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78 アクアVSギリアム

アクアは敵陣の前に立つと、そのまま静かに佇んでいた。

目を閉じて眠っているようにも見えるが、その内側からは魔力が溢れ出ている。


「敵陣の前に立っているだけとは大胆だな。それとも時間を無駄にしているのか?」


「・・・待ってた」


「この<氷結貴人>の魔王、ギリアムをか?」


「うん」


「それこそ時間の無駄だ。私が出て来なければ、どうしていた?」


「そこの陣地に特大の魔法を撃つつもりだった」


「怖いことをサラリと言うのだな」


アクアの言葉に嘘はない。事実、彼女は魔力を高めていた。


「美しいな。水の精霊か?」


「違う」


「だろうな。貴様から感じる魔力は精霊のような聖なるものではない。

 であればモンスターだろうが、見たことはないな。しかし身体を構成する物質から、おそらくスライムの変異種か」


ギリアムの分析は間違ってはいない。だが正解でもない。そしてアクアに、それを指摘してやる義理も無い。


「答えは無しか。まあいい、これ以上は時間の無駄だ。<氷刃鎌>よ」


ギリアムはスキルで武器を出現させた。その口元には笑みが浮かんでいる。


「残念だったな。水属性の貴様では、俺には勝てん」


その言葉が合図になった。

アクアが周囲に浮かせていた水を槍状にして放つ。しかしそれは、ギリアムに届く前に氷結し、固まった。


「俺のA級スキル<氷結陣>だ。俺に触れようとするものは全て凍り付くぞ」


ギリアムがアクアに肉薄する。鋭い<氷刃鎌>の連撃を躱すアクアだが、その刃が彼女の腕を掠めた。すると腕が凍り付いていく。


「そして俺の<氷刃鎌>は斬ったものを凍り付けにするのだ」


凍り付いた腕を切り離し、再生させながらアクアは距離を取ろうとする。それに追いすがるギリアム。


「【アクアバレット】」


「<無詠唱>か!」


至近距離から放たれた【アクアバレット】をギリアムは<氷刃鎌>の刃で防ぐ。


「鎌の大きな刃は身を守る盾にもなる!

