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77 桜花VSラルヴァ

ダイチが飛び出していった後、桜花たち四人は揉めていた。


「では、ダイチ様は敵の本陣に向かったというのか!?」


激昂しているのは桜花だ。


「いちばん危険な場所ではないか! いますぐ追いかけるぞ!」


「だめ」


飛び出そうとする桜花をアクアが制止する。


「何故だ、アクア殿!?」


「いちばん危険だからこそ、主様は向かったのじゃろうな」


紅葉が一人言のように呟いた。


「なれば、妾たちの役割は一つ。魔公どもをさっさと片付けて、主様の加勢に向かうことよ」


「そんなことは分かっている!」


紅葉に言われたことは、桜花も分かっていた。だが感情が理解を拒絶していたのだ。


「おい、のんびり話していて良いのか。ボクはもう行くぞ」


そう言うとタツマキは翼をはためかせて飛び立った。少し機嫌が悪そうだ。


「わたしも行く」


アクアは水流をジェット噴射して、タツマキとは逆の方向に飛んでいった。


「妾も行く。己の役割を見失うなよ」


「・・・分かっている。すまなかった」


「よいよい。義に厚きことは良いことじゃ」


紅葉の姿が消える。おそらく長距離転移の魔法だろう。

桜花は大きく深呼吸すると、弾丸のように駆け出した。



苛立ちの原因は分かっている。ダイチが自分たちに相談もなく危険に飛び込んでいったからだ。

もともと今回の戦は、不可侵とされていた原初の大森林に魔族が手を出してきたことから始まっている。ならば、原初の大森林に住まう者たちで対応するのが筋だ。ダイチは巻き込まれているに過ぎない。それなのに、いつも危険な役割を選択しようとする。

桜花としては、自分達のチカラを信頼してもらえていないのではないかと不安なのだ。


(ならば信頼していただけるよう、己の為すべきことに全力を尽くそう!)


桜花はそう決め、更にスピードを上げた。目前に魔公の陣が迫る。構わず突撃した。



ゴオン!



「!?」


しかし直前になり、地面から巨大な壁が出現した。回避は―――間に合わない!

木刀を構え、そのまま壁に斬りつけた。


「はあ!!」


桜花の剣撃を受けて壁が粉々に粉砕される。


「ほほう! あの壁を壊せるのか!」


「・・・何者だ?」


桜花の前には筋骨隆々とした大男が立っていた。

大男は自らの筋肉を誇張するようにポージングをしながら嬉々として名乗りを上げた。


「俺は<岩石粉砕>の魔王ラルヴァ様だ! 貴様も名を名乗れ!」


「・・・真の魔王ダイチ様の配下、鬼人姫の桜花だ」


「真の魔王とは大きく出たな!」


ダイチは魔王と呼ばれることを嫌がる。それでも自分を真の魔王の配下と言ったのは、ラルヴァが<魔王>を名乗ったからである。

本来、魔公というのは彼ら魔王を名乗る者たちに向けられた蔑称である。このため、ラルヴァたちは自身のことを<魔王>と呼ぶのだ。


「俺とダイチとやらなら、どちらが強いかな!?」


「ダイチ様に決まっている」


「では俺とお前となら、どちらが強い!?」


「私だろう」


「では試してみるか!」


「よく回る舌だな」


ラルヴァの上機嫌な様子が桜花の苛立ちを強める。


「いくぞ」


ラルヴァが跳躍し、襲い掛かってきた。あれだけの巨体が宙に浮く様子は、逆に滑稽だ。

空からの一撃を軽く躱す。


「<岩石柱>!」


続け様に繰り出された拳を受け止め、その衝撃で吹き飛ばされた。ラルヴァの拳から何かが延びてきたのだ。

それは岩の柱だった。

勢いを殺すこともできず、桜花は岩壁に叩き付けられた。


「ふふん。口ほどにもないな!」


ラルヴァが放ったのはA級スキル<岩石柱>である。岩の柱を作ることのできる工作用のスキルであるが、拳から勢いよく噴射することで攻撃にも転用できる。

ラルヴァが桜花への興味を失いかけた時、岩柱がパックリと割れた。真っ二つに割れた岩柱が左右に倒れる。


「ほう! 生きていたか!」


「あの程度で、どうにかなる私ではない」


桜花は岩柱が噴出してきた瞬間。咄嗟に木刀を前に出して後ろに跳び、ダメージを最小限にしたのだ。


「いいぞいいぞ! 俺を楽しませろ! <岩石峰>!」


桜花が立つ地面が盛り上がり、天に向かって伸びる。反射的に避けるが、次々と盛り上がる地面に桜花は防戦に回る。


「<岩石装>!」


桜花が突き上げてくる地面に手を焼いている内に、ラルヴァは周囲の岩石を集めて凶悪な鎧を身に付けていた。


「くらえ! <岩石突>!」


アメリカンフットボールのような防具に身を包み、桜花目掛けてタックルを仕掛けてくる。

早い。

だが避けられないような攻撃ではない。

その時になって、桜花は気が付いた。盛り上った地面が退路を塞いでいることに。


「おわりだぁ!」


ラルヴァの巨体が桜花に激突する。しかし手応えが無い。


「なにぃ!?」


ラルヴァは驚愕に目を見開いた。渾身の体当たりを、桜花は両手で防いでいたのだ。

ラルヴァの攻撃を避けられないと判断した桜花は木刀を納い、A級スキル<大地人>を最大限に発動して受け止めたのだ。


「ぐうう! そんな細い腕に、何故これほどまでの力が!?」


「貴様、地属性のスキルを多く扱えるようだな」


「おうよ! 大地は俺の手足のようなものだ!」


「扱い方が雑すぎる」


桜花はラルヴァを抱え上げると、投げ飛ばした。


「ぬおお!?」


「地属性スキルの真髄は“強化”だ。貴様のように肉体の強度に頼り、いたずらにブッ放すものではない」


「ならば、これでどうだ!? <岩石装>!」


ラルヴァは更に岩を自身の身体に集め、一個の丸くて巨大な岩へと姿を変えた。


「くたばれ! 必殺<岩石大玉転>!」


巨大な球状の大岩が桜花に迫る。しかし桜花は冷静だった。


「母なる大地を友とし、その力を引き出すことこそが地属性スキルの真髄。

 <大地人>発動」


桜花の立つ地面が陥没する。そして静かに構えをとった。


「死ねぇぇぇぇぇ!!」


「奥義<地撃裂断剣>」


黒い木刀が黄色い光を放つ。光を纏った木刀を桜花が振るうと、光は閃光となり、大きなうねりとなってラルヴァを包んだ。


「な、なんだ!?」


周囲を覆う岩すらも吹き飛ばし、光の奔流がラルヴァの纏う岩を粉々にしていく。

そして起こる爆発。それは巨石の弾丸と化したラルヴァを弾き飛ばした。


光が収まった後に立っていたのは、桜花だけだった。


「い、いまのが地属性スキルの真髄、か?」


地に伏したラルヴァは何とか顔を上げて言った。


「そうだ」


「斬撃ですらないだろう。でたらめな、やつ、め・・・」


最後の言葉を発して気を失う。そんなラルヴァを冷めた目で一瞥した後、桜花は敵陣に残っていた魔族たちに投降を呼び掛けた。




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