96 三島順平と迷宮探索
浅い階層での探索は大したことは無かった。
エンカウントするモンスターは、せいぜいがD~Eクラス。ゴブリンやビッグバット、ポイズンラットといったモンスターばかりである。
上層区は、かなりの広さがある。おそらくアイオーン山脈と同じ規模があると推測されるとのことだった。しかし下に降りる階段は一つではないとのことで、これには順平たちも胸を撫で下ろした。例えば山中にあるたった一つの階段を探せと言われても無理があるだろう。確認されているわけではないが、上層部なら10以上の階段があると言われていた。
順平たちはマッピングをしつつ、ひたすら下層を目指した。その成果もあり、二日ほどで第五層まで到達する。
迷宮には<迷宮転移石>というアイテムが落ちており、これを使用することで地上に一瞬で帰ることができる。ちなみに迷宮内では長距離型転移系の魔法やスキルを使用できなくなる。原理は不明だ。
また<迷宮転移石>は迷宮内では赤い色をしているが、地上に戻ると青い色になる。そして地上で再び使用すると、迷宮内にある<転移ポイント>から探索を再開することができるようになる。
地上から<迷宮転移石>を使用して再転移すると、<迷宮転移石>は消失する。
ちなみに迷宮から一定距離を離れると、<迷宮転移石>は消失する。<迷宮転移石>を使わずに迷宮に入った場合も消失する。一人で複数の<迷宮転移石>を持っていても消失する。<迷宮転移石>を使用して迷宮から脱出した者にしか使うことはできない。
最後に迷宮は月が変わると内部構造が変化するが、その際にも消失する。
このためアイオーン大迷宮を攻略するには、月が変わる前に制覇するしかないと言われている。迷宮が構造変化をする際に迷宮内に居ると、強制転移が発動して地上に戻されることが確認されていた。
この『月が変わる』というのは、概ね60日ぐらいと考えて良いだろう。
アークノギアの夜空には『紅月』と『蒼月』という大小二つの月が浮かんでいる。この二つの月が、概ね60日ほどで交互に大きさが入れ替わるのだ。完全にファンタジーだった。
<転移ポイント>は5階層毎にあるため、5階層進むと補充のために戻ることが基本である。なぜなら10階層毎に、階層を守護するガーディアンが現れるからだ。ガーディアンは倒しても一定時間すれば復活する。
順平たちは5階層に到達したが、地上には戻らず行軍を続けた。
彼らのレベルと実力なら25階層を過ぎた辺りが訓練としては最適なポイントになるらしい。25階層より下はCクラス以上のモンスターしかエンカウントしなくなる。
このため20階層まで地上には戻らない方針になっていた。
この理由については、もちろん訓練という名目もあるが、彼らに補充の心配が無いというのも大きな理由だった。
「よし、今日の探索はここまでだ。食事にしよう」
アーレスの指示で即席のキャンプが設置されていく。
キャンプの設置が終わると、順平が大和田鳴子という女子生徒に声を掛けた。少し小太りで、ツインテールが特徴的な少女だ。
「大和田、頼むよ」
「任せておいて!」
彼女が指を指すと、何もない空間から次々と料理が現れる。あっという間に机に並んだ料理が準備される。
彼女のA級スキル<無限収納>である。
大和田鳴子は戦闘には向かないものの、便利なスキルをいくつか保持していた。この<無限収納>も、その一つだ。
「何度見ても、反則的なスキルだな」
アーレスが呆れたように言う。
<無限収納>に似たスキルとして、<収納空間>というスキルがある。
これはワンルームぐらいの広さがある倉庫を持ち運ぶことができる<スキル>と考えてもらえればいいだろう。冒険者や商人からは荷物持ちとして重宝される<スキル>である。これを参考に作られたのが、<収納リング>というマジックアイテムだ。
大和田鳴子の<無限収納>は、この<収納空間>をチート仕様にしたものである。
収納できる物は『持ち運びできる物』なら何でも可能だ。収納力に制限は無い。
そして<時間停止>機能が備わっており、食べ物を収納しておいても腐らないし、出来立てのまま食べることができる。
迷宮を探索しているというのに、暖かい食事が食べられるという状況にアーレスも苦笑いするしかなかった。
ただし、これはあくまで大和田鳴子がいるからできる、言うなれば『ズル』である。毎食、このようなことをしていては訓練にならないので、一日一食だけということになっている。
食事を終えると、就寝の準備に入る。グループの中で順番に見張りを立てることにしていた。
翌日―――と言っても、迷宮の中では感覚でしか分からないが―――には探索が再開された。
