09 現状把握と目標設定(2)
とりあえず現段階の目的は、
1.クラスメイトたちを助ける
2.元の世界に帰る
こんなところか。
しかし元の世界に帰るにせよ、クラスメイトたちを助けるにせよ、そのためには先ず俺自身が強くなる必要がある。
そして、この森を出る必要があるわけだが・・・
結論を先に言うが、俺は強い。
クレイジー・モンキーを撃退したように、俺はレベル1にして、かなりの力を身に付けている。
これがマンガなら“最強のレベル1”などというアオリを考えただろうな。
恥ずかしいけど。
ともあれ、俺が反則的な強さを得ることが理由は、やはりチャーリーの存在である。
<ナビゲーター>と名乗る彼は、自らをレジェンド級スキルなのだと言った。
スキルにも格付けのようなものがあり、下から
B級スキル
A級スキル
ユニーク級スキル
S級スキル
レジェンド級スキル
に分けられるそうだ。
ちなみに一般的に知られているのはS級スキルまでであり、レジェンド級スキルを知る者は限られているのだとか。
B級スキルはパッシブ・スキルとも呼ばれ、獲得するだけで無意識に効果を得られるスキルだ。
<剣術>や<体術><身体強化><身体能力向上>などが代表的らしい。
これに対し、A級スキルは自身の魔力を使用し発動しなければならない<スキル>を指す。
<金剛>や<韋駄天>など身体機能を一時的に強化するものや、<瞬間移動>などのスキルがあるとのことだ。
これらB級とA級スキルは、個人によって向き不向きはあるものの、鍛練やレベルアップで身につけることができるものが多いらしい。
だがユニーク級以上のスキルは努力や鍛練で身に付けられるものではないそうだ。
本人の才能や資質によって得られるものであり、それが無い者には得ることができない。
その個体の“個性”が強く影響するのである。
しかもユニーク級スキルには取得条件があり、特定のA級・B級スキルを取得しておかなければならないものもあるらしい。
その可能性すら無く、生まれつき所持しているのが<S級スキル>になる。
当然、これらの<スキル>はA級やB級のものより強力なものが多い。
では<レジェンド級スキル>とは何か?
言うなれば<意思を持つスキル>らしく、使用者をスキル自身が選ぶものということらしい。
純粋な力の結晶であり、かなりのチート機能を持つ。
またレジェンド級スキルの効果は<固有能力>と呼ばれる。
付け足すと、<ステータスプレート>に表示されるのはS級スキルまでで、レジェンド級スキルは表示されないらしい。
「つまり、チャーリーがレジェンド級スキルだったから、俺にはスキルが無いような表示になったんだな。
ってことは、俺にはS級スキルやユニーク級スキルは無かったわけだ」
Answer.
そんなことは、ありませんよ。
「なに?」
Answer.
マスターの初期ステータスを表示致します。
個体名:山本 大地
種族:異世界人
レベル:1
STR:80(+200)
MAG:300(+200)
スキル一覧
B級スキル
<身体強化Lv1><身体機能向上Lv1><魔力強化Lv1><魔導><他言語理解>
A級スキル
<短距離転位><従魔契約><魔弾>
ユニーク級スキル
<動作描写><魂の系譜><堕天の加護>
S級スキル
<地図表示><神々の戯れ>
・・・。
え、なにこれ?
俺って、こんなステータスだったの?
つーかMAGって魔力のことだよな。めっちゃ高いんですけど。
「な、なんで王国の<ステータスプレート>に、これが表示されなかったんだ?」
Answer.
私が<ブラフステータス>を表示し、隠していました。
「お前が犯人かぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
咄嗟に叫んでしまった。
ここでレジェンド級スキルことチャーリーの能力紹介である。
<レジェンド級スキル>
ナビゲーター:チャーリー
固有能力:<世界案内>
<世界的知識><情報操作><索敵><見破り><スキル解析><スキル複製><魔法演算>
<ヘルプ機能><レクチャー機能>
もう何から突っ込みましょうかという感じである。
チャーリー曰く、情報は武器であり必要以上に与えるものではないらしい。
特に俺は異世界人で、希少なスキルを保有している。
このためスキルや能力を偽装できる<情報操作>で常時、ブラフとなるステータスを表示しているらしかった。
俺の基礎能力が他の連中に比べて低かったのも、チャーリーの<情報操作>によるものらしい。
Answer.
