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オリバーからお礼にブラック・バイソンの肉を抱えた俺は、ロシューの工房に立ち寄る。
「ロシュー、すまない。もう、できてるか?」
「お前さんか。十日と言ったじゃろう。まぁ、受け取りに来るのが遅いなら、代わりにヒビキの嬢ちゃんにでも預けておこうかと思ったわい」
俺がロシューの工房で声を掛けると、奥から一本の剣と短剣を持ってやってくる。
「ほれ、お前さんの注文通り、ミスリルの長剣を打ち直したわい。それから刀身を薄くした分、余ったミスリルは、鉄とミスリルの合金で万能ナイフに作り替えた」
きちんと鞘や柄などの部分は、実用性を重視した物が用意されており、早速、鞘から剣を抜いてみる。
「軽いな」
長剣に比べて一回り軽くなっているが、軽すぎるというわけでもない。
「素振りをしていいか?」
「やるなら、裏手に試し切りの場所がある。そこで切れ。ただし、切れ味は、すさまじいぞ」
ロシューの忠告を受けて、俺はロシューの案内で工房の裏手の空き地に出る。
そこでロシューが用意した麦わらの束の的を用意してくれる。
「これを切るんじゃ」
「わかった」
腰に吊るされたロシューから借りていた代用の鉄剣を返し、新しいミスリルの長剣を佩く。
そして、鞘から長剣を引き抜き、軽く正眼で剣を構える。
「シッ――!」
短い吐息と共に片腕で振い、麦藁の束を両断する。
そして、麦藁の束が崩れて落ちる前に再び斬撃を切り返し、空中でもう一太刀浴びせる。
「……軽すぎる。まるで俺の手足のようだ」
「そりゃ、褒め言葉じゃな。それにミスリルじゃから魔力を通せば、鋭さや硬さが増す」
実際に、身体強化の魔法の要領で魔力を通せば、薄らと青白く輝く。
「怖いほど魔力を通す。歪む前よりも魔力の通りがいいんじゃないのか?」
「ワシが魔力を通しながら鍛え上げて居るからのう。鍛造の方が、作る時の手間が掛かる分、魔力が馴染みやすいんじゃ」
そう言って、自慢げに胸を張るロシュー。
「ありがたく使わせて貰う」
「くれぐれも扱いを気をつけるんじゃぞ。前のミスリルの長剣だって切れ味はそう悪くなかったが、その剣は輪を掛けて鋭い。むやみに振り回すでないぞ」
「わかった。肝に銘じておく」
できれば、使うような事態が起こらなければ良いな、と思いながらミスリルの長剣の柄を撫でる。
しばらくは、バルドルが容易してくれた訓練用の圧縮木刀を使っていれば、大体は事足りるだろう。
「さて、最後に、ミスリル合金の解体ナイフじゃが、切れ味は普通じゃが、耐久性や耐腐食性、ミスリルのお陰で血や脂での切れ味低下はおきにくい」
「ああ、採取と解体、両方に使える万能ナイフだよな」
理想としては、ミスリルの万能ナイフだが、非常に軽くて使いやすいだ。
だが、僅かなミスリルと鉄との合金ならば、性能は数段落ちるが、一人前の冒険者でも現役で使えるほどの道具だ。
解体以外にも藪を払ったり、植物を採取したり、調理に使用したり、と様々な場面で使え、万が一には、護身用の副武器としても使えるなど、万能である。
「確かに、受け取った」
「本当に、その万能ナイフでいいんだな?」
「ああ、そう注文したからな」
「騎士とかが使うサブウェポンにしちゃぁ、無骨すぎる」
ロシューが気にする理由を理解して、俺は、このナイフで構わない理由を答える。
「いいんだ。俺が使うんじゃない。ジニーにプレゼントするものだ」
「リア婆さんの孫娘に?」
「ああ、【火魔法】の加護があって前々から火精霊と適性があることが分かっていてな。この前、ようやく一体の精霊と契約を結ぶことができたんだ」
「なるほどなぁ。昨日、リア婆さんと酒場で飲んだが、その時も孫自慢しておったわい」
昨晩は、ロシューと飲んでいたようだ、その姿を想像して微苦笑を浮かべる。
「それじゃあ、俺はこれで帰る。助かった」
「また、面白い金属があったらワシの所に持ってくるんじゃぞ」
俺は、ブラック・バイソンの肉とミスリル合金の万能ナイフを持って、レスカの牧場に帰る。
そして――
「コータスさん、おかえりなさい」
「レスカ、ただいま」
洗い立てのシーツの向こう側で洗濯物を干していたレスカが顔を出す。
「ん、コータス兄ちゃん。おかえり」
『『ワフッ』』
『キュイ!』
