84 ダイチVSロンダーク
一挙に3話投稿です!(2)
「な、なんじゃ、その複雑な魔法陣は!?」
知らねーよ。
見るからに狼狽するジースを無視し、魔力を練り上げていく。浮かんでは消える魔法陣が俺の右手に収束し、一本の白い槍となった。
槍から膨大な魔力を感じる。
これならいける!
大きく振りかぶり、迫り来る『島』に向かって投擲し叫ぶ。
「【グングニル】!」
カッ!
俺の手から放れた白槍は眩い光を放つとミサイル程の大きさになり、錐揉み状になって飛翔していく。
そして【メテオスウォーム】にブチ当たると、まるで粘土の中にでも埋まっていくように進んでいった。
頃合いを見図り、両手を前で打ち鳴らし叫ぶ。
「爆ぜろ!」
【メテオスウォーム】の内部から閃光が迸り、爆発した。
『島』が崩れ、幾つもの塊となって落下していく。
「やりよった! やりおったぞ!」
何故か響くジースの歓喜した声。その隙を逃すわけがない。
「むっ!?」
俺は<高速飛行>でジースに肉薄した。瞬時に【オートテレポ】が発動し、ジースが転移する。
問題ない。転移先は探知魔法の【サーチ】でチャーリーさんが教えてくれる。
「なっ!?」
転移した直後、目の前に現れた俺の姿を見てジースが驚愕に目を見開く。
<短距離転移>で俺もジースの転移先に跳んだのだ。ジースの姿がまた消える。
俺は更に、その転移先に回り込んだ。発動したのは<瞬動>だ。
未だ練習中なのでタツマキのように連続で発動できないが、一度なら正確な場所まで瞬時に移動できるようになっている。
俺の考えた【オートテレポ】の対策は二つ。
一つは【オートテレポ】が発動するギリギリ外側で、中距離からの攻撃をすること。
これは、さっき試した。
もう一つは【オートテレポ】の転移先に、こちらも瞬間移動し魔法効果が切れるまで付いて回ること。
その手段は俺の手札に二枚。<短距離転移>と<瞬動>だ。
<短距離転移>は連続で使用できないし、<瞬動>も一度しか確実に成功しない。
だから【オートテレポ】が二回で切れるタイミングが来るまで<瞬動>は温存していた。案の定、【オートテレポ】を発動しているのに付いて回る俺にジースは対応できない。
既に俺の間合い。防御も回避もさせない。
発動するのは<爆裂拳>だ。
老体を殴るのは忍びないが、あんな大魔法を連発されては堪らない。
死なない程度、しかし確実に意識は刈り取らせてもらう!
だが、
「<次元斬>!」
<爆裂拳>のモーションに入ろうとした瞬間、俺とジースの間を凶悪な斬撃が割り込んだ。
慌てて後ろに跳ぶ。
(なんだ、あれは?)
斬撃が通った先は黒いベールのようなものが残っている。それは段々と小さくなり、消えていった。
「無事か、ジース」
「ロンダークか。助かったわい」
ジースが地面にへたり込んだ。
「割り込みかよ。マナーは守って欲しいんだけどな」
「仲間が倒される姿を黙って見ていろ、と?」
「できないな。うん、無理」
俺は笑って言う。
それに対してロンダークは目を細めた。
「何故だ?」
「あん?」
ジースの前に立ち、抜き身の長剣を下げながらロンダークが問う。
「何故、ジースの【メテオスウォーム】を破壊した?
