92 三島順平の開眼
順平たちとの戦いを終えたヴァンダインたちパラディンは、ゲルオグ将軍の執務室に来ていた。
「入るよ」
部屋の扉をノックし、相手の返事を聞かずに中へと入る。
「ようこそ、お出でくださいました。パラディンの皆さま」
「ゲルオグ将軍も息災で何よりだよ。早速だけど、異世界人たちに会ってきた」
「仕事が早いですな」
「法王様の勅命だからね。何よりも優先するべき仕事だよ」
「それで、いかがでした?」
「期待外れだったよ」
促されるでもなく、ヴァンダインはソファーに腰掛ける。ルナリアたちは座らず、その後ろに立っていた。
ゲルオグ将軍はベルで使用人を呼ぶと、紅茶を用意させる。
「期待外れですか」
「スキルは確かに強力なものを持っている。けれど、魔力の練り込みも甘い。何より対人の実践経験が少なすぎる。
まあ、ブリトニアの人材では仕方ないことかもしれないけど」
「返す言葉もありませんな」
「その辺りは、アーレスが何とかするでしょ。お尻に火を点けておいたから。
一人、筋の良いのがいたから、これからの成長には期待が持てるかな」
「ほう。やはり<聖剣>ですかな?」
「いや。彼の名前は、何だったかな?」
「クロサワと呼ばれていましたね」
「そうそう。クロサワだよ」
ヴァンダインの問いに、ルナリアが静かに応えた。
「クロサワ? はて、誰でしょう」
「おいおい。黒いローブで全身を覆っている、見るからに怪しそうな少年だよ」
「ああ、奴ですか。確か戦闘向きのスキルは、あまり所持していなかったはずですが」
「それを【魔法】でしっかりと補っていたよ。
自律魔法陣まで展開したのには驚いたからね。
手加減したとはいえ、ルナリアが防戦に回っていたし」
「申し訳ありません」
「あのピンポイントで地面を泥状にする魔法は、僕も引っ掛かった。お互い様さ」
ヴァンダインは人当たりは良いが、あまり他人を褒めるタイプではない。
ゲルオグは異世界人の優劣順位を見直す必要があるかもしれないと考えた。
「それで。数日後に彼らはアイオーン山脈の迷宮に潜る予定になっているんだったね」
「はい。迷宮ならば、より実践的な戦闘ができるでしょう」
「そうか。なら予定通り、僕たちはジャルロッカ王国の迷宮都市に向かうよ」
そこまで話すと、ヴァンダインは紅茶を飲み干して立ち上がった。
「しかし、原初の大森林に半妖たちの国ができたなど、未だに信用できませんな。
それも、破棄した異世界人が中心にいるとは」
「僕たちの情報網が信用できないかな?」
「いえいえ。思想的な問題ですよ」
「まあ、僕も半信半疑だけどね。でも<堕天の後継>だとしたら、由々しき事態だよ」
「それは確かに」
「そうそう。バルデビア大公国への根回しは済んでいるのかな?」
「滞りなく」
「なら問題ないよ。エスペランサ王国の件みたいに失敗しないでね」
「抜かりありませんよ」
「イレギュラーにも困ったものだね。
<デモンズキング>はワガママだし、<マイスター>はかなり御立腹だよ」
「<勇者システム>が機能しなくなりましたからな。そのための異世界人、そのための大戦です」
「じゃあ期待しているよ。<カオスワーズ>」
「全ては我らの父君のために」
ヴァンダインは片手を上げながら、ゲルオグの私室を後にしたのだった。
---------------------------------------
「う・・・」
「天堂、気が付いたか?」
「ここは・・・」
光輝は医務室で目を覚ました。周囲には三島順平や委員長の木内知子、黒澤和樹と草壁護が立っている。隣には頭に包帯を巻いた一条冴がベッドの上に座っていた。
「っ! あいつらは!?」
「王宮に行ったみたいだ。明日にはブリトニアを発つらしいよ」
「そうか・・・」
光輝は唇を噛み締めた。
「みんな、ごめん。また暴走した」
「結果的には被害も出ていない。あんまり気に病むなよ」
「ああ。ありがとう」
光輝は激情家だ。
元の世界でも癇癪を起こすことはあったが、それほど酷いものでは無かった。
(異世界に来たストレスか・・・)
クラスメイトたちにも精神的に不安定となっている者が何人かいる。
そこにパラディンたちのような規格外との戦闘。
また忙しくなるかもしれないな、と順平は小さく溜め息をついた。
コンコン
「少し、いいか?」
医務室の扉がノックされ、全員が入り口に目を向けた。
「・・・何の用だ?」
草壁が全員を守るように前に立つ。