干して広げたシーツの向こう側からジニーが顔を出し、続けて、ペロとチェルナをこちらを覗き込んでくる。
洗濯物を干すのを手伝うジニーが目敏く俺の手元のものを見つける。
「コータス兄ちゃん……なに持ってるの?」
「町の見回り中、オリバーからお裾分けを貰った。あと、ロシューに頼んでいた剣をついでに取りに行ったんだ」
「オリバーからお裾分けですか?」
レスカに猛アピールしていたオリバーからのお裾分けに、訝しげな視線を向けてくる。
なにか、色々と悪い考えを巡らしていそうなので、俺は、少し話を補足する。
「この前の大雨の川の氾濫の時、オリバーの家の種牛を助けたんだ。そのお礼でオリバーの親父さん経由でオリバーから貰ったんだ」
「そうだったんですか。なるほど、なら……大丈夫ですよね。それにお肉には罪はありませんし、美味しく食べましょう」
俺から袋を受け取り、中を確認したレスカは、パッと表情を明るくして機嫌良さそうに微笑む。
「これをじっくり焼いて、ローストビーフ……いえいえ、綺麗な赤身なので、じっくりと
葡萄酒で煮込んだシチュー、それともバターと塩こしょうで焼いたステーキなんかもいいですね」
レスカが受け取ったブラック・バイソンの肉の塊を見て、コロコロと表情を変えている。
「そうです! お昼のピクニックは、この牛肉を使ったビーフカツサンドにしましょう!」
レスカは、午後のリスティーブルのルインの運動がてらのピクニックを楽しむために、一度お肉を置きに行き、手早く、ジニーと協力して洗濯物を片付ける。
そして早速、レスカがピクニック用のサンドイッチを用意し、ジニーがお茶を用意するので、やることがなくてただ待ってしまう。
「あら~、なに? その大きなお肉の塊?」
「お裾分けで貰ったんですよ。美味しそうですよね。あっ、そう言えば、前にヒビキさんが言っていた調味料が手に入りましたよ」
「ほんと!? なら、その味が楽しめるのよね! 嬉しいわ」
途中、ヒビキも集まり、食堂が賑やかになる。
俺は、出来上がるまでチェルナを片腕で抱きかかえ、もう片方の手でペロの頭を交互に撫でて待つ。
それに――
『『ワフッ~』』
『キュイ!』
「お前らも出てきたか。ちゃんと仲直りしたか?」
ルインの威圧を受けた後、意気消沈して地中に潜っていたコマタンゴ・リトルフェアリーのマーゴに今朝は姿を消していた火の中級精霊のミアも集まってくる。
『ナカナオリハ、シテナイ。ケド、モウ、アラソワナイ』
『ウニャァ~』
互いに、敵愾心を向けることはないことだけ告げてきたマーゴとミアは、既にそのことをレスカたちにも伝えたのか、俺から離れて互いに適切な距離でこの空間にいる。
マーゴは、ジメッとした部屋の隅の日陰。ミアは、窓下の太陽の当たる場所を陣取る。
「さぁ、コータスさん、サンドイッチができましたし、みんなで東側の平原にピクニックに行きましょう」
「ああ、わかった」
レスカが大きなバスケットを持ち、ジニーがお茶の入った水筒。ヒビキは、敷物を持ち、俺は、片腕にチェルナを構えたまま、ペロと協力して、リスティーブルのルインを誘導する。
そして、そんな俺たちの後ろからコマタンゴたちに担がれるようにして運ばれるマーゴという奇妙な集団で町中を移動する。
そんな俺たちに対してすれ違う辺境の牧場町の住人は、気さくに声を掛けてくる。
「おや、レスカちゃんや。みんなで揃って何処行くんだい?」
「晴れているので、リスティーブルの運動がてらピクニックです」
「楽しそうだねぇ。気をつけて行くんだよ」
そんなやり取りをしつつ、平原に辿り着く。
昨晩も弱めの雨が降っていたのか、地面はやや湿っぽいが――
「ミア、お願い」
『ニャァァァッ――』
ジニーがミアにお願いして『陽熱光』の精霊魔法を使い、濡れた地面の一部が、少しだけ乾く。
「ジニーちゃん、もうそれくらいでいいですよ。あまり乾かしすぎると、草も痛んじゃいますから」
「ミア、もういいよ」
『ニャッ!』
一仕事終えた、と自慢げなミア。
そして、熱と乾燥に弱いコマタンゴたちは、乾かされた地面の一部に恐る恐る近づいている中、ヒビキが持ってきた敷物を広げ、全員がそこに座る。
「コータスさん、ルインを放しても大丈夫ですよ」
「そうだな。好きに動いて行っていいぞ」
俺が手綱を手放せば、ルインはゆったりと歩き始め、その辺りの草を食べ始める。
