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ワイバーンたちの寝床は、程なくして完成した。
平原に窪地を作り、そこにオガクズや藁を敷き、近くに水飲み容器を幾つか設置した場所である。
ワイバーンたちもそれぞれの寝床に腰を下ろし、座り心地や大きさなどを確認して後ろ脚で蹴るようにして寝床の調節を行ない、座り込む。
「満足頂けたみたいですね」
柔らかく掘り返された地面と敷き材のオガクズや藁の柔らかさに、ワイバーンたちは、グルグルと喉を鳴らしている。
「ここまで手伝って頂き、ありがとうございました! あっ、そうでした! 殿下に待機していたワイバーンを移動させたことを伝えないと!」
「大丈夫ですよ。お水やオガクズを運ぶ時に、途中でパリトット子爵のお屋敷に寄って事情を説明しましたから」
レスカが苦笑いを浮かべながら答えると、竜騎士の方が面目ないと言うように頭の後ろを掻いている。
「本当に、何から何までありがとうございます」
「気にしないでください。テレーズ王女様にお願いされましたし、なにより魔物は好きですから」
そう答えるレスカに、竜騎士たちが眩しそうに目を細める。
「それでは、私は改めてテレーズ王女に報告するために戻ります」
「わかりました。それでは、今日は帰ります。また明日もよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるレスカに、竜騎士たちが少し驚く。
「えっ、明日とは?」
「明日は、飲み水を交換しないと行けませんし、数日経てば、敷き材は汚れますし、ワイバーンの排泄物の処理をしないと病気になっちゃいますからね」
レスカのような年頃の女の子の口から排泄物などという単語を聞き、若干困惑する騎士たちだが、普段はその役割を自分たちでやっているので、なんとも申し訳なさそうにしている。
「それからワイバーンの食事に関しては、町の長老衆たちと相談していただけたらと思います。多分、果物なんかは集めやすいと思います」
「いえ、肉などは狩人たちと相談して【魔の森】から調達する予定ですから」
そう話し合いをする中、俺はふと疑問に思う。
「ワイバーンは、肉食の魔物じゃないのか?」
「野生のワイバーンは、肉食寄りの食事ですけど、食べられない訳じゃ無いんですよ。ただ、簡単にその食事量を得られるフォレストボアなんかの魔物を襲って食べているんです」
「そうなのか」
俺が相槌を打つと、一瞬だけレスカの目を光ったように感じる。
これは、いつもの魔物のうんちくが始まりそうだ。
「はい。それとワイバーンの食事研究というものがありまして、孵化した三頭のワイバーンに生肉などの肉食、生肉や穀物、野菜、果物などの雑食、穀物と野菜、果物中心の草食でそれぞれ育てた研究があるんです」
「それでその研究結果は?」
「肉食中心のワイバーンは、表情が厳つくなり、筋肉が発達して飛行速度などが高まるそうです。逆に草食寄りになると柔らかな表情の愛嬌のある顔立ちになるそうです。能力面では、飛行速度は高くありませんが、持久力などが高くなるそうです。雑食だとその中間なので調教師としては、非常にバランスがいい育て方らしいですよ」
俺がレスカの話に相槌を打っていると竜騎士たちからは、よく知っているなぁ、と感心していた。
「まぁ、ワイバーンたちの食事は、【魔の森】で害獣魔物を仕留めて、足りない分は野菜や穀物で嵩ましになるかな」
そう言って、竜騎士の一人は、寝床でうつ伏せのような態勢で寛ぐワイバーンの体を撫でる。
「それでは、改めまして、お疲れ様でした。また明日もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言って、俺たちは竜騎士たちに向かって頭を下げ、俺の肩に乗るチェルナは、ワイバーンたちに小さく手を振り、その場を後にする。
「チェルナ、楽しかったか?」
『キュイ!』
そう短くも満足そうな返事を返すチェルナの頭を撫で、レスカが楽しそうにクスクスと笑う。
「とても珍しい体験をさせていただきましたね。さぁ、帰りましょう」
「そうだな」
俺たちは、自警団の人たちに手伝いのお礼を言って別れて、レスカの牧場に戻る。
今日は、ジニーはリア婆さんの手伝い、アポロも流石にテレーズ王女の来訪時に出歩くのは止められたのか来ておらず、ヒビキが母屋の軒先でお茶を飲みながら過ごしていた。
「二人ともお帰り~。王女様ってどうだった? どんな感じだった?」
「銀髪で色白な綺麗で、とても優しそうな方でしたよ」
留守番をしていたヒビキがそう尋ねるとレスカ主観でのテレーズ王女の印象を伝える。
第一印象的に、冷たそうな感じはしたが、常に微笑みを浮かべ、俺やレスカ、竜騎士やワイバーンたちの待遇に気を使える優しい人なのかもしれない。
「うわっ、優しそうな銀髪美少女とか、私も見てみたかったなぁ。明日とか見れるかしら?」
「明日以降に町中を視察するから遠巻きなら見られるかもしれませんよ」
俺とレスカは、ペロからリアカーを外し、道具などを片付ける間に、ヒビキが母屋からカップを持ち出し、俺たちにお茶を用意してくれる。
「はい、お疲れ様。冷え冷えの麦茶よ」
「ヒビキ、ありがとう」
「ヒビキさん、ありがとうございます」
直前に魔法で冷やしたのか、冷たくて喉越しがよく、俺とレスカが涼む。
「ふぅ、こうしてると、本当に平和だな」
「穏やかなのが一番ですね」
ヒビキは、ペロとチェルナにも水や冷やしミルクを用意してくれる。
しばらく、日陰を通り抜ける風に涼んでいると、ヒビキが思い出したかのように話を振ってくる。
テレーズ王女の視察のための来訪、ワイバーンの寝床作りなど、いつもの日常に加えて少し違うことがあったが、それでも穏やかな日々を感じていた。
それから数日、テレーズ王女の視察は、辺境の牧場町によって大きな話題となった。
アラド王国の直轄領の一つである牧場町は、畜産魔物由来の製品を生産し、エルフの里との交易により利益を上げているために、基本的な税率は低めに抑えられている。
そのために牧場町の住人は、王家や王族に対して好意的であり、更にテレーズ王女の真摯な態度での視察に、町の住人たちから王家の人気が更に高めていた。