ブリトニア王国に怪しまれず、あの場を抜け出すには最善の処置でした。
ちなみに能力値やスキルの偽装は、俺が解除しない限り継続するらしい。
まあ俺の今の能力だと悪目立ちするからな。
今は、それでいい。
・・・というか、チャーリーさんは何故俺みたいな奴を選んだのだろうか?
Answer.
マスターですので。
意味の分からん回答だ。
まあ細かいことは気にしないでおこう。
それよりもチャーリーのチートな機能を紹介する方が先だろう。
チャーリーは意思を持つレジェンド級スキルであり、その能力の名前は<世界案内>というらしい。
これはチャーリーの能力を総じて表す能力らしいが、その詳細を以下で説明していく。
まず何を置いても説明しなければならないのが、<スキル解析><スキル複製>とだろう。
が、その前に<索敵>と<見破り>について説明する。
この<索敵>と<見破り>は、言うなればヘルプ機能付きのレーダーのような<スキル>である。
<索敵>は俺を中心とした一定範囲内にいる生命体や魔法生物を把握することができる能力だ。
そして<見破り>は対象のステータスを看破し、情報を得ることのできる能力である。
チャーリーは俺のエクストラ級スキル<地図表示>と複合させることにより、マップのようなものを表示して相手の場所を特定し、そのステータスから読み取った情報で俺に対する危険度などを表示させることができるようだ。クレイジー・モンキーの時に表示された、あのマップである。
ここで重要なのは、チャーリーが一定距離にいる対象のステータスを確認することが出来る、という点だ。
そこで<スキル解析><スキル複製>の効果について説明できるようになる。
どういう仕組みなのかはサッパリ不明だが、とにかくチャーリーは<索敵>と<見破り>によって<スキャン>した対象の情報を読み取ることが出来る。
その情報には<スキル>が含まれており、これを<解析>することができるのだ。<スキル>の構造式などを<解析>する能力ということだが、俺には理解の及ばないことだった。
そして<解析>が完了したスキルはチャーリーによって記録され、同様の構造式を構築することで<複製>、つまり<コピー>することができるらしい。
<コピー>された<スキル>は、任意の対象に付与させることができる。
取得条件を満たしていなければ使用できないそうだが、特定の<スキル>を所持していることが条件であれば、その<スキル>をコピーすることで条件はクリアできるのだ。
つまり、俺は自分でスキルを獲得しなくても、他人から<スキル>を<コピー>できるのである。
抜け目無いチャーリーさんは、クラスメイトたちのスキルを全て<複製>していたのだ。
そして、それらを俺に付与したわけである。いくつかは付与できなかったみたいだが。
うん、クラスメイト全員分。
王国から<兵器>扱いされる15人分のスキル全部。
チートすぎるだろぉぉぉぉぉ!
俺、人間だよね!?
Answer.
まだ人間です。
“まだ”を付けるな、“まだ”をぉぉぉぉぉ!!
<身体強化>みたいなパッシブ・スキルを大量に獲得しているため、俺はレベル1でもクレイジー・モンキーを圧倒するような戦闘ができたわけである。
もちろん、パッシブ・スキルの効果だけではないのだが・・・。
この世界の人間で例えるなら、基礎的なステータスだけでレベル90ぐらいの冒険者に相当するらしい。
というわけで、俺が強いというのは理解してもらえると思う。
ただし。
俺がその能力を使いこなすことができるなら、という但し書きがつく。
超人的な力を得た実感はある。
しかし、当然ながら俺に武道や格闘技の経験は無い。
経験もなく、使い方も知らないものは使えないのである。
剣道初心者に名刀と呼ばれる刀を与えたからといって、達人とは呼ばないだろう。
バイオリン初心者に何億円もするストラデバリウスを持たせたからといって、コンクールで優勝できるわけではないだろう。
今の俺は、例えるなら凄まじく高性能なスーパーロボットに乗っている初心者パイロットのようなものだ。
どんなに凄まじいスキルを持っていても、人外の身体機能が備わっていても、俺自身がそれを使いこなせなければ意味がないのである。
俺はニュ○タイプではないのだ。いきなりガ○ダムなんて操縦できない。
俺は強い。
だが、俺自身は弱い。
クレイジー・モンキーを撃退して調子に乗った俺にチャーリーが投げ掛けた言葉だった。
では強くなるには、どうしたら良いのか?
