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90 三島順平の惨敗(前編)

冴は師である祖父の言葉を思い出していた。


「自分よりも強い相手に勝つ方法じゃと?」


「はい」


それは冴が14才になった時だった。

スポーツ化されて普及している“剣道”とは違い、剣術は現代社会では廃れてしまった武術だ。

その流派を受け継いでいるのは極一部であるし、護身術として生き残っているような道場はもっと少ない。

故に“剣術”をもって冴と相対することができるのは祖父や父、彼女の兄と一部の門下生ぐらいだ。

しかし父は既にサラリーマンとなっているし、兄は大学に通っている。二人とも道場の手伝いや運動で顔を出すぐらいで、剣の道からは遠ざかっていた。


冴には剣に非凡な才能があった。

初めて木刀を握ったのは3才の時で、道場で祖父たちが稽古をしている様子を見よう見まねで振り、遊んでいたらしい。


本格的な稽古が始まると、楽しくて仕方なかった。一般的な女の子がするようなママゴトや人形遊びよりも、木刀を素振りしていたかった。

学校の部活動は剣道を選んだ。14才にして全国クラスの実力を有していた。


だが、女性故に力は男に比べると弱い。

成長期に入ると、それは顕著に現れた。

冴とて筋トレは欠かしていない。だが同じ年の男子が同じように訓練していれば、差は広がる一方だ。ましてや成人した男とであれば比べるべくもない。


それ故に、冴は己に速さを求めた。

先先の先。

受けに回らず、速攻で相手を制圧する。

それは飛燕流剣術の真髄でもあった。


だが自分よりも速い者がいたら、どうする?

力でも速さでも勝てない相手なら、どうする?


14才にして剣士としての心構えを持っていた少女は、その答えを師である祖父に求めた。

祖父の答えは単純明快だった。


「初手にて己の全身全霊を捧げるべし」


そもそも自分より強い相手に小細工など通用しない。ならば初撃に全力を注ぎ、短期決戦に持ち込むのだ。

それを聞かされた日の稽古中、彼女は初めて兄から一本を取った。


あの日のことを思い出し、冴は考える。

相手はアーレスに当て身を食らわせただけで戦闘不能にさせるような化け物。その動きすら、彼女には見えなかった。

この男は間違いなく、自分よりも速く―――そして強い。

ならば自分にできることは一つである。


冴はサーベルを鞘に納め、半身の姿勢で低く構えた。

飛燕流居合い<風音>の構えである。


「抜きつけかい? なかなか様になってるね」


居合いを構える冴に対し、レナードは自信の獲物であるフルーレを構える。

右足を前に出して重心を置く、フェンシングに似た構えだ。


痛いほどの沈黙が二人の間に降りる。

周囲の雑音や剣劇は、まるで聞こえない。


勝負は一瞬。

冴はかつてないほど研ぎ澄まされた感覚で踏み込んだ。

滑るようにレナードのフルーレを避け、これ以上無いタイミングでサーベルを引き抜く。


「<飛燕流居合術:風音>!」


神速の居合いはレナードの脇腹を斬り裂く―――はずだった。


「!?」


あまりの手応えの無さに冴はレナードを見た。その姿が蜃気楼のように揺らいでいる。

直後、


「おせーよ」


背後から聞こえるレナードの言葉。それと同時に鈍い衝撃が後頭部に走り、冴は意識を手放した。




黒様和樹は自分に剣を向けて走り来る女を見ながら考える。


身長は150cmほどと小柄。20代は越えているのだろうが、少女と言っても通用するかもしれない。鎧を着ているので分かりにくいが、なかなかのダイナマイトバディだ。

しかし細い腕の割りに持っている武器は大振りの大剣である。意図的になのかは不明だが、刃の部分が潰れているので“斬る”というよりは“叩き潰す”ことが目的なのだろう。

他の三人が使ったような瞬間移動を彼女だけ使用していない点も合わせると、彼女は見た目とは違いゴリゴリのパワーファイターである可能性が高い。ならば自分との相性は悪いとは言えないだろう。

ルナリアが大剣を上段から振り下ろしてくる。

速い。が、ヴァンダインのように剣速が見えないわけではない。


「<闇衣>」


和樹は慌てず騒がず、A級スキル<闇衣>を発動させ、バックステップで退避する。


ズゴン!


大剣を叩き付けただけとは思えないような爆音が響き、地面が爆砕する。直径にして3メートルほどのクレーターが出来ていた。


(ひええ!)