入り口に立っていたのは結城琢磨と赤井、青木の三人だった。
室内にいた五人に緊張が走る。
「そんなに構えるなよ。黒澤に用事があるだけだからよ」
「僕に?」
「ああ。ちょうど面子も揃ってるし、いいタイミングだろ。お前らも聞いとけよ」
「僕に答えられることと言えば、アニメのことかな?」
「そんなもんに興味はねーよ。俺が聞きたいのは、お前の戦い方についてだ」
「あ~。やっぱり?」
ちっ、と琢磨は舌打ちした。
その様子を見た順平が二人に尋ねる。
「どういうことだ?」
「あいつらとの戦闘を俺は見てたがよ。まともな勝負になってたのは、そこの黒づくめぐらいだったぞ」
確かに。
冴はレナードを相手に一撃で昏倒させられた。光輝はピエロスターに良いようにあしらわれていたし、順平はヴァンダインのレイピアを折りはしたが、逆に言えばそれだけしかできていない。
いま思い返しても、何もできなかったというのが正直な感想である。
だが和樹は違う。彼の敗北原因は魔力の消費である。攻撃を受けてはいるが軽傷だ。
「はっきり言ってやる。俺があいつら四人の誰と戦っても、まともな勝負にならなかっただろうよ」
そうかもしれない。
琢磨の戦闘センスはクラスメイトたちの中でもズバ抜けている。それでもパラディンたちに太刀打ちできたかと言えば、相手にした順平たちは難しいと答えただろう。
「それを、こいつはやってのけた。不思議に思わない方がどうかしてる」
琢磨の指摘は最もだ。
全員の視線が和樹に集まった。
「はあ。言っておくけれど、別に隠していたわけじゃないからね」
「何かあるのかい!?」
身を乗り出したのは冴だ。彼女は戦闘開始早々に昏倒させられたため、和樹の戦いを見ていない。
「僕と君たちの違いって、何だと思う?」
「違いって言われてもな」
「強いて上げれば【魔法】か?」
草壁の言葉に和樹は首を振る。
「【魔法】は戦闘系のスキルが乏しいから頼っているだけだよ。半分は楽しんでるけど」
「なら、なんだよ。勿体つけずに話せよ」
赤井がイラついたように言う。
「僕と君たちの違い―――それは、僕がゲームマニアだってことさ」
『・・・は?』
和樹の答えに全員の目が点になる。
「皆は僕をオタクと言うけれどね。確かにアニメは好きだけど、裂いている時間はゲームの方が多いんだよ」
「お前、ふざけんなよ」
青木が和樹の胸ぐらを掴み上げた。
「ふざけてなんかないよ」
「ふざけてんじゃねーかよ!」
「じゃあ聞くけど、【魔法】って何だよ。<スキル>って何だよ。
魔力は? レベルは? 元の世界に、そんなものが実在したかい?
だいたいモンスターを倒したらレベルアップしてステータスが上昇する?
なにそれ、どういう仕組みなわけ?」
和樹の問い掛けに、青木はおろか順平たちも答えられない。その剣幕に気圧されるように、青木が和樹から手を離す。
「なんで皆、当然のように受け入れてるわけ?
明らかに物理法則を無視してるし、何も無いところからどうして水や火が出てくんの?
こんなの―――」
和樹は全員の顔を見渡し、そして言った。
「こんなの、まるでゲームじゃないか」
言われてみれば、その通りだ。
元の世界には無いものばかりである。
「この世界をゲームに見立てれば、僕には君たちと違って圧倒的なアドバンテージがあるんだよ。なにせ僕がハマっていたのはMMORPGで課金しまくっていたからね。対人戦も高レベルプレイヤーと何百回も繰り返しているし、【魔法】や<スキル>の使い方も嫌らしさも熟知している」
和樹の独壇場は止まらない。
「加えて僕は異世界転生や召喚のライトノベルを読んだりしていたから、チートスキルの活用術は知識として持っている。それを彼らで試させてもらったんだけど、なかなかどうして効果が高かったよ。僕の使用した【マッドグラウンド】って魔法なんだけど、あれって農地を開拓するのに使用するんだってさ。でも上手く使えば足場を不安定にできるだろ。そういう発想がこの世界には無いんだよね」
和樹は冴を見た。
「例えば僕が一条さんなら<天馬>で空まで上がって、<飛剣>のスキルで斬撃を飛ばしながら戦うね。
あのレナードって奴が使ったのは多分<瞬歩>とか、それ系統の一瞬で距離を詰めることのできるスキルだと思う」
「な、なんで、あれがスキルだって分かるのさ?」
「あいつがアーレス団長を打ち倒した時のことを思い出してよ。
けっこう距離が離れていたのに、それを一瞬でゼロにしたんだよ。
普通できる? できないよね?
