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4-3

 4-3


 オリバーとの模擬戦を終えた後、自由騎士たちの指導を受けた自警団たちと同じように模擬戦をする。

 僅かな時間の指導で目に見えて動きが良くなる自警団たちを相手に俺は、様々な木製武器を使って相手をする。

 主な武器は、長剣を使うが、武器と言えるもの全般を扱えるために、こうした鍛錬相手にはちょうど良い。


 そして、日が高く、気温が上がっていく中、俺たちの方に人がやってくる。


「コータスさん、ジニーちゃんとアポロくんを見学に連れてきましたよ!」

「バルドルさん、お弁当を持ってきましたので少し休憩にしませんか?」


 昼の弁当や飲み物を持ってきたのは、レスカやバルドルの婚約者のシャルラだ。それに、自警団への差し入れと飲み物を持ってきた各家庭の母親たちだ。


「レスカ、ありがとう」

「いえ、いつものことです。ヒビキさんがお弁当を傷まないようにお絞りやお茶を冷やしてくれました」


 俺は、レスカから弁当の入ったバスケットとお茶を受け取る。

 普段と余り変わらないが、婚約者になったという確かな事実があるのは、安心感と言うか、安定感を感じる


「シャルラ、いつも悪いな。ありがたく頂くよ」

「気にしないで下さい。それでは、私は宿屋に戻ります。お仕事頑張って下さいね」


 バルドルも婚約者のシャルラから弁当を受け取り、小さく会釈して微笑むシャルラにデレデレである。

 そんな婚約者持ちとなった俺やバルドルに未婚の自警団たちが低い唸りを上げ、先程のオリバーの牧場同士の政略結婚話に聞き耳を立てていた者たちは――


『オリバーさん、裏切ったんですか!』


 とか理不尽な避難を浴びせられていた。

 そして、珍しくたじろぐオリバーを尻目に、牧場のお袋さんたちが自警団の尻や背中を叩き、休ませ、座らせ、差し入れの昼食を食べさせている。


 そんな光景に、ジニーとアポロは、唖然としている。


「……自警団の訓練の見学」

「義兄様や元近衛騎士が手伝っている自警団……」


 ジニーとアポロは、自警団の訓練を神聖化していたようだが、その実体は、騎士団のような規律の厳しいものではなく比較的緩いものに唖然とする。

 ただ、行なっている鍛錬は、バルドル基準で更に牧場町では畜産魔物を扱うために、並の自警団よりも高度な訓練をしている。


 そんな二人を見守るように、足元にはチェルナを背中に乗せたペロが寄り添い、ジニーの肩には火精霊のミアが乗っかっている。


 レスカやジニー、アポロたちは、先に食事を終えていたのか、俺は一人レスカの用意した弁当を食べ、冷たいお茶を飲んで落ち着く。

 そして――


「よし、コータス、食べ終えたな。それじゃあ、俺と久しぶりに一戦するか。ほら、コイツだ」


 そう言って親父が投げて寄越したのは、鞘付きの刃の潰してある長剣である。

 親父の方は、木製の大剣ではなく本来の得物である炎の魔剣と同じ大きさと重量で作った刃の潰した大剣である。


「……親父。自警団の前でこれをやるのは、かなり刺激が強いんじゃ無いか?」

「それくらい見せつけた方がいいだろ。戦いを生業とする人間は、訓練でも死ぬことがある、ってな」


 わざわざ、そのために持ってきたのか、と思い呆れる俺だが、親父の表情から笑みが消え、既に戦士の顔に変わっていた。


「わかった。今の俺の全力で相手をしよう」

「それでこそ、俺の息子だ。お前の成長を見させてもらうぞ」

「……全員、離れて見学しろ。これは、極めて実践に近い模擬戦だ」


 俺と親父との相対に、自警団の面々が異常さを感じて距離を取り、自由騎士の面々も表情を硬くする。

 レスカは、見守るように両手を握り、ペロとチェルナが寄り添う。

 冒険者志望であるジニーとアポロには、元Aランク冒険者という人の限界を極めた人外の力の一端を見逃さないように見つめてくる。


 俺は、鞘から長剣を引き抜き、親父は、大剣を構える。

 そして、互いに間合いを確かめるように剣先が揺れる。そして――


「始め――」