その威力に冷や汗を流しながら、<闇衣>を発動しつつルナリアから距離を取る。

A級スキル<闇衣>は、闇を纏い姿を隠すスキルである。爆砕によって視界が遮られ、ルナリアが和樹の姿を見失う。


「【マッドグラウンド】」


ルナリアが動きを止めたところで、彼女の立つ地面を泥状化する。その両足が泥沼に沈んでいった。


「こんなもの!」


ルナリアが魔力を込めると、【マッドグラウンド】の効果がキャンセルされる。しかし泥沼は残ったままであり、ルナリアの足は膝下ぐらいまで埋まっている。

その隙を突いて和樹はルナリアに接近し、


「<鈍間ナ亀>」


パキン!


『!?』


何かが割れる音が響き、相対する二人の目が驚愕に見開かれる。

和樹は自分のスキルが何かによってキャンセルされたことに。ルナリアは和樹が予想外に接近してきたことに驚いた。


<鈍間ナ亀>は目には見えない重りを相手に背負わせることで敏捷性や瞬発力を低下させるA級スキルである。

パワーファイターは敏捷性が低いことが多い。事実、ルナリアは他のパラディンが持っているような一瞬で間合いを詰めるスキルを持っていない。しかし、それを差し引いても彼女の動きは和樹を凌駕している。

おそらくレベル差によるものだろう。彼女の一撃を受ければ、自分のような紙装甲は一撃で戦闘不能にさせられてしまう。


そのため和樹は奇襲によって先ずはルナリアの敏捷性を低下させることにした。これには攻撃を避けやすくするという意図の他に、距離を取りやすくするという狙いも含まれる。

危険を犯して接近したのは、<鈍間ナ亀>は射程が短く、至近距離からでなければ発動できないからだ。


(能力低下を防止するスキル? いや―――)


見ればルナリアの鎧に埋め込まれた宝石が淡い光を放ち、砕け散った。


(鎧に能力低下を防止するアクセサリーが付与されていたってことか!)


A級スキル<闇衣>は他のスキルと同時に発動できない。消えていた和樹の姿は丸見えになっている。


「くっ!」


「猪口才な!」


慌てて距離を取ろうとする和樹。ルナリアの両足は泥沼に沈んでおり、背後に振り返ることは難しい。

だが―――


「<烈風閃>」


「うわあ!?」


ルナリアは身体を捻り、手首のスナップだけで身の丈以上の大剣を横凪ぎしてきた。しかも大剣からは突風が発生し、和樹の身体を切り刻む。


(なんていうリストの強さ! 【マジックアーマー】をしてなかったらヤバかった!)


【マジックアーマー】は全身を薄い魔力障壁で覆う防御魔法だ。防御効果は高くないが、消費する魔力は少なく持続時間が長い。和樹は戦闘が始まる前に、この【マジックアーマー】を自身にかけていたのだ。


(ダメージはあったけど、距離は稼げた! しかも吹き飛ばされたとはいえ空中に浮かべた。これなら―――)


「<粉砕>!」


距離を取りたかったのは和樹だけではない。ルナリアも泥沼から抜け出すため和樹を突き放したかったのだ。

彼女が足下に大剣を突き刺すと地面が爆砕した。泥沼はちょうど彼女の足のサイズギリギリの大きさ。膝下まで浸かっていたため、膝の屈伸運動では抜け出せないようにしてあった。それをルナリアは力業で抜け出したのだ。


(滅茶苦茶だな! けど想定内!)


宙に投げ出された和樹の身体が、そのまま静止する。


「<浮遊>ね」


「ご明察!」


A級スキル<浮遊>は空中に浮かぶだけのスキルである。だが剣の間合いから外れ、距離を取るには十分なスキルだ。


「自律魔法陣展開! くらえ、【ダークネスバレット】ぉ!」


和樹の両手に魔法陣が出現し、その魔法陣から闇の弾丸が無数に放たれる。


「はあああああああああっ!」


自律魔法陣は魔力を注ぎ込めば、インプットされた魔法を無限に発動できる。


和樹のスキルは戦闘向きで無いものが多かった。<闇衣>も<鈍間ナ亀>も補助的なスキルであり、戦闘において決定打となるようなスキルではない。

だからこそ彼は【魔法】を求めた。

【魔法】の発動にはキーとなる魔法陣を己の魔力で正確に描く必要がある。そこには高度な演算能力が必要だ。フリーハンドではなく、コンパスや定規が必要になると考えていい。大地が【魔法】を自在に扱えるのは、あくまでチャーリーのサポートがあるからだ。


