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 昨晩の雨が上がり、久しぶりの青空を見上げ、朝の牧場仕事を手伝う。

 俺は、力仕事を率先して行い、レスカとジニーが餌や水、牛舎の敷き材の交換などを行う。

 昨晩、レスカの牧場に泊まったジニーは、コマタンゴたち共に、敷き材のオガクズを運ぶのを手伝い終え、俺に声を掛けてくる。


「コータス兄ちゃん、今日は晴れてるし、鍛錬を付けてよ」

「雨季は、基本中止だ。それに泊まる時にも、やるなら少しだけって言われただろ。昨日、マーゴとミアと戦った時のあれは、鍛錬だからダメだ」

「むぅ……折角、空が晴れてるのに」


 ジニーがふて腐れるが、俺はジニーを納得させるためにある話をする。


「ジニーは、これまで我が儘言わずに鍛錬の指示に従ってからご褒美を渡そうと思っていたが、取りやめるか」

「えっ!? コータス兄ちゃん! ご褒美ってなに!? あたし、ちゃんと言うこと聞いてるよ!」

「じゃあ、今日は、休む。いいな」

「う、うん……それでコータス兄ちゃん、ご褒美ってなに!?」


 俺は、ジニーの頭を軽く撫でるだけで何も言わずに母屋に戻る。

その後も何度か聞いてくるが、その度に撫でて誤魔化し続けたら、聞くのを諦めてくれた。

 そして母屋に戻れば、朝の仕事での汚れを井戸水で落とし、レスカとジニーが早速朝食を作る。


 レスカは、朝から美味しそうな匂いがする中で次々と料理が並ぶ。

 主食は、パンと蒸かしたジャガイモ。それとお好みで春先に作ったジャムとリスティーブルのミルクから作ったバター。

 おかずには、フォレストボアのソーセージと茹でたコルジアトカゲの尻尾肉を和えたサラダ、自家製ヨーグルト、飲み物はホットミルクや果物のジュースだ。


「みんな、おはよう。今日も朝食おいしそうね」

『キュイ~』


 朝食ができる頃に、ヒビキがまだ眠そうにするチェルナを抱えて食堂に姿を現わす。

 チェルナは、よく俺やレスカ、ペロにくっついているが、流石に朝早くの牧場仕事では起きられない時がある。

 そう言う時は、ヒビキに見てもらうことが多いのだ。


「ヒビキ、おはよう」

「ヒビキさん、おはようございます」

「ヒビキ姉ちゃん、おはよう」


 全員でヒビキに挨拶をして、食事の挨拶をして全員で食べ始める。

 朝食ともなれば、眠そうなチェルナも目を覚まし、全員で食事を取り、今日の予定をレスカから確認する。


「コータスさんは、今日は騎士のお仕事はありますか?」

「一応、午前中に町の見回りくらいだな」

「なら、午後は、平原の方までリスティーブルを連れて行きたいですけどいいですか? 久しぶりに晴れたので運動させたいです」

「ああ、構わない。ただ、他の牧場の手伝いとかは入ってないのか?」

「雨季は、雨が降って水遣りの手間が減るので、その分農業をやっている方が臨時で仕事に入ることが多いんです」


 レスカがそう説明すると、俺は納得しつつ、俺たちは細かな予定を調整する。

 その中で、ジニーの契約した精霊のミアがいないことに気づく。


「ジニー。そう言えば、ミアを朝から見てないけど、どうしたんだ?」

「ん? 大体、寝ていると何時の間にか消えてるよ。でも、近くに居るのは、感じるの」


 ジニーが、呼ぶと聞いてくるので俺は首を横に振る。


「いや、昨日は食事を一緒に採ったから少し気になっただけだ」

「別に、ミアは、食事を取る必要はないよ。ただ、猫だからお魚が出る時だけは食べにくる」


 本来、精霊に食事は必要無く、趣向品としての側面があるためにミアもわざわざ手間の掛かる食事には姿を現わさないのだろう。

 そういう所は、猫らしい気儘さがあるのかもしれない。


 そして、食事を終えた後は、レスカたちが協力して家事を行う一方、俺は、チェルナを連れて、町の見回りをするために外に出る。

 一度、町の西側に流れる川の様子を見に行けば、増水した川の水も大分減っている。

 ただ、養殖所の水門は、水の循環のために微かに開けられ、決壊を防ぐ土嚢も積んだままだ。

 次に牧場町の南側にある入り口に向かえば、門番の役目を熟す自警団の人たちと少し話をする。


「あっ、コータスさん、おはようございます」

「ああ、おはよう。なにか変わったことはあったか?」

「この町に来る行商人の人たちから道中の話を聞きましたけど、なにもない平和そのものですよ」


 自警団の門番は、世間話程度だが、行商人たちから道中の様子などを聞き取りする。

 例えば、魔物や盗賊に襲われたり、そうした痕跡を見つけた、などという話があった場合には、俺やバルドルなどの騎士が中心により警戒を強める。


「なるほど。ただ、最近は雨が多いから異常の痕跡が消えてるだけかもしれないし、突発的に問題が起こることもある。注意は、引き続き頼む」

「はい。わかりました」


 目付きの悪い余所者だった俺だが、最近になり信頼関係を築くことができたために、普通に話をできるようになった。

 それとも後頭部に張り付くように乗っかるチェルナの存在が俺を悪いところを打ち消して親しみやすさを生み出しているのだろうか。

 左遷前に所属していた重装騎士団に居た頃に比べれば、とても過ごしやすい。


 続いて町の東側――行商人たちが宿泊する宿屋や酒場などが集中している場所に足を運ぶ。

 そして、行商の目的地に着いた直後から酒を飲み、羽目を外す人は居ないか、と見回りするが、節度を持って関わっているようだ。