貴様なら無難に回避できたはずだ」
あ~。
これは【ゲート】のことを知っていると見て良いな。でも、フォレストピアのことをコイツに話して良いのだろうか。
いや、知っている可能性の方が高いか。俺はバツが悪くなり、頭を掻きながら答えた。
「原初の大森林に都市を建設中なんだ。あんなものが落ちて地震が起こったら、壊れちゃうだろ」
「都市を守るためか?」
「正確には、そこに暮らしてる奴らだな。建物は壊れても、また建て直せば良いだろ。
けど都市には子どもだっているんだ。怪我したら危ない」
俺の言葉に、ロンダークは目を閉じて何かを考えた後、口を開いた。
「回復しろ」
「はい?」
「貴様らが<神薬>に相当するポーションを持っていることは把握している。全快の状態で相手をしてやるから回復しろ」
「親切な奴だな~」
「いいから早くしろ」
「だが断る!」
「なんだと?」
ロンダークが目を細めた。
「こっちはハナっから二人同時に相手をするつもりで来てるんだよ。だから回復する必要はない」
「正気か? 手加減せんぞ」
「いらん。全力で来い。叩き潰してやんよ」
「ならば―――いくぞ?」
ロンダークが動いた。踏み出したと思った瞬間、その姿は眼前にあった。
「<次元斬>!」
「うおおっ!?」
横凪ぎの一撃をギリギリしゃがみ込んで躱す。びっくりした!
俺は慌てず、そのまま一回転して足払いを仕掛ける。ロンダークが片足を払われてバランスを崩したところに、蹴りを入れてやる。
「ぐっ!?」
一瞬だけよろけるが、すぐに体勢を整える。俺も構えを取る。
ロンダークが薙いだあとには、やはり黒いヴェールのようなものが残っていた。
あれは―――ひょっとして、空間ごと切り裂いてたりするのか?
Answer.
正解です。
どんだけ凶悪なスキルだよ!
防御不可、一発即死とか最悪だな!
Answer.
空間を隔絶するような結界であれば、防御可能です。
さいですか!
ロンダークは長剣を構えると、またしても一瞬で踏み込んできた。が、今度は慌てない。
袈裟懸けから横凪ぎのコンビネーションをやり過ごし、バックステップで距離をとる―――と思わせて前に全力でダッシュ。
慌てて奴が振ってきた剣を<天馬>で避け、肉薄したところに<爆裂拳>を叩き込む。
放たれる無数の拳を、なんとロンダークは片方の手だけで防御する。しかしノーダメージとはいかない。
ロンダークの得物である長剣は、かなり長い。故に超近接戦闘には不向きだ。
<次元斬>などという凶悪なスキルが向こうにある以上、奴の間合いで戦うのは愚策だ。
離れても一瞬で距離を詰めるスキル―――<瞬歩>というらしい―――をロンダークが持っている以上、距離を空けるのは得策じゃない。
もちろん危険はあるが、この間合いは俺の領域。遅れはとらない。
つもりだった。
「速い、な」
俺は目を見張った。ロンダークの持つ長剣が静かに光を放ったかと思えば、二本のショートソードに姿を変えたのだ。
「なっ!?」
「<乱舞>」
二本のショートソードから繰り出される凄まじい連撃。まるで旋風だ。
たまらずに距離を取ると、またしても剣が姿を変える。今度はレイピアか!
「貫け。<一直>」
レイピアから放たれた閃光は光の如き速さで俺の脇腹を貫いた。
「っあ!?」
咄嗟に身体を捻っていなければ、心臓を貫かれていただろう。
やばい、もう次のモーションに入っている!?
連発できるのか!
