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91 三島順平の惨敗(後編)

三島順平は剣を構えながらも、背中に流れる冷たい汗を止められずにいた。


自分が相対している男を改めて見る。背格好は自分と大差ないだろう。純白の鎧に青い瞳と髪が特徴的だ。

手にしている武器はレイピア。速さと突きに特化した剣である。その速さは、先ほど体感したばかりだ。

剣を喉元に突き付けられた瞬間から、順平は「こいつには勝てないと」思わされた。なにせ、どの動きをとっても目で捉えることが出来ないのである。

自分は最近でこそ、やっとアーレスと打ち合うことができはじめたぐらいの実力だ。彼を一撃で仕留めてしまうような相手に敵うはずもない。

アーレスを倒したのはレナードというパラディンだが、彼らの会話から察するにヴァンダインという目の前の男の方が強いのだろう。


「・・・ふぅ」


順平は短く息を吐いた。

普通にやったのでは勝てない。だが自分たちは異世界人だ。特異なスキルを使えば勝機はあるかもしれない。

順平は手にしたロングソードを鞘に納めた。


「おや、降参かな?」


「まさか。勝てないにしても、一矢報いるぐらいはしたいですよ」


「良い心構えだね。楽しませてくれたまえ」


ヴァンダインは構えを取らない。無造作に腕を下げ、「いつでもどうぞ」とばかりに誘っている。そのくせ隙が無い。

順平は静かに魔力を練り上げると、その名を呼ぶ。


「<聖剣具象>。来たれ<白夜>」


カッ!


光が周囲を包む。

巨大な魔法陣が順平の足下に出現し、白い魔力が立ち昇る。

それらは順平の目の前に収束すると、一振りの刀となって具象した。

S級スキル<聖剣具象>。

これを発動したところ、具現したのは純白に光り輝やく聖刀だった。アーレスから刀に名前をつけるように言われた順平は、真っ白な刀身から暗闇の無い夜をイメージし、<白夜>と名付けたのだ。


「それが噂に聞く、<聖剣:白夜>か。すごい魔力だね」


<白夜>の存在感を前にしても、ヴァンダインは動じる気配すら無い。

順平は無言で<白夜>を手に取った。途端に流れ込んでくる力の奔流に、意識を奪われそうになる。

それを精神力で押さえ付け、順平はヴァンダインに向かって走り出した。


「へえ!」


速い。

踏み出すと同時に懐に潜り込んできた順平にヴァンダインが感心したような声を漏らす。

だが気には止めない。

横薙ぎの一閃を苦もなく避けられるが、先ほどと違ってヴァンダインの動きが目で追える。

<聖剣:白夜>は使用者の能力を爆発的に高める効果がある。チートスキルを活用することで、順平はヴァンダインと同じ土俵に立ったのだ。


「なかなか良い剣筋だね」


しかしヴァンダインに刃が届かない。それどころか余裕すら伺える。

もっと早く!

もっと鋭く!


「オオオオオッ!」


順平が吠えた。

その叫びに呼応するかのように改心の踏み込みが決まり、掬い上げた一撃をヴァンダインが初めてレイピアで受けた。


キィン!


金属音が響き、ヴァンダインのレイピアが半ばから折れて切っ先が宙を舞う。


(やった!)


会心の一撃に思わず顔が綻ぶ順平。

しかし次の瞬間には、その顔が凍りついた。


「いま、勝ったと思ったね?」


ヴァンダインは折れたレイピアを手にしたまま腰を沈めた。その手から魔力が溢れ、レイピアが炎を纏う。


「【フレイムソード】<横一閃>」


燃え盛る横薙ぎの斬撃が飛んでくる。

順平は後ろに跳ぼうとするが、戦闘中に一度緩んだ集中力を立て直すことは容易ではない。身体は動いてくれなかった。


「かはっ!?」


炎の一閃を受け、そのまま後ろに吹き飛ばされる。腹部には焼け跡が残っていた。


「まだだよ。【アイスピッカー】<流星突>」


「ぐあっ!」


「三島くん!」


アーレスの治療を終えた委員長の悲鳴が響く。

折れたはずのレイピアは、その切っ先に氷の刃を形作っていた。

細く鋭い先端が流星のように煌めき、順平の肩を、太股を、脇腹を的確に刺し貫く。

それでも順平は痛みに耐えてヴァンダインを見上げるが、彼は既に次の動作に入っていた。レイピアはバチバチと雷を放電している。


「【サンダーブレード】<破軍剣>」


ヴァンダインの手にしたレイピアから、有り得ないほどの稲妻が迸る。それは剣撃となって順平に襲い掛かった。

防御も回避も間に合わない。振り下ろされる暴虐の刃を順平は呆然と眺めることしかできなかった。



業!!!



圧倒的な破壊力。

直撃を受ければタダでは済まないと、見ただけで分かる。


「あ、ああ・・・」


知子が両膝を着いた。

止めどなく溢れる涙は、絶望からくるものではなく、安堵によるものだった。

ヴァンダインの斬撃は順平の真横を薙いだのだ。


「どうして?」


「おや、当てて欲しかったのかい?」


「それは・・・」


「僕たちの目的は、君たちの実力を測ることだからね。殺したいわけじゃない」


「そうなのか? いや、それならもっと、やり方が・・・!」


「訓練には無い経験が得られただろう?

