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76 族長VSクイーン部隊

各族長たちは森の中でクイーン部隊と対峙していた。森の中は異様なほど静まり返っている。鳥の鳴き声すら聞こえない。

みな、これから始まる戦いに、ひっそりと息を殺しているようだった。


クイーン部隊の中から一体が出てくる。表情が無いため行動を読み辛いが、おそらく偵察のための一体だろう。それは族長たちにとっても、都合の良い展開だった。


「先ずは様子見というわけか」


「誰が出ます?」


「某が出よう」


魚人族の族長、魚正宗が一歩前に出る。


「魚人族の長よ。抜け駆けか?」


「様子見の先陣ということであれば、某が適任であろう」


手にした三ツ又の槍をドンと地面に打ち鳴らし、魚正宗はウルフェンの問いに応える。

魚人族は良くも悪くも万能型だ。どこかの技能が飛び抜けているというわけではない。しかし防御面では盾を装備した唯一の種族であり、その守りは固い。確かにクイーンの技量を確認する上では申し分ないだろう。


「それに、あのクイーン」


魚正宗はクイーンたちの奥に立つ、明らかに他のクイーンとは違うオーラを纏ったクイーンに目を向けた。

他のクイーンは純度こそ高いようだが、他の魔導人形と同じく白濁のレッサーメタル製である。しかし、そのクイーンのボディは銀色に輝いていた。

おそらくはミスリル製。

ランクで言えばAクラスの上位に位置するかもしれない。それであれば、こちらでまともに戦えるのはキングぐらいだろう。彼の消耗は避けなければならない。


「面倒な役割をかって出てもらって、申し訳ないですね~」


「早い男は嫌われるぜ?」


ミーズとカイザーは異論ないらしい。


「魚正宗殿」


そこへ妖狐族の白葉が声をかける。


「心配無用。さっさと片付けてくる」


ハッシュベルトに唆され、原初の大森林を混乱に陥れた罪を、この若い狐が一人で背負っていることを魚正宗は知っている。猿武族のカイザーにも少しは見習ってほしいものである。


クイーンの前に立ち、槍と盾を構える。彼の槍はダイチから与えられたものではない。半魚族に先祖から代々族長に与えられる魔槍<大海原の三ツ又>である。


「某の名は魚正宗。ダイチ様の家臣にして、魚人族の長。推して参る!」


その言葉と同時、クイーンの身に付けたローブがふわりと舞う。魔導人形である彼らは、装備している武具も身体の一部である。故にそのローブも魔鉱石でできているはずだが、重みは感じられない。

そして白く美しい四肢が顕になり、見えたのは鉤爪のような手だった。


疾!


音もなくクイーンが魚正宗に向かって駆け出す。その早さは獣のそれだった。


(だが、この程度の速さならばシャドーウルフと変わらぬ!)


「<三段突>!」


向かいくるクイーンに向かい、魚正宗は槍のA級スキル<三段突>を放つ。交差する瞬間に直撃するかと思われたその一撃は、寸でのところで躱さされる。


「なにぃ!?」


魚正宗は目を見張った。

クイーンが直角に曲がり、槍を避けたからだ。生物の構造を無視したその動きに、魚正宗の対応が遅れる。そのままやはり直角に方向を変えて向かってくるクイーン。その腕が一閃する。

紙一重でその一撃を回避した魚正宗だったが、堅いはずの鱗が割れ、肩がパックリと裂けていた。


「ぬううっ!」


クイーンの接近を許した魚正宗は、四方八方から嵐のような攻撃を仕掛けられた。何とか盾で防ぐ。

槍は中距離からの攻撃に優れているが、接近戦では扱いにくい。それを理解しているのかは不明だが、クイーンは槍の間合いから内側を動き回っていた。


(これは、<天馬>か!?)


クイーンの猛攻を捌きながら、魚正宗は舌を巻いた。


A級スキル<天馬>は中空に足場をつくり、上へ上へと駆け上がるスキルだ。上空の敵に対抗する一般的なスキルであり、上級者になれば城壁すら飛び越える。

故にダイチが<天馬>を駆使し立体的な動きで縦横無尽に攻撃を仕掛ける姿を見たときは、純粋に驚いた。

初見ではなく、また猿武族の変則的な動きを訓練で体感していたからこそ、魚正宗には対応できたのだ。


「ぬうん! <大車輪>!」


そして接近戦の切り札ならば、槍使いが備えていないわけがない。タイミングを計り、間隙を縫ってA級スキル<大車輪>を発動させる。

振り回された槍によって発生した竜巻がクイーンを弾き飛ばす。


「かあっ!」


間髪を入れずに槍で突きを放つ魚正宗。しかし、それは真横に跳んだクイーンにまたしても避けられてしまう。

クイーンは槍が引かれるよりも早く動いて死角を取る。そして鉤爪を一閃させようとして、それが出来ないことに気が付いた。見れば自分の腹に三ツ又の槍が深々と突き刺さっている。


―――何故?


