だが、この周辺では地殻活動が活発ということもあって、炎が主流らしい。


 小さいワイバーンは、道の草原側でちょろちょろと動いていた。先発隊が言うには、ここへ来た時からずっとあの調子だそうだ。小さいので、初めは追い払おうと考えたらしい。だが、下手に手を出して泣き叫んでもしたら大変だ。他のドラゴンを集めてしまう。ほっとけば立ち去るだろうと高を括っていた。が、とんだ馬鹿をみた。結果的に昼からずっとこの調子である。


 タイガーはアーメット兜の少年と何やら話をしていた。下した判断は、捕まえてしまおうってことだった。


 あそこから動かないのであれば即死させ、こっちに引き寄せるのがベストだと誰しもが思う。俺もそう思った。が、あの場所にずっといるっていうのもおかしい。同じ行動パターンを繰り返しているっていうのも腑に落ちない。


 先発隊が悩むのも仕方がないことだった。おそらくはアーメット兜の少年も即刻駆除するのを反対したのだろう。少年の意見が、タイガーの考えにどのように影響を及ぼしたのか分からない。だが、結果的にタイガーはそう決断をした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