単純な話だ。
戦って、俺という名前のスーパーロボットを上手く操縦できるようになればいいのである。
戦い方を教えてくれる先生なら、俺の中ににいるのだから。
そう、チャーリーである。
ここで改めて、チャーリーさんの固有能力についての説明を続けたいと思う。
チャーリーには<世界的知識><ヘルプ機能><レクチャー機能>などの固有能力が備わっている。
<世界的知識>とは、このアークノギアという世界の理についての知識を有していると言うことだ。
ブリトニア王国やガスパリア帝国といった国々の情勢、クレイジー・モンキーのようなモンスターの特性などを把握している。
そして、それらの情報を<ヘルプ機能>によって、俺に伝えることができるらしい。
さらに<世界的知識>には戦闘における最適化された動きも含まれているとのことだった。
つまりチャーリーは武術や魔法の達人でもあるわけである。
それらの技術を<レクチャー機能>によって俺に伝えることができる。
クレイジー・モンキーと戦闘したときに浮かんだイメージ。
俺は予知の<スキル>かと思っていたが、あれはチャーリーが「こうやって動け」というのを映像として見せていたらしい。
チャーリーの<レクチャー機能>と俺のエクストラ級スキル<動作描写>を合わせたモノらしい。
俺は便宜上、これをレクチャーモードと名付けた。
俺のエクストラ級スキル<動作描写>は思い描いた動作ができるようになるという<スキル>らしい。
アスリートたちにとって、自分が競技で成功するイメージを養うのは大切なことだそうだ。
俺は、それを<スキル>として発動できる。
つまり行動が成功するイメージをすることで、身体が勝手に動いてくれるのである。
運動部の連中からすれば、喉から手が出るほど欲しい<スキル>だろう。
しかし、<スキル>を成功するにはイメージしたことを実現できるだけの運動能力や強い想像力が必要だ。
パッシブ・スキルで強化された肉体なら条件はクリアできるが、戦い方を知らない俺に敵を攻撃するイメージを持つのは難しい。
だからチャーリーは<レクチャー機能>を活用して、俺がとるべき最善の行動を先に映像として見せ、その通りに動けるようイメージ付けたのである。
これを活用して訓練すれば、いちおう戦闘能力を磨くことはできる。
俺にとって急務と言えるだろう。
最後に<情報操作>と<魔法演算>について説明しておく。
<情報操作>は、先ほど説明した通り俺のステータス表示を弄ることができる能力だ。
また、この世界には<鑑定>にように相手のステータスを看破したり、物品の説明を表示することのできる<スキル>が存在する。
<鑑定>の対象となるものを<情報操作>することで、偽の情報を掴ませることができるらしい。
あと<魔法演算>についてだが、これは単純に【魔法】の発動をサポートしてくれる固有能力だ。
イメージと魔力だけで発動できる<スキル>と違い、【魔法】は魔法陣の構築など複雑な過程を必要とするらしい。これをサポートしてくれる能力だ。
簡単に言うと、「こんな魔法使いたいんだけど」「できました」「よし発動」みたいな感じだ。
ちなみに【魔法】は<スキル>よりも不便だが、そのぶん強力らしい。
チートすぎる、チートすぎるぜ。
今さらだけど、どんだけなんだチャーリーさん。
Answer.
恐縮です。
無論、チャーリーに戦闘を任せることはできる。というか、俺は<スキル>の発動方法など知らないので、クレイジー・モンキーとの戦いでも、何げにチャーリーさんが<スキル>の発動をサポートしてくれていたらしい。
しかし、それでは俺自身が強くなったことにはならない。
役に立たないだけで、事情説明もなしに捨てられるような世界で生きていくのだ。
初めにも言ったが、俺自身が強くならなければならないのである。
それに―――
俺は漫画家志望だ。
こんなファンタジーな体験に心が踊らないなんてことは、ないのである。
確かに不安はあるが・・・
それと同じぐらいに、ワクワクしている自分もいるのだ。
他人に任せて傍観者になどなってはいられない。
さあ、俺の冒険を始めよう。
俺はその一歩を踏み出した。
掛かって来いよ理不尽。
足掻いて足掻いて、叩き潰してやんよ。
H28.7.23
チャーリーさんの固有能力についての説明を加えました。