魔導人形が言葉を発せていたならば、そう呟いたことだろう。

魚正宗が放ったのはA級スキル<幻槍>である。言わば殺気のこもった実態のない幻の攻撃。そうとは知らず、クイーンは死角を突いたつもりで逆にカウンターをとられたのだ。


「<大海の渦>よ、絡め取れ!」


槍から湧き出た海水が渦となり、クイーンを捕らえる。これこそが魔槍<大海原の三ツ又>の固有スキル<大海の渦>である。


魔剣や魔槍とは、魔力が込められた武器である。炎の剣ならば業火を発し、風の斧ならば旋風を巻き起こす。

魚正宗の持つ魔槍<大海原の三ツ又>は水を操る力を秘めているのだ。魔剣や魔槍の真価は武器に記憶されている<スキル>を発動できるかによる。魚正宗の発動したスキルは、正しく<大海原の三ツ又>が有する固有スキル<大海の渦>だった。半魚族だった時には発動できなかったものだ。

その効果は圧倒的な水量の海水が大渦となって敵を捕らえ、粉砕するという破壊的なものだ。しかし魚正宗は魔力を操作して威力を調整し、クイーンが逃げ出せない、しかし破壊されない程度の威力に抑えていた。


ダイチからは魔導人形を殲滅するのではなく、七割ほど残すという方針を受けている。しかし、この中にクイーンは含まれていない。

その理由が自分達を案じてのことであることは明白だった。殺すつもりで戦うのと、そうでない状況で戦うのとでは天と地ほどに差がある。だからダイチは「クイーンをできるだけ破壊するな」と命じなかった。それだけ族長たちの危険が増すからである。

しかし対帝国の防衛力という点ではクイーンの存在は欠かせない。だからこそ、万能型で捕縛に適したスキルを持つ魚正宗が先陣をきったのである。


そんな事情があり、<大海の渦>によりクイーンを捕らえた魚正宗は、ほっと一息をついた。それが致命的な隙になると思わずに。


「魚正宗殿!」


サーベルトの大声が響き渡った。その声を聞き、魚正宗は自分が戦場で油断してしまったことに気が付く。

二体のクイーンが眼前に迫っていた。その手が煌めき、鋭利な鉤爪が急所を貫かんとする。魚正宗は覚悟を決めた。



ガギン!



キュゴゴゴゴ!



クイーンの鉤爪が弾かれ、もう一体が吹き飛ばされる。


「戦闘中に気を抜くとは、修行が足りないな」


「ウルフェン殿か。助かった」


ウルフェンはフッと笑うと、そのままクイーンの鉤爪を短刀で押し返した。そして凄まじいスピードでクイーンと戦闘を開始した。

魚正宗はそれを見届けると、後ろに向かって声をかける。


「白葉殿も助かった」


「ご無事で何よりです」


レックスの放った魔法は【フレイムランサー】だ。しかし、その威力は四尾の多尾狐だった頃とは比較にならない。


「一騎討ちに水を差すとは、無粋ですね~」


「おうおう。乱交するなら、俺も混ぜろや」


ミーズとカイザーがリザドの両脇に立った。それは彼を守るようであったが、二人から痛いほどの怒気を感じる。


「小賢しい人形どもめ。我らの友を卑劣な罠に掛けよって。許さんぞ!」


後ろから三人の前に出たサーベルトが咆哮を上げる。すると空から雷撃がクイーンたちに降り注いだ。A級スキル<天雷>である。


クイーンたちは素早く雷撃を避けるが、【フレイムランサー】の直撃を受けて機動力を失ったクイーンは、その雷をまともに受けて機能を停止した。


「あらあら。先ずは一体目ですね~」


「ズリーぞ、雷野郎!」


それを合図にミーズとカイザーが戦場に躍り出る。


「魚正宗殿は、ここでそのクイーンを抑えておいてくれ」


そう言葉をかけると、白葉はリザドの前に立ち、魔力を高めていった。おそらく彼を守ろうとしているのだろう。


「かたじけない」


「気にしないでくれ」


二人は乱戦の様相を呈してきた戦場に目を向けた。



時を同じくして、クイーンたちの最奥で控えていたミスリル製のクイーンは、静かに敵と対峙していた。


「さっきのは、お前さんの作戦か?」


肩に巨大な曲刀を抱え、王牙が問い掛ける。


「お前さんが、この部隊のリーダーであろう。ひょっとして、話せるのではないか?」


はあ、とクイーンが溜め息をこぼす。


「よく分かりましたね?」


「まあ、勘だ。無機質な人形の目ではないからな。お前さんの目は」


「そうですか」


「なめたことしてくれたな」


王牙の魔力が上がっていく。


「人形なんだろうが、ひょっとして名前を持っているんじゃないか? 名乗れ」


「ええ。<ミスティ>。それが我が主人、ロンダーク様とジース様から与えられた御名」


「そうか。我の名は王牙。鬼人族の族長だ」


王牙が曲刀を構える。

それに呼応するかのように、ミスティの魔力も膨張していく。

二人の魔力が弾け合い、そして爆ぜた。




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