先頭を歩くのは三島順平のグループだ。
彼のグループには天堂光輝と黒澤和樹の他に、女子が一人いる。
彼女の名前は服部忍。
小柄で快活そうな雰囲気の少女で、装備も順平たちのものと比べると軽装だ。
セミロングの髪型を後ろくくりにしているが、本人も「どうしようもない」と言うクセ毛が一本、立っている。山本大地も黒澤和樹も、あれを指して「リアルあほ毛だ」などと言っていた。かなり失礼な呼称である。
そのアホ毛がピン!と立った。
順平たちが警戒を強める。
「モンスター接近! 数は5体! たぶんDクラス!」
忍が腰に下げた短刀に手を掛ける。
彼女の言葉通り、3体のソードゴブリンと2体のゴブリンアーチャーが現れる。
「服部、<黒ノ霧>でゴブリンアーチャーの視界を遮れ! 天堂、<光ノ盾>で防御してくれ!」
「っ!? 右手側の通路から同じ反応よ!」
「俺が行く」
飛び出したのは結城琢磨だ。
ゴブリンアーチャーはこちらを視認した途端に矢を放ってきた。
しかし忍が発動したA級スキル<黒ノ霧>によって発生した黒い霧が視界を遮る。飛来した矢は光輝のA級スキル<光ノ盾>が防いだ。
「黒澤!」
「はいはいっと。<闇暴キ>」
和樹の発動したスキル<闇暴キ>によって、黒い霧で覆われているはずのゴブリンたちの居場所が浮かび上がる。
「天堂、ゴブリンアーチャーを頼む!」
「任せろ!」
順平は黒霧に入り、ゴブリンに斬りつける。袈裟懸けの一撃で一体を、返す刀でもう一体を葬る。
「<光矢>!」
順平の居場所を把握したゴブリンアーチャーが順平に狙いを定めるが、その二体の頭を天堂光輝のA級スキル<光矢>が貫いた。その隙に順平はもう一体のソードゴブリンを剣ごと真っ二つにする。
「結城は!?」
順平が結城琢磨の向かった方を確認する。
「おらあああっ! <鉄拳>!」
通路の角から現れたソードゴブリンを琢磨が殴り飛ばす。吹き飛ばされたソードゴブリンは後ろに控えていた二体に衝突した。
慌てたゴブリンアーチャーが弓を構えるが、
「<誘惑香>」
凛とした女の声が響き、甘い香りが漂う。その香りにゴブリンアーチャーの思考が鈍り、動きを止める。それを見越したかのように琢磨がゴブリンアーチャーに迫った。
「ぶっ飛べ。<剛打掌>」
琢磨の攻撃を受け、爆砕するゴブリンアーチャー。
残りのソードゴブリンは赤井と青木が始末する。
「さっすが琢磨。派手にぶっ飛ばしたね」
そう言って琢磨に擦り寄るのは、後藤理沙だ。
ショートカットの金髪で、褐色肌の少女である。
高校生とは思えない肉付きの良さと色香を漂わせており、同行している軍の兵士は短いスカートに対して目のやり場に困っていた。
そんな理沙には目もくれず、結城琢磨は倒されたゴブリンから<コア>と呼ばれる魔石を回収する。
モンスターには<魂>の代わりに<コア>と呼ばれる魔石を有している。これはアークノギアにおけるエネルギー資源であり、いくらかの金になる。
琢磨は無言で、ゴブリンたちから<コア>を剥ぎ取っていく。無視された理沙の笑顔が引きつり、それを赤井と青木の二人が必死になだめていた。
琢磨は演習の時にも、モンスターの<コア>を回収していた。さほど時間を掛けるわけではないので、順平たちは黙認している。
「服部、モンスターの気配は?」
「今のところ無いわ」
彼女は短剣を鞘に納めた。
服部忍はユニーク級スキル<危険察知>を保持している。
魔物や自身に敵対心を持つ者を感知する<スキル>である。
このスキルにより、順平たちはモンスターの接近を事前に察知し対処できるのだ。
また後藤理沙のA級スキル<誘惑香>は、特に亜人系のモンスターに有効な<スキル>だ。
判断能力を低下させ、効果が高ければ同士討ちをさせることもできる。また彼女はステータスを上昇させる<スキル>も数多く所持している。
この二人が前衛にいることで、モンスターの討伐で苦戦することなく迷宮を探索できている。
「よし、行こう」
琢磨が<コア>を回収したことを確認し、順平たちは迷宮探索を再開させた。
その後、彼らは2週間とかからずアイオーン大迷宮の20階層に到達。本格的な訓練を開始した。
迷宮探索を開始して一ヶ月が経過した頃には月が変わり、迷宮の構造が変化。
そのころには全員のレベルは40を超えていたのだった。
このお話しで第4章の異世界人の動向編は終了です。
次話より新章となりますが、お知らせしております通り明日の投稿分を以って休載となります。
申し訳ありません。
なお、次話は主人公である山本大地の過去が明らかになります。
よろしくお願いします。