 個人的には期待はずれな部分が多いけれど、それはアーレスの責任かな。及第点なのは、ルナリアと戦った魔術師クンぐらいだし」


「黒澤が?」


「自分たちに何が足りていないのか、よく話し合うことだね。

 おや?」


「くううっ!」


「光輝!?」


話す二人のところに、光輝が吹き飛ばされてきた。


「あらぁ、ヴァンダイン様。もう終わりました?」


「ああ。ピエロスターは苦戦しているみたいだね」


「そうなんですよ~。彼ったら、私を放してくれなくて」


「気持ち悪い仕草をヴァンダイン様の前でしないでくださいますか」


「オレ、吐き気を催したよ」


「アンタたち。覚えてなさいよ?」


戦闘を終えたらしいルナリアとレナードが合流する。


「・・・ど、どうしてだ?」


光輝は見るからにボロボロだった。淡い翠色の光が彼を包み込んでいるが、肩で息をしており憔悴している。

それでもロングソードを杖代わりにして立ち上がる。


「天堂!

 彼らの目的は俺たちの訓練だったんだ。だから無理をするな!」


「三島は黙ってろ!」


「そっちの坊やの言う通りよ。回復のスキルで傷は治せても、体力や精神力が回復できてないわ。これをあげるから、少しお休みなさいな」


ピエロスターが黄色い液体の入ったビンを光輝に投げる。


光輝はそれを受け取ると、


「ふざけるな!」


地面に叩き付けてビンを割る。中身の液体が全て土に吸い込まれていった。


「ああ!? なにするのよ。

 特製のスタミナポーションなのよ。高かったのに!」


「黙れ! 僕の質問に答えろ!」


光輝は再びロングソードを構えた。


「どうしてなんだ!?」


「失礼。キミが何を怒っているのか、我々には理解できていないんだ」


「そんなに強いのに、どうして魔王を倒さないんだ!?」


光輝の叫びに、順平を含めたクラスメイト全員が気付かされた。

確かに、その通りだと。


順平たち異世界人は確かにチートなスキルを所持している。

訓練を開始してからたったの3ヶ月でブリトニアにいる兵士たちを圧倒し、軍団長のアーレスや一部の騎士でしか訓練の相手が務まらないほどだ。いずれは、彼らを越えることになるだろう。


だが、ヴァンダインたちパラディンの実力は、そんなレベルのものではない。


例えるなら絶壁。

単純なレベル差以外の実力を感じた。それが四人もいるのである。


彼らならば魔王を倒せるのではないか?

そんな疑問が生じるのは無理もない。


「答えろ。僕たちは何のために、こんな異世界に呼ばれたんだ?」


光輝の言葉には重みがあった。殺気すらも含んでいる。


「何か勘違いしているみたいだね」


「なんだって?」


「我々はパラディン。聖都を守る人類の最高戦力だよ」


「それが何だって言うんだ!?」


「我々の仕事は聖都の防衛。そして法王様の守護だよ」


「自分達の町が無事なら、それで良いのか!?」


「そうなるかな」


「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


光輝の身体から膨大な魔力が溢れ出す。その頭の上に天使の輪のようなものが現れる。


「天堂、それはダメだ! 宿舎こと吹き飛ばすつもりか!?」


天堂光輝のS級スキル<光輪の輪>。

一時的に光の精霊と同化し、ステータスを爆発的に増加させるスキルだ。


「ヴァンダイン様。ここは私が」


「いや、僕がやろう」


折れたレイピアを手にヴァンダインが前に出る。

レイピアが眩い光を放つ。


「【ライトブリンガー】」


ヴァンダインの【力ある言葉】に従い、光の剣が具現する。


「うおおおおおおおおっ!!」


もはや怒りで我を失った光輝はロングソードを天高く抱え上げ、光の精霊が扱う最大級の破壊魔法を発動する!


「【グランドクロス】!!」


「<星天十字砲>!」


【魔法】と<スキル>の違いはあるが、二人の放ったものは全く性質を同じくするものだ。本来なら【魔法】である光輝の【グランドクロス】の方が威力は高い。

だがヴァンダインは【魔法剣】によって、その差を埋めていた。


爆ぜる光の奔流。

その威力は全くの互角。

光は互いに相殺し、破壊をもたらすことなく収束していった。


「・・・かはっ!」


「光輝!」


崩れ落ちるように倒れる光輝。身体が震え、目の焦点が合っていない。


典型的な魔力枯渇の症状だ。

順平は<収納リング>からマナポーションを二本取り出すと、口で蓋を開けて光輝に振り掛けた。

本当は飲んだ方が効果は高いが、緊急時は振り掛けるよう教えられていた。

光輝の不規則だった呼吸が安定し、表情が和らいでいく。


「ヴァンダイン様。お怪我は?」


「無いよ。ありがとうルナリア」


ヴァンダインはレイピアを鞘に戻すと、アーレスの前に立った。


「無礼なことをして済まなかったね。しかしアーレスも少し鈍っているんじゃないか?

 レナードが速いからと言って反応も出来ないのは、お粗末だよ」


「・・・申し訳ありません」


「これに懲りたら、生温い訓練は止めておくことだ。彼らの命は、キミの指導に掛かっているんだからね」


「よく分かりました」


「じゃあ、僕たちは行くよ。騒がせて済まなかった」


立ち去るヴァンダインたちを、順平たちは黙って見送るしか出来なかった。




H28.9.5 ご指摘を受けて、タイトルを変更しました。

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