『『――《ブレイブエンハンス》!』』


 バルドルの合図と共に、互いに身体強化を施し、ぶつかり合う。


「ぐっ!」

「おっ、前より身体強化を練り上げる速度が上がったな!」


 長剣と大剣では、ぶつかり合う時の質量差で俺が押し負け、後方に弾き飛ばされる。

 だが、着地と共に両足に部分的な身体強化を施し、その脚力で踏み込む。

 一歩目で距離を詰め――

 二歩目で親父を追い越し――

 三歩目の踏み込みで体を捻り切り返し、

 四歩目の跳躍で背後から斬り掛かる。


「貰った!」

「いい一撃――だっ!」


 親父は、振り向きと共に大剣を爆炎魔法で爆発させて加速させ、背後からの一撃に間に合い受け止める。

 遠心力と爆発の加速で再び弾き飛ばされた俺は、距離を取り、一息吐く。


「相変わらず、一撃が恐ろしい威力だ」

「当たり前だろ? 冒険者として自分よりも強靱な魔物を倒すには、一撃で葬るだけの力が必要なんだよ」


 そう言って、大剣を肩に担ぐ親父に、俺は、深く深呼吸する。


「――《デミ・マテリアーム》!」


 更に身体強化を施した体と長剣を半物質化した魔力で覆う。


「自由騎士の奴らとやった時に見せた固有魔法か。いいぞ、来い!」


 親父の体から大量の青白い魔力が蒸気のように揺らめき、威圧してくる。

 そして、今度は、親父の番だと言うように一足で寄りを詰めて、大剣を振り回す。

 俺は、身体強化と半物質化した魔力の籠手があっても受け止めるのは困難と感じ、回避を取る。

 だが、親父は、腕力と爆炎魔法の爆発で大剣の軌道を変則的に変える。

 更に――


「まだまだだぁぁっ!」


 断続的に俺の周囲に小規模の爆発を起こし、視界や行動を制限するように動く。

 豪快な戦い方の中に相手を確実に追い詰めるような繊細な魔法を使ってくる。

 以前の俺だったら、このままジリ貧で追い詰められていただろうが――


「俺は、成長している!」


 回避するのは、大剣のみに集中する。

 半物質化した魔力を覆う手で発動直前の爆炎魔法の魔力に干渉して握り潰し、打ち合いを続ける。

 そして、回避からの反撃を防ごうと一歩踏み出す俺の目の前に爆炎魔法を発動させようとする親父だが、俺は、長剣を振い、魔法を斬り裂き、親父の胴体を捉える。


「甘いわ!」

「くっ!」


 蹴り上げた足が土を持ち上げ、俺の顔に掛かる。

 周囲でブーイングが起こる中、生き残るためならなんでも使う、この精神を自警団の面々に見せたかったのだろうか、などと頭に過ぎり、俺は見えないまでも長剣を投げる。


「うぉっ!? あぶねぇ!」


 直前の視界から得た情報から追撃の位置を予測して投げたが、親父から攻撃を防げたようだ。

 目潰しの視界が回復し、親父は、こちらを挑発するように笑っていた。


「コータス、お前は唯一の武器を無くしたんだ。俺の勝ちだな」

「いや、まだまだ。行くぞ――」


 今度は、頭部を覆うように半物質化した魔力の冑を纏う。

 青白く、半透明であるために冑の視界の悪さはなく、また先程のような目潰しを防ぐことができる。

 更に、足りない魔力を【養分貯蔵】の内包加護から蓄えた栄養を魔力に変換し、新たな

武器を作る。


「あんまり長くは生み出せない。短期で終える」


 半物質化した魔力の長剣を手に取り、親父に斬り掛かる。

 最早、刃の潰した長剣などではなく、殺傷能力の十分ある魔力武器だ。

 それの斬撃を受け止め、俺と親父は、剣術と体術を混ぜた戦いをする。

 そして、俺と親父の応酬は、十合、二十合と続き――


「なっ!」


 親父の爆発で加速した大剣を魔力武器で受け止めた瞬間、ガラスの様に砕け散り、それに

連鎖するように各種魔法による強化が霧散する。


「これで終わりだ! ふん!」


 栄養を魔力に変換して限界以上の魔力を汲み上げていた俺は、突然襲ってきた魔力の枯渇にふらつきを覚え、頭が下がる。

 その下がった頭に合わせて、親父の鋭い蹴りが側面より迫るのを見た次の瞬間、意識が闇に落ちる。


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