 この<氷結貴人>の魔王ギリアムに死角はない! <氷結弾>!」


ギリアムの手から青白い弾丸が放たれる。


「【ウォーターシールド】」


それを魔法で防ぐが、結界が瞬時に凍り付いた。そこに、


「しゃあ!」


ギリアムが氷付けになった結界の上を飛び越えてきた。

よく見れば、空中に氷でできた道のようなものがある。ギリアムはこの道を滑って来たのだ。アクロバットな動きでアクアに肉薄する。


「氷の道<氷滑道>だ。壁による障壁も、俺の前では無意味と知れ!」


<氷刃鎌>が振るわれる。アクアは回避できないと判断し、触手を巨大化させた拳を盾にして防ぐ。瞬時に水の拳が凍り付き、アクアは氷結した部分を分離させた。


「くっくっくっ。水は良く凍るな」


<氷>属性は<水>属性の上位に当たる属性だ。当たり前だが<氷>は<水>から出来ている。このため<氷>は<水>を無効化する特性を秘めているのだ。

ギリアムがアクアに「お前では勝てん」と言ったのは、これが理由だった。


加えてスライム種は物理攻撃に強いが、魔力による属性攻撃には弱い。特に火属性と、その上位属性である雷、水属性の上位属性である氷属性に弱い。

スライム種が物理攻撃に強いのは、たとえ身体の一部を切り落とされても切り落とされた部分を結合し再生できるからだ。バラバラにされてもコアさえ無事なら結合できる。

しかし魔力による属性攻撃はスライムの身体そのものを破壊してしまう。体積の少なくなったスライムのコアを狙うのは容易だ。

スライムを倒すには魔力による属性攻撃、つまり【魔法】が有効とされるのは、これが理由だった。


「スライム種にしては、良い動きをしているが、このまま削り取っていけばコアが剥き出しになる。抵抗するだけ時間の無駄だ」


「・・・もう分かった」


「ほう、諦めたか。良いことだ、時間は有効に使うべきだからな」


「もう終わりにする」


アクアが魔力を高めた。


「魔法か? 貴様の魔法など、俺には効かんぞ」


「【アクアウェーブ】」


アクアの<力ある言葉>によって待機中の水分が大量に集まり、津波となってギリアムに襲い掛かる。


「<氷結陣>!」


しかし津波はギリアムを覆うと、瞬時に凍り付いた。


「ふむ、氷で俺を閉じ込めたつもりか? 時間の無駄だな」


ギリアムが腕を振るうと氷のドームが氷壊した。A級スキル<氷操作>である。

氷が落ちてくる様子を眺めていたギリアムだったが、不意に背後から気配を感じて<氷刃鎌>を振るう。だがそれが相手に届くよりも早く、腹部に強烈な痛みを感じた。


「ごはっ!?」


腹にめり込んだ水の拳。目の前にはアクアが立っていた。


「ちいっ!」


痛みを無視して<氷刃鎌>を振るおうとするが、武器を持つ手が動かない。見ればそこにもアクアが立っており、ギリアムの手を抑えていた。


「<分裂>か!?」


「当たり」


「ごぶはあっ!!」


綺麗なワンツーがギリアムに叩き込まれる。


「っぐ! <氷結弾>!」


アクアの分体を氷漬けにし、<氷刃鎌>を抜き取る。

そして<氷滑道>で距離を取ろうとするが、


「ちいっ!?」


アクアはジェット噴射の要領で素早く動き、距離をとらせない。


「スライムが接近戦だと!? なめるなよ!」


勢い良く<氷刃鎌>を振るうが、アクアの身体がグニャリと歪み、刃を避けた。


「な!?」


<分裂>と同様、スライム種のユニーク級スキル<変形>である。

驚きで隙ができたところに、またしても華麗なワンツーが入る。


「ごはっ! き、きさま、まさか!?」


執拗に接近戦を仕掛けてくるアクアに、ギリアムの脳裏にある可能性が浮かび上がった。アクアの口元がニヤリと挑発的な笑みを浮かべた。


「<氷結陣>破れたり」


「やはりか!」


ギリアムは中・長距離の攻撃は<氷結陣>で防いでいたが、至近距離からの攻撃は<氷刃鎌>で防御していた。

つまり<氷結陣>の発動は、ある程度離れた距離からの攻撃でなければならないということだ。アクアはその距離を計っていたに過ぎない。


「だが、スライムの弱点は俊敏性だ! 接近戦なら俺が有利!」


たが、


「くっ! なぜ当たらない!?」


チャーリー直伝のジェット噴射を応用し、アクアは移動能力における弱点を克服している。

また<変形>によって自在に動く身体をとらえるのは容易ではない。


「ぐっ! ごはあっ!」


そして変幻自在に動く触手は無数の手数となり、敵に襲い掛かる。<氷刃鎌>のような大振りの武器で防ぎきれるものではない。

確かにスライム種は動きも遅く接近戦は苦手としている。だが、アクアは逆に得意としていた。


「こ、この<氷結貴人>の魔王ギリアムがスライムなどに遅れをとるものかぁ!

 くらえ、<大氷牙>!」


ギリアムの足下から大きな氷の牙が無数に伸びる。

ギリアムの奥の手、<大氷牙>だ。

しかしアクアはギリアムが接近戦で切り札を隠していることに気がついていた。ジェット噴射で上空に逃げる。


「<氷結弾>!」


すかさずギリアムが<氷結弾>を放って追撃してくるが、<変形>でやりすごす。そしてギリアムの真上から急降下し―――


「ギガンティック・アクアパンチ」


それはスキルではない。魔法でもない。

巨大な、ただただ巨大な水の拳だった。


「バカめ! <氷結陣>!」


アクアの放った水の巨大な拳が見る見るうちに凍結していく。


「バカめ! <氷結陣>を上方には発動できないとでも思ったか!?

 俺のスキルに死角など・・・」


ギリアムはアクアが<氷結陣>を上に向かっては発動できないと勘違いしていると思い、嘲笑した。

だが、それが間違いだった次の瞬間には思い知らされる。


「・・・あ?」


氷付けになった巨大な水の塊は、重力に従って落ちていく。ギリアムへと。


「こ、こおりそう―――ぴぎゃ!」



ズドオオオオオン!



重さ1トンを越える氷塊に押し潰されるギリアム。

<氷操作>を発動しようとしたが、咄嗟のことで間に合わなかった。


「・・・」


氷塊をどかすと、半死半傷のギリアムが現れる。呼吸をしているので、何とか生きているのだろう。

とりあえず本当に死んでもらっては困るので、最低限は回復させて引きずっていく。これから敵陣に赴き、投降を呼び掛けなければならない。


「・・・はあ、面倒」


誰に言うでもなく、アクアは呟いたのだった。



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