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4-2

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「それじゃあ、私たちは、これで失礼するわ。また何か分かったら教えてね」

「あ、はい」


 ヒビキの【メモリード】で記憶を呼び戻すヒントを貰い、動揺したシャルラが落ち着いた後、ヒビキの言葉に返事を返す。

 

「それからシャルラ。お前の希望が通ったぞ」

「バルドルさん、それって……」


 シャルラが落ち着いたのを見計らい、バルドルが話を切り出す。


「医師の見立てでは、記憶以外は、健康だ。だから、そろそろ退院して日常生活に戻ることになった。しばらくは、借り家に住みながら、牧場町での生活のを模索していくことになると思う」


 記憶喪失の密偵とは言っても、それほど危険を感じていない。

 そもそも密偵は、諜報活動専門の人間であり、荒事専門の人間ではない。

 時に対象の周辺で情報を収集し、時に酒場などに溢れる情報を繋ぎ合わせ、推測して一つの情報に仕立て上げ、時に集めた情報で更に交渉や脅迫をして別の情報を集める。

 記憶や情報を活用する類いの人間なのに、記憶喪失では、活用する情報もない。

 また、情報を集めて、何らかの行動を起こそうにもその目的が彼女に欠如している。


 なにより、俺と暗竜の雛であるチェルナを害したいなら、密偵よりも暗殺者を起用する。

 密偵を送り込んだ時点で第二王子派閥は、そこまで強攻策が取れなかったと見て取れる。

 そんな背景を想像しての危険度の低さに、経過観察、という結論に至ったのだろう。


「それじゃあ、シャルラ。また来る。今度は町の案内だ」

「はい。待っています」


 そう言って、嬉しそうにはにかむシャルラに頷き退出する俺たち。


「それじゃあ、次の場所に行くぞ」


 続いて、壊れた騎士団の駐在所の代わりに町の役場の一室に作られた騎士団の部屋に移動する。

 そこには、シャルラの所持品が保管されており、彼女が密偵である確固たる証拠が揃っている。


「これがシャルラの所持品だ。この中には、密偵への命令や依頼の内容のメモ書きとかはないから既に廃棄されたんだろう」


 それをヒビキがシャルラの所持品を眺めつつ、バルドルがこの所持品から密偵だと判断したが、ヒビキの話で答え合わせをしたいんだろう。


「記憶では、彼女は、密偵で確定ね。シャルラさんの記憶だと、レスカちゃんの牧場に侵入しようとした前後で記憶が途切れていたわ」

「レスカの牧場……ってまさか、ヒビキの防犯用の設置魔法とか?」

「いやぁ~、流石に外周には付けてないわよ。多分……」


 そう言って、言葉を濁すヒビキ。

 俺は、多少は魔力の感知はできるが、レスカの牧場には安全確保のための結界などがヒビキによって張られているが、それに隠れて何種類かの設置型トラップの魔法があってもおかしくない。

 俺が胡乱げな目で見つめると、誤魔化すように視線を逸らす。


「いいじゃない! 家主のレスカちゃんに許可取ったわよ!」

「むぅ、そう言われると……」


 今度は逆ギレ気味に言われた言葉に俺は言葉を詰まらせる。

 そんな俺たちのやり取りを見て、呆れたように溜息を吐き出すバルドル。


「それより、シャルラの仲間の行方とか、何か分かることはあるか?」


 シャルラの記憶の復活や消えた三人の仲間の行方、密偵たちの目的、密偵を襲撃した正体不明の脅威など分からないことはまだ多数ある。


「一つだけ、シャルラさんの記憶で一つ気になったことがあるのよ」

「それは、なんだ?」


 俺より先にバルドルが食いつくのをヒビキが少し引き気味になりながら答える。


「《メモリード》で記憶を読んだんだけど、レスカちゃんの牧場侵入前後で記憶が途切れている。というか、正確には、その間の記憶が靄が掛かったように読み取れないのよ」


 靄が掛かった、とはヒビキのイメージであり、その部分の記憶に何らかの細工がされた可能性がある、ということ。


「魔法か魔法薬で記憶に干渉したのか分からないけど、その干渉された部分以前の記憶に本人自身は遡れないみたいね」


 ヒビキのように外部からの記憶の確認ならできるらしい。


「それじゃあ、シャルラの記憶は一生戻らないのか?」

「少しずつ影響は薄れているからその内、思い出すわ。それに、今日断片的でも思い出すヒントを教えたから効果が薄れるのも早まると思うわ」


 そう言って、説明に補足するヒビキにバルドルが安堵する。


「なら、またある程度記憶が取り戻したところでまた《メモリード》を使えば、全容は分かるんだな」

「そうね。そうしたらもう一度使えば、全容は分かると思うわ」


 ヒビキの言葉にバルドルが嬉しそうに表情を緩ませる。


「なら、シャルラは、しばらくは普段通りの生活を送ってもらって記憶を取り戻し始めたらまたお願いするとしよう。一応、シャルラとその仲間を襲った相手には警戒するか」


 そう言って、結論付けるバルドル。

 記憶に干渉する魔法か魔法薬を使う密偵を襲う相手。状況的に考えれば、暗竜の雛であるチェルナとその保護者である俺との関係維持したい第一王子派閥と、交渉しようとする第二王子派閥との暗闘だと思われる。

 現状維持を考える勢力なら警戒だけして、様子見するべきだとバルドルは考え、俺もそれに同意する。


 とりあえず、まだ問題は残っているが、記憶喪失の密偵のシャルラに関しては見通しが立った。

 そのために俺とヒビキは、町の役場の一室から解放され先に帰っているはずのレスカの牧場に向かう。

 そして――


「コータスさん、ヒビキさん。お疲れ様です。どうでした?」

「レスカ、ただいま。こっちは一段落付いた。そっちは?」

「今、荷車の中身を片付けているところです」

「なら、手伝おう」

「私も手伝うわ」


 先に帰ってきているレスカは、公益で交換した積み荷などを降ろすのを手伝う。

 俺が重いものを担当し、レスカとヒビキが小物を担当する。

 そして、その後、夕暮れ前まで牧場の管理を手伝う中、牧場の各所で俺たちの帰りを出迎えてくれたコマタンゴたちを見つける。


「……ただいま。って言っても分からんか」


 足元に寄ってきたコマタンゴにそう呟くと、満足したように頷くようにキノコの笠を縦に振り、レスカの牧場内を自由気ままに動き始める。

 他にもオルトロスのペロをペタペタと触れて確かめるコマタンゴや、リスティーブルのルインに齧られ、そのまま食べられるコマタンゴ、暗竜の雛のチェルナと見つめ合っているコマタンゴなどが見て取れる。


「まぁ、俺たちが帰ってきて喜んでいるのか」


 約10日間の不在で連れ出せなかった魔物たちだ。

 帰ってきたことを喜んでもおかしくはない。

 ただ、10日ばかり留守にしたために、コマタンゴの数が若干増えているようだ。

 明日には、手足を切って、干しキノコや牧場町の商店に出荷できるように数を調整しないと、と思ってしまう。

 そんな風に思う俺は、大分この牧場町に慣れてきたような気がする。



9月20日、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売します。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

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