「<一直>」
「<転移>!」
痛む身体にムチを打ち、<短距離転移>を発動し回避する。
ロンダークの後方に転移したのだが、振り返った奴の口元に笑みが浮かんでいるのが見えた。
「<蛇ナル鎖>」
いつの間に変形していたのか、奴は鎖鎌を手にしていた。
分銅の付いた鎖は俺に向かってくると腕に絡み付き、蛇のように締め上げる。痛みに顔をしかめると、途端に前方へと引っ張られ身体が浮く。その向こうには鎌を構えたロンダークの姿。
「<首刈>」
「うおおおおっ! <天馬>ァ!」
降り下ろされる鎌の一撃を、何とか<天馬>で軌道修正し回避する。
鎌の一撃が地面を抉り取るのを見て背中に冷たい汗が伝う。
「うおらぁ! <剛腕>!」
あんな攻撃をされては、命がいくつあっても足りない。
俺は腕の筋力を増大させるスキル<剛腕>を一瞬だけ発動。腕が二倍ほどの太さになったところで解除し、緩くなった鎖から腕を引き抜く。
<短距離転移>は連続発動ができない。
<転移>スキルを使用すれば鎖からの脱出は簡単だが、<一直>を回避するのに使用したので、鎖からの脱出にすぐには使えない。
奴が笑みを浮かべていたのは、俺の<転移>を封じたと思ったからだろう。
それは鎖の戒めから、しばらく逃れられないことを意味するからだ。
奇抜な方法で鎖鎌の拘束から脱出した俺を見て、奴は目を丸くしていた。
「奇っ怪な<スキル>の使い方だな」
武器を双剣に変え、ロンダークは<天馬>で空を駆け追撃してくる。
「<双連撃>」
「<旋風拳>!」
ロンダークの繰り出す双剣をタツマキからコピーした<旋風拳>で防ぐ。
俺もロンダークも<天馬>で空を駆けてぶつかり合い、双剣と風の拳が火花を散らした。
「<次元斬>!」
ロンダークは大きく振りかぶったかと思うと、双剣を重ね合わせ元の長剣に戻し、<次元斬>を放ってきた。
至近距離から放たれた<次元斬>に回避が追い付かない。
とか思ったら甘いぜ!
「ぬ!?」
「<閃光脚>!」
俺は<短距離転移>で身体の位置を少しだけずらす、という方法で<次元斬>を回避。カウンターで<閃光脚>をお見舞いする。
吹き飛ばされていくロンダーク。
そこに―――
「うららららららららら!!」
ありったけの<魔弾>を叩き込んでやる。
「<次元断>」
だがロンダークの前に現れた黒いヴェールのような穴に全て吸い込まれていった。
なるほど。あのスキルは防御にも使えるわけか。
ちなみに脇腹の傷は【ヒーリング】の魔法で処置済みである。
再び距離を取って対峙する。
ロンダークの強さは状況に応じて武器を変更し、それらの武器に合わせた多様なスキルを使いこなしているところだ。しかもスキルは強力なものが多く、防御=致命傷なんてものもザラである。
無手で相手をするのは、なかなかに厳しい。
「なかなかやるな。だが、それでは俺を倒せんぞ。
ましてジースと二人同時なんぞ、無謀にもほどがある」
反論できないな。
・・・仕方無い。
まだ検証段階だが、アレを使うか。
「強いよ、アンタ。確かに俺の見通しは少し甘かった」
「ならば原初の大森林から手を引け。その強さに免じ、これで手打ちとしてやる」
「そーいうわけには、いかないんだよな~これが」
俺は魔力を練り上げていく。溢れ出た魔力が黒いスパークを起こす。
ブリトニア王国に対抗するためとか、元の世界に帰るための活動拠点とか。
そんなことは、もうどうでもいい。
王牙たちは俺の仲間だ。
彼らを配下にした俺には、責任がある。
彼らを理不尽から守る義務がある。
「そうか。残念だ」
ロンダークが構えを取る。俺の魔力に警戒しているのだろう。
「<雷光拳>」
俺の腕に稲光が迸る。
ここからだ。イメージを崩すな。
「<雷刃脚>」
更に脚部にも雷光を纏う。
まだだ。まだ足りない。
ロンダークの目に警戒の色が濃くなった。
「ウオオオオオオオオオ!」
ここで止められるわけにはいかない。
俺はありったけの魔力を身体から放出する。
腕、そして脚から発する雷光が黒く、全身を覆っていく。
俺のイメージを形作るように。
「<黒天雷装>!」
黒い雷と化した爆発的な魔力が俺自身の身体を焼く。
ここまでは成功だな。
「・・・なんだ、その姿は」
変わり果てた俺の姿を見て、ロンダークは茫然と呟いた。