そしてこれこそが、魔族において【魔法】が衰退した最も大きな理由である。イメージするだけで発動できる<スキル>との違いでもあった。

その作業に慣れているアークノギアの魔術師ならいざ知らず、異世界から転移してきた彼らに【魔法】を発動させることは困難だった。だからこそ軍団長であるアーレスは<スキル>の扱いを優先的に覚えさせたのだ。

和樹はそれに加えて【魔法】を貪欲に求めた。いま扱えるのは初級の【魔法】ばかりだが、異世界人で【魔法】を扱えているのは、今のところ和樹だけである。


「はあ、はあ、はあ・・・」


魔力を使い果たし、和樹は残った魔力で<浮遊>を維持し地面に降りた。

もうもうと上がる砂煙。初級の攻撃魔法とはいえ、あれだけの数を撃ち込めば立派な破壊級魔法である。


「・・・<守護精の盾>」


だが砂煙が晴れて現れたルナリアは無傷。大剣を盾代わりにして防御スキルを展開していた。

あれだけの魔法を撃ち込んだにも関わらず、その防御スキルには綻びの一つも見つけられない。


「攻撃力だけじゃなく、防御力も高いのか。こりゃ無理だなぁ」


「もう、お仕舞いかしら?」


「はい。魔力がスッカラカンです」


「いいわ。合格にしてあげる」


「ズッキューン!」


人差し指を口元に当ててウインクをしたルナリアに、和樹の変なスイッチが入ってしまったようだった。




「どうして当たらないんだ!?」


光輝のイラついた声が響く。


「そんなガムシャラに剣を振り回していては、当たるものも当たりませんよ」


「うるさい!」


「おお怖い怖い」


「この・・・っ!」


おちょくられている。

それが光輝の怒りに更なる火を灯す。その怒りは剣筋に歪みをもたらし、単純なものへと変える。

蝶のようにヒラヒラと舞うピエロスターに、そんな状態で攻撃が当たるはずもない。


「なら、これでどうだ!? <光弾>!」


「きゃっ!」


「もらった!」


至近距離から放たれた<光弾>に体勢を崩したピエロスターに向かい、長剣が振り下ろされる。長剣はピエロスターを真っ二つに斬り裂いた。


「ざんね~ん。ハズレ~」


かに見えただけだった。

光輝が斬ったのは幻だったのだ。


「くそっ!」


「あらあら。隙だらけよ。【ボム】」


「かはっ!?」


声とは逆方向から放たれた火炎魔法に光輝の身体が吹き飛ぶ。


「な、なんで・・・?」


「うふふ。A級スキル<幻惑>よ。目に見えるものだけを信じないようにね」


「このオカマ野郎!」


再び光輝が斬り掛かる。

ピエロスターはそれを手にした双剣で受け止めた。


「失礼な子ね~。お兄さん、ちょっと怒ったわよ」


光輝の繰り出す斬撃を二つの短剣で華麗に捌くピエロスター。


「うおおおお!」


「単純な攻撃ね~。<分身>」


ピエロスターが五人に増える。


「なっ!」


「それそれそれ」


五人のピエロスターは連携しながら光輝に斬りかかってくる。

驚いたのは、<分身>であるはずのピエロスターの攻撃が実態を伴っていることだ。


「なんでだよ!?」


「いちいち騒いでウルサイわねぇ」


ピエロスターが攻撃の回転を上げる。光輝は防戦一方だ。


「くうっ!」


「そろそろ飽きたわね。【ボム】」


「なっ!?」


五人のピエロスターが至近距離から【ボム】を放った。防ぐことも叶わず、光輝の身体が爆発に包まれた。


「呆気ないわね~。・・・あら?」


爆煙の中、翠の優しい光が見えた。煙が晴れると、そこには無傷の光輝が立っていた。


「あらぁ。ひょっとして、回復スキルかしら」


「そうだ。A級スキル<癒しの光>だ。僕は負けない!」


「ま~だ実力差が分かってないのね。いいわよ、何度でも来なさい」


ピエロスターが再び<分身>を発動させる。


「私にとっては、お楽しみの時間が増えるだけですもの」


「ほざけぇ!」


舌なめずりするピエロスターに、光輝は何度目かの突撃をしていった。




H28.9.5 ご指摘を受けて、タイトルを修正しました。

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