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4-3

 4-3


 翌日、畑の管理を終えた俺は、レスカに付き添い、幾つかの牧場を訪れる予定だ。


「魔物の集団進化現象。レスカは、何か目星はついたのか?」


 昨日、バルドルに頼まれた魔物の集団進化現象の調査にレスカが乗り出し、昨晩は、一人で関係しそうな書物などを選び取っていた。

 だが、それだけでは、情報が足りないと実際に進化した魔物を確認しようというのだ。


「目星は全くありません。ですから、実地調査をします。魔物の集団進化以外にも、町の皆さんが気がついていない変化とかがあるかもしれませんから」


 そう言って、俺と共に並んで歩くレスカ。

 今回は、オルトロスのペロと暗竜のチェルナをヒビキに預けての二人だけの調査だ。

 魔物の集団進化現象は、魔物の暴走現象に発展する可能性もある。

 そのために原因究明やこの現象が無害であることを証明する必要がある。


「それじゃあ、まずはランドバード牧場から尋ねましょう」

「ああ、わかった」


 俺は、レスカに付き添い、ランドバード牧場に訪れた。

 今日もランドバードが産んだ巨大な卵の卵液が量り売りされ、ランドバードの卵を使ったお菓子などが売られている直売所を名残惜しそうな横目で見ながらランドバード牧場の牧場主に話しかける。