そして、俺も敷物に座り、レスカの作ったサンドイッチの入ったバスケットをみんなで囲む。
「それじゃあ、いただきましょうか」
そうして、レスカが全員分のお絞りを渡し、みんながバスケットに入ったサンドイッチを手に取る。
俺も早速、一口食べてみると――
「ん? 黒いソース?」
「はい。前にヒビキさんから聞いた液体調味料を作れないか、町の料理屋さんと相談して作った試作品です」
異世界人のヒビキは、こちらにない料理のレシピや調味料をレスカたちに口頭で伝え、それを元にこうした調味料ができるようだ。
今回の黒いソースも、そうしたヒビキの故郷の料理の再現らしい。
「前に作ってくれた甘しょっぱいソースと似ているか? でも、もっと味が複雑な気がする」
初めてレスカに作って貰ったサンドイッチに使われていたソースを思い出し、そう呟くと、レスカは少し驚いたような表情をする。
「コータスさん、よく覚えていましたね。あれをベースに料理屋さんがもっと煮詰めて味を整えたのが、この黒いソースなんですよ」
「そうなのか、あれはあれで美味しかった。また、作ってくれないか?」
「はい! もちろんです!」
レスカは、嬉しそうに頷き、共にビーフカツサンドを食べる。
「それにしても旨いな。ビーフカツに挟まっているキャベツの千切りが余分なソースを吸ってるのか。それにパンの方には、バターとマスタードが塗られているのか」
「美味しいですよね! 他にもコロッケとかにも合いますし、野菜炒めの時に使えますし、朝の目玉焼きに垂らしてもいいですし、料理の幅が色々と広がりますよね」
レスカは、美味しそうに自分の分のビーフカツサンドを食べ始め、唇の端に少しだけソースが付いたのを指で取り、軽く舐め取る。
ジニーは、少し大きめのビーフカツサンドをどこから食べれば良いか四苦八苦しながら大口で食べる。
そして、少しマスタードの塗られた量が多い所に当たったのか、少し涙目になっているが、それでもお茶を飲みながら、食べる。
「あー、ソースの味は、まだまだ熟成が足りないかなぁ。でも、十分に美味しいわ」
ヒビキの呟きは、故郷の再現にはまだまだ遠いが、そんな言葉とは裏腹に表情はとても嬉しそうである。
「ペロは、食べてるな。チェルナも小さく切ったものを食べているのか」
ペロとチェルナは、それぞれの分もレスカが用意しており、美味しそうに食べている。
そして食事を必要としないマーゴとミアは、平原の適当な場所に移動して、うたた寝を始めている。
しばらく、全員で黒いソースの味を夢中になって食べて満足した俺たちは、食後のお茶を一頻り楽しむ。
「美味しかったですね」
「ああ、美味しかったな」
俺たちは、食後の余韻に浸りながら、穏やかな雰囲気を楽しんでいると、小さな影が横切り、空を見上げる。
「うわっ、鳥の群れだ!」
「あれが昨日言っていたダーダル・スワローの群れですね。今年も見ることができました」
綺麗な編隊飛行を行うダーダル・スワローの群れは、その形状を維持したまま北の方に向かう。
そして、南の空を向けば、幾つかの編隊を組むダーダル・スワローたちが牧場町の上空を通過して北上するコースを飛んでいるのが見える。
「この渡り鳥の群れが通り過ぎれば、雨季が終わって夏になりますね」
レスカの言葉に、静かに聴き入りながら、午後の空を無言で見上げ、上空を通り過ぎる渡り鳥の群れをただ見上げる。
その時、ふと南の方に飛行するダーダル・スワローの群れの一つの動きが乱れ、先頭の一話が急降下をしていた。
「えっ?」
小さな声が漏れた直後、牧場町の物見櫓から警鐘が響く。
カーン、カーン、カーンと三回叩かれ、間隔を置いて再び三回。
「南か!」
一気に俺たちの間に緊張感が増し、ダーダル・スワローの群れが急降下した南の方角を向く。
「南の方で問題が起きたみたいだ。レスカたちは、すぐに牧場に戻ってくれ」
「分かりました。コータスさん、気をつけて下さい」
「わかった。ヒビキ、頼む」
俺は、即座に立ち上がり、一番戦えることができるヒビキに頼み、牧場町の南側の出入り口の方に走り出す。
モンスター・ファクトリー1~3巻が発売中です。
書店で見かけた際には、ぜひ手に取っていただけたらと思います。
また、Web版第4章は、毎日投稿の予定です。
改めてよろしくお願いします。