ならスキルを疑うのが当たり前じゃないか」
「う・・・」
「ああいうスキルは地面に立っていることが前提なことが多いみたいだから、空中からなら奇襲を受ける心配は無い。
距離を取って慎重に攻めるね。回避重視のスピードタイプにいきなり大技一発勝負とか無いわ~」
冴は口をパクパクとさせながら絶句した。
「天堂くんも無いわ~。
あの姿からピエロスターって奴は相手のペースを乱して自分の土俵に持ち込むタイプだよね。
しかも<分身>してる相手に突っ込むとか猪じゃないんだから。
せっかくの<光弾>も至近距離で牽制に使っちゃうし。
どうせなら距離を取って五人全員に<光弾>を撃ってどれが本体か確認してから接近するのが定石でしょ」
光輝は声を上げようとするが、反論できなかった。
「三島くんもさ。ヴァンダインって奴が使ってたのは多分<速撃>っていう剣速を速めるスキルの上位番だよ。
そんな相手に接近戦とか自殺行為だよね。
<聖剣具象>を使ったのは良かったと思うけど、先ずはどの程度、相手との差が埋まったのか確認するのが先だったんじゃないかな。
だからレイピアを折った時点で気持ちが緩んじゃったんだよ」
和樹の言葉は最もだった。<聖剣:白夜>の効果でヴァンダインの剣は見えていた。ならば、もっとやりようはあったはずである。
「僕が思うに、皆の戦い方は力押しが多すぎるよ。
相手が格下だったりモンスターだったりすれば、なんとかなると思うよ。でも魔族には通用しないと思うな」
もはや場は和樹の独壇場だった。
「この世界は、とんでもなくリアルな<ゲーム>なんだよ。僕は、そう思ってる。
重要なのはステータスじゃない。<スキル>の扱いなんだ。
たぶんスキルが無ければ、一条さんは強いよ。
でも僕から言わせれば、高レベルプレイヤーのアバターを使っているだけのゲーム初心者だね。
この世界の戦いを、まるで理解していない」
「なら俺たちが強くなるには、どうしたら良い?」
問い掛けたのは琢磨だ。
「一番効率が良いのは、クラスメイト同士での実戦かな。模擬戦じゃなくて実戦ね。
でも、これはデスゲームなんだ。死んだらやり直しが効かない。
けれど必要なことでもある。人殺しにはなりたくないだろ」
和樹の言葉に全員が気づかされた。その可能性について考えないようにしていたことを。
「アタシはやるよ」
冴が立ち上がる。
その目に迷いは無い。
「飛燕流剣術の真髄は不殺なんだ。このままやられっぱなしで終われないよ」
「僕もだ。人殺しになんてなってたまるか」
「なら話しは早いな。黒澤、今から付き合え」
「今から!? 僕ってば、さっき魔力を使い果たしたところなんだけど!」
「俺のマナポーションをやるよ。さっさと来い」
「拒否権なし!?」
琢磨に肩を組まれ、和樹が連れていかれそうになる。
「待てよ、結城」
「なんだ、三島。まさか止めたりしないよな?」
「そうじゃない。俺も行く」
「はっ! 好きにしろよ」
「アタシも行くよ」
「僕もだ」
「ちょっと、冴と天堂くんは病み上がりなんだよ!?」
「あそこまで言われて、じっとしてられるかい」
「僕は強くなりたいんだ。猪なんかじゃないぞ」
「草壁くん、二人を止めて!」
「悪い、委員長。俺も黒澤に触発された」
「草壁くんまで!? なんで男の子って、こんな好戦的なのよ、もう!
私の魔力にだって限りがあるんだからね!」
「木内さん木内さん。一条さんは女の子だよ」
「わかってるわよ!」
赤い顔をして怒る委員長を見ながら、順平は決意を新たにして訓練場に向かうのだった。