「すみません!」

「おや、レスカ嬢ちゃんと騎士の兄さんか。どうしたんだ?」


 レスカだけではなく、俺にまで軽い挨拶をしてくる牧場主に会釈する。


「進化した亜種の魔物を見せて欲しいんです」

「ああ、わかった。アイツは、今別のところに隔離してるよ」


 俺は、黙ってレスカの付き添いを続ける中、牧場内に作られた柵の中に一体のランドバードが入っていた。

 亜種に進化したランドバードは、確かに他のランドバードと少し毛色が変わっていた。

 普通のランドバードは、白を基調とし、毛先が徐々に赤っぽくなるのに対して、この亜種に進化した個体は、毛先が緑色に変わっていた。


「こいつが、うちの牧場で進化したランドバードの亜種。ソニック・ランドバードだ」


 体格も一回り大きく、足の爪もガッシリとした緑色の羽根先を持つランドバード。

 走ることが好きなランドバードが一体だけ狭い柵に押し込まれて、不機嫌そうにしているが、その個体の顔つきに見覚えがある。


「お前……俺を乗せた個体か?」


 ランドバードの中で俺が始めて乗った個体であり、ジニーとヒビキがトレントにより【魔の森】に攫われた時、迎えに行くときに背中に乗せてくれたの面影がある。


『クルルルッ――』


 その個体は、不機嫌そうにしていたが、俺を見つけると嬉しそうに喉を鳴らしながらすり寄ってくる。


「やっぱり、お前さん。そのソニック・ランドバードに好かれているな。やっぱり、背中に乗せた人間には懐くものか」

「そういうものか?」

「すまんが、少しこいつに乗って走らせてやってくれないか? 理不尽に閉じ込めちまってストレスを溜めてるからな。その間にレスカの嬢ちゃんに話をする」


 ランドバードの牧場主の提案に俺は、頷く。

 俺がいてもレスカの調査が進むわけじゃない。ならば、閉じ込められていたランドバード。いや、ソニック・ランドバードと軽く走るくらいならいいだろう。と引き受ける。


「よし、付いてこれるか?」

『クエッ!』


 俺は、ソニック・ランドバードを誘導し、背中に鞍を付け、乗る。


「俺は少し走らせてくる」

「好きに走らせて良いぞ。騎士の兄ちゃんが居れば、暴れた時とかに取り押さえることが出来るだろうしな」


 そして、ストレスの溜めたソニック・ランドバードを自由に走らせる。

 最初から全力のソニック・ランドバードの走りに俺も手綱をしっかりと握り、全力で耐えながらも手綱を操る。

 以前、乗ったときよりも数段速さの増したランドバード。広めに作られたランドバード牧場のトラックなど狭く感じる。


「おい、そっちは柵だ!」

『クェェェッ!』


 久しぶりに走れて興奮したのかそのままランドバード牧場の柵へと直進するソニック・ランドバード。

 そして柵の手前で大きく踏み込み、ふわりと体が軽くなるのを感じた。


「なんだ――っ!?」

『クェェェッ!』


 空の飛べない鳥の魔物が空高く跳び、ランドバード牧場の柵を跳び越える。


「ランドバードが飛んだ!?」

「コータスさーん! ソニック・ランドバードは、強い脚力と翼の強度の上昇により滑空が可能となった亜種です! 是非とも満足行くまで走らせて下さい!」

「ちょっと待て、それは聞いて! ――っ!?」


 ソニック・ランドバードが滑空して地面に軽やかに着地すると再び、二歩三歩と走り、力強い踏み込みと共にまた高く跳ぶ。

 それを繰り返しながら、牧場町の外周の草原まで出て行き、そこで思いっきり自由に走り、跳び回る。

 全力で走ったと思ったら、踏み込みによる上昇。そして滑空かと思いきや、翼を閉じての急降下。そして、急上昇からの滑空と左右の旋回、そして急降下による強襲。

 ただ乗って走るだけだと思っていたが、ストレス発散と亜種に進化した体の能力を確かめるかのような様々な動きに俺は、吐きそうになるのをグッと堪える。

 そして――


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……終わったか」

『クェッ!』

「そうか。帰りはゆっくり帰ってくれ」


 暴れ馬に乗ってもやらないだろう激しい動きに限界になり、鞍の上からソニック・ランドバードの首筋に寄り掛かる。

 亜種に進化してより荒々しく鉄のように羽根が硬くなるのかと思ったが、並の羽毛以上に柔らかく、肌触りが良い。

 上位の魔物や珍しい亜種の魔物の素材が希少価値があるのは、こうした素材の良さがあるんだろうな、と思ってしまう。


 そして、帰巣本能があるのか迷わずにランドバード牧場に戻るソニック・ランドバードとその背中に寄り掛かる俺をレスカとランドバード牧場の牧場主が出迎える。

 レスカのその右手には、マドレーヌが握られているが……


「コータスさん、お帰りなさい。大丈夫ですか? お茶いりますか?」

「……ああ、疲れた。お茶を一杯貰おう」


 ランドバード牧場の牧場主が用意してくれたお茶をレスカがカップに注ぎ、俺に渡してくれる。

 それをゆっくりと飲みながら、ソニック・ランドバードを出迎えた牧場主が、話しかけながら、首筋を撫でる。


「そうか。久しぶりに十分に走れたのか。よかったな」

『クエェェッ!』

「悪いな、騎士の兄ちゃん。だが、一度自分の限界を知ったんだ。次は、ここまで無茶しないさ!」

「それが分かっていて俺が乗るように誘導したのなら、性質が悪い」


 そう呟けば、苦笑しながら、悪い、と謝ってくる。


「それより、レスカの方の話は済んだのか?」

「はい。とりあえず、ソニック・ランドバードに進化した日時を聞いて、今後の扱いを聞きました」

「進化したのは、お前さんたちがエルフの里に向かった二日後だ。今後の扱いって言ってもこれまで通りだな。ランドバードは、亜種も群れで生活させることができる。けど、勿体ないなぁ」


 そう呟くランドバード牧場主。露骨に俺に聞かせるような呟きに俺はあえて乗って尋ねる。


「勿体ない? ソニック・ランドバードには、何かあるのか?」

「魔物競走ってものが世の中にはあるんだ。調教師たちが魔物同士を戦わせる闘技場とは違い、魔物同士がただ純粋に速さを競う大会があるんだ。こいつを出場させられなくて勿体ないのさ」


 魔物競走。それは、各地の調教師が自身の魔物を制定されたコースを走らせる大衆娯楽である。

 陸上と空中、水中などの部門があり、魔物と騎手が一体となって行われる競技だ。

 このアラド王国でも行われており、真竜・アラドを崇拝している関係上、空中競走の部門が盛んである。

 また王国主催の魔物競走では、ワイバーンに乗る竜騎士たちも参加し、自らの力量などを知らしめる場に使われる。

 他にも、各地に存在する優秀な成績を修めた魔物が王国に献上されたり、その魔物と騎手が合わせて国に仕えたりするなどある。

 また、献上や国に仕えなくても、優秀な成績を修めた魔物と騎手には、賞金と栄誉が与えられる。


「俺も昔は、ランドバードで魔物競走に出て、優勝したいと思ったことがあるさ。だけど、うちの通常種のランドバードじゃ勝つだけのポテンシャルはない。そして今度は俺が年を取り、魔物競走の騎手として耐えられない年齢になった」

「それじゃあ……」


 このソニック・ランドバードは、進化のタイミングが違えば華々しく活躍したのかも知れない。そう思いソニック・ランドバードを見れば、当の魔物は理解していないのか小首を傾げている。


「俺には、騎手の夢は叶えられねぇが、騎士の兄ちゃんならまだ若い。こいつと組んで魔物競走で天辺を目指してみるのも面白いんじゃないか?」

「むぅ、確かに進化したソニック・ランドバードならそれも可能かもしれませんけど、コータスさんは、騎士ですよ。おいそれとお仕事は辞められませんよ!」


 俺が以前レスカからの勧誘を断ったように、今度はレスカが先にランドバード牧場の牧場主に断りを入れる。


「そうした提案は、とても嬉しいし、魅力的だ。だが、レスカの言うとおりやっぱり俺は騎士の身分だから、その誘いには乗れないんだ」

「はぁ、やっぱりダメか。けど、もし魔物競走に出る機会があるなら、その時は是非、こいつを使ってくれ。俺は貸し出したオーナーってことで名前載せるだけでいいから」

「もう、ちゃっかりしてますよ!」


 頬を膨らませて怒るレスカと豪快に笑うランドバード牧場の牧場主。

 俺がレスカの牧場以外に奪われそうになるのに怒っているが、ランドバード牧場の牧場主は、半分冗談でレスカをからかっているようだ。


 そうして集団進化した魔物の一件目の調査は終わった。


 後で聞いた話だが、ソニック・ランドバードへの進化による不利益よりも利益の方が大きいようだ。

 元々雄であるために卵の生産には寄与していなかった。

 その代わり、速さを求める方向で進化したためにその羽根は、軽くて丈夫で肌触りのいい性質に変わった。

 そのため、専用牧舎を作ってその中で抜け落ちた羽毛だけを集めて、洗浄し、売り出せば、高級羽毛として富裕層向けの素材となる。

 他にも通常種から亜種に進化した魔物というのは、生まれながらの同種の魔物に比べて強い傾向がある。

 そのために、少しでも強い魔物の子が欲しいと思う他のランドバード牧場主が、遠方からでもランドバード牧場主の元に訪れて、お金を払い、雌のランドバードとお見合いをして、ランドバードの卵を残す。

 そうして、ソニック・ランドバードの血統が広まり、魔物競走に出場する多くのランドバードたちの先祖の一つに列せられるようになるのは、遠い未来の話である。



9月20日、オンリーセンス・オンライン13巻と新作モンスター・ファクトリー1巻がファンタジア文庫から同時発売します。興味のある方は是非購入していただけたらと思います。

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