 そして、その中の宿屋と酒場が併設された宿屋の見回りで立ち寄った際――


「あっ、コータスくん、チェルナちゃん。いらっしゃい」

『キュイ!』


 元密偵であり、今はバルドルの婚約者としてこの辺境の牧場町に住み始めたシャルラさんが声を掛けてきた。

 一時期記憶喪失の密偵だったために、俺や暗竜の雛のチェルナに何らかの行動を起こすことを警戒して呼び捨てにしていたが、その心配はなくなり、年上としての扱いをする。

 だが――


「シャルラさん……そのくん付けは……」

「ふふっ、チェルナちゃんは、今日も元気かしら?」


 チェルナは、シャルラの差し出した指先に擽られるようにして、キュイキュイと楽しそうに笑い、俺の君付けの呼び方を軽く流すので渋い表情を作る。


「……見回りで立ち寄ったが問題などはないか?」

「ありがとう。でも、心配ないわ。これでも密偵だから、ある程度の問題は自分で解決できるわ」


 記憶喪失だった時期の仕事先として斡旋された宿屋と酒場の手伝いだが、記憶が戻り、バルドルの婚約者となった後もその仕事を続けている。


「それに、もし私に問題が起きたら――」

「起きたら?」

「――バルドルさんが駆け付けてくれるから平気よ」


 そう言って、嬉しそうに微笑むシャルラの惚気話に俺は、余計に渋い表情を作り、頭の上のチェルナは、首を傾げている。


「そうか。問題ないなら、見回りの続きをする」

「ええ、じゃあね、チェルナちゃん」


 手を振り見送るシャルラにチェルナも小さな手を振って別れの挨拶をし、続いて東側を通りつつ、町の北側へと移る。

 畑が広がり、更に町を囲う柵の外には平原が広がり、その向こう側には【魔の森】が存在する。

 俺は、レスカの借りている畑の様子を確かめ、元騎士団の駐在所であり、壊れた後は、自警団が【魔の森】の監視用の建物に立ち寄る。


「げっ、左遷野郎……」


 今日の【魔の森】の監視は、オリバーを含む数人だったようだ。

 俺が見回りに来たことに、露骨に嫌そうな顔をするオリバーに構わず、話を聞く。


「オリバー。なにか異常はあったか?」

「異常は、今のところねぇよ」


 ただそれだけの会話で終わってしまう。

 なので、俺は帰ろうか、と思い踵を返すと――


「お、おい、左遷野郎、ちょっと待て!」

「どうした、何か問題でもあるのか?」

「あー、その、だな……この前は助かった! って、親父が言ってた、だから、親父にコイツを持たされたんだよ!」


 俺は、なんのことだろうか、と一瞬思い出せずに、首を捻る。

 だが、オリバーに強引に押し付けられた。

 オリバーの言うこの前とは、ブラック・バイソンを川から引き上げたことを言っているのか、と納得する。


「それは、お礼のブラック・バイソンの肉だ!」


 袋の中を確認すると、丁寧に紙に包まれた赤身の肉と温度を冷やす水寒石が傷まないように入れられていた。


「……オリバー、まさかあの時のブラック・バイソンなのか」


 増水し濁流となった川から助け出したブラック・バイソンは、こうして畜産物としてなったのか、と思い、少し気落ちしそうになるが、オリバーが怒鳴り声を上げる。


「そんなわけねぇだろ! 8号とは別のバイソンの肉だ! 8号は、元気に生きてるぞ!」

「そうか……だが、いつかは食われるんだよな」


 濁流に呑まれて、何処ともしれぬ場所で朽ちるのなら、少しだけ命を長らえ、無駄にしないために余すところなく食されるのは、ブラック・バイソンの本望なのか、と考えるが、オリバーからは胡乱げな目で見られる。


「おめぇ、なんか勘違いしてるんじゃねぇか? ブラック・バイソンの8号は、食用の魔物じゃねぇぞ」

「そう、なのか?」

「チッ、ほんと何にも知らねぇな」


 オリバーは、頭の後ろを掻きながら、溜息を吐いて説明してくれる。


「うちの8号は、種牛ってやつだ。血統的に、肉質が良かったり、体格が大きい、健康だったり、そうした要素を持った牛のことだよ」


 親と子が能力や体質的に似るので、畜産魔物としてはそうした優良な繁殖用の魔物が確保される。


「8号の子どもは、どれも味や肉質がいいから王室献上の畜産魔物として選ばれる。それに、8号の子どもってだけでも価値があるからな。こいつとの交配だけで金銭が手に入る」


 優秀な血統を自身の牧場の畜産魔物に組み込むために、お金を払ってでも交配を行うことがあるようだ。

 例えば、フォレストボアの牧場では、つい最近、魔物の集団進化の際に、その血統の子どもの中から新種の畜産魔物・グルメボアが誕生した。

 グルメボアも味や品質、健康状態などが確認できれば、繁殖用の魔物として数を増やされ、そして、食肉としてではなく、家畜魔物として売りに出される日がくるだろう。


 そして、そうした優良な血統を維持し続け、上手く扱えたからオリバーの家の牧場は、町一番の牧場なのかもしれない。


「話はそれだけだ。こっちは、問題ねぇし、俺様がいるんだ、左遷野郎はとっとと帰れ」


 説明した後、ブラック・バイソンの肉を受け取った俺は、オリバーに追い出されるようにして、町の見回りを終える。


 そして、そのままレスカの牧場に帰る前に、寄るところがあった。




モンスター・ファクトリー1~3巻が発売中です。

書店で見かけた際には、ぜひ手に取っていただけたらと思います。

また、Web版第4章は、毎日投稿の予定です。

改めてよろしくお願いします。

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