65 フォレストピア
「この度の働き、実に大儀であった」
エリザベート王女の<永眠>を解除した翌日、俺達は国王の私室に招かれていた。
「お加減は、いかがですか?」
「かなり良い。少し若返った気分じゃ。これでまた、旨い酒が呑めるというものよ」
「ほどほどにしないと、また病気になりますよ」
「ぬう。少しは自重するつもりじゃよ?」
言ってゲラゲラと笑う年輩の男性。
俺たちが話している相手は、この国の国王様。リンドバーグ=エスペランサその人である。
体調不良で王位を王女様に継承させようとしているとのことだったが、いま見る限りでは健康体そのものである。
実は、国王は肝臓の病気を患っていた。ステータス上は<病気>としか表示されず、何の病気かまでは分かっていなかったらしい。
この世界には魔法やスキルなんて便利なものがあるせいで、医学の発達が非常に遅れている。ちょっとした怪我や風邪ぐらいなら、ポーションや回復魔法で治るからだ。
医学や薬学はあるらしいが、基本的にポーションを飲んでいれば抵抗力が増し、時間は掛かるが大抵の病気は治る。栄養ドリンクで病気を治しているようなものだが、薬は高いので庶民には手が出せないそうだ。
そうなると症例は貴族や王族らに限られてしまうので、結果的に医学や薬学は発達しなかったということになってしまっている。そんなわけで、国王に処方されていたのも薬効成分の高いポーションというものだった。
俺はそんな状態を見るに見かねて、<回復の泉>に興味を持った国王に、「国王様もいかがですか?」と進言したのだ。
「良いのか?」
と、向こうも乗り気になったので、面倒臭がるアクアを説得して<回復の泉>を受けてもらった。
結果として国王の病気は治った。
医学的なことは分からないが、<回復の泉>は別に病気に対して完全に有効というわけではないらしい。今回はたまたま症状に合った、ということなのだろう。
しかし王女が目覚め、国王の病気も治って王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
そこで明日、落ち着いて話をしたいということになり、その日は王都の宿に泊まることになった。で、使いの者に王の私室へ案内され、今に至るというわけである。
「さて、ダイチ殿。先ずは礼を述べさせていただこう。
ワシの病を治してもらったこともそうだが、エリザベートの<永眠>を解除してくれたそなたの働き、感謝に絶えん」
そう言って、国王は深々と頭を下げた。
「こ、国王陛下!? このような者に頭を下げるなど・・・」
「ハンス。誰であろうと恩人には頭を垂れるのが人としての基本。
王族とて人間だということを忘れてはならぬ」
「はっ! 出すぎた真似を致しました!」
ちなみに、いま部屋の中にいるのは俺と桜花。国王とエリザベート王女、ギルバート王子とハンス、そしてメルディさんだ。
桜花は俺の護衛らしい。次の順番は自分だと言って聞かなかった。
「して、此度の働きに対する報酬についてじゃが、お主個人に対しては金貨千枚を与えようと思う。異論ないか?」
「ええ、それで十分です」
金貨一枚でだいたい10万円ぐらいの価値になる。つまり一億万円ぐらいの報酬だ。
わお。
「ワシとしては爵位を与えることも、やぶさかでは無いのだがな」
「それについては、お断りします」
「やはりか」
貴族になりたいわけではないので、これは脚下だ。
「では他に何を望む?」
「エスペランサ王国と、俺たちの住む都市、<フォレストピア>との通商許可をいただきたいです。
あと都市計画や整備に詳しい技術者を何名か貸していただきたいです」
「ギルバートから報告は受けていたが、原初の大森林に半妖種の国ができるとはな。う~む」
「そのことですが、<フォレストピア>は国ではありませんよ」
「なに?」
ちなみに<フォレストピア>とは、俺たちがつくろうとしている都市の名前だ。名前は俺が付けた。便宜上、都市に名前は必要である。
キングたちはルシフェルアークではないのかと言ってきたが、それだと魔王のイメージが強すぎる。<フォレストピア>とは『森にある都市』という意味を込めているし、ルシフェルアークとは別物ですよ、という宣言でもあるのだ。
「<フォレストピア>の人口は約5万人程度です。国を名乗るには人口が少なすぎるでしょう?」
「確かに、な」
「加えて、原初の大森林は何処の国にも属さない土地です。そんな場所に国を建てたりしたら、さすがに各国から何を言われるか分かりません」
難癖をつける連中は必ずいるだろうが、今の段階で大々的に国を名乗り、相手を刺激することはない。
「<フォレストピア>は原初の大森林にできた自由都市。それが落としどころかと」
「ふむ。やや強引ではあるが、そういうことならば通商を開始しても良かろう。
お主が交渉の窓口に立つのか?」
「それについては、<フォレストピア>の代表者が参ります」
「ならば、こちらも準備をさせよう。都市計画や整備についての技術者についても、こちらで人選して送り出そう。エリザベート、頼めるか?」
「はい。わたくしに、お任せください」
「あとは、なにかあるか?」
「そうですね・・・できれば武器と防具の開発ができる鍛冶師を紹介していただけると助かります」
「鍛冶師とな?」
「ええ。おそらく魔族が攻めてくると思うので、その対策に」
「む。魔族が軍備を整え、帝国が国境の守りを固めていると言う報告は聞いているが、まさか原初の大森林に攻め入ろうといているとはな」
「いかがですか?」
「ぬう。すまぬが、これについては協力できそうにない」
おっと、断られてしまった。
「理由を伺っても?」
「武器や防具の開発は国防に関わることです。
その技術者を派遣したとなれば、軍事同盟に相当します。
エスペランサ王国はリーザニア連合に所属していますから、さすがに勝手なマネはできません」
答えたのはエリザベート王女だった。
「なるほど」
「市井の鍛冶師をスカウトするのも一つの手じゃが、これは暗黙の了解として禁止されておる。やはり軍事に関わることじゃからな」
「加えて言うと、エスペランサ王国は原初の大森林に近いこともあって、鍛冶師の需要が高い。安定して仕事ができる場所を引き払ってまで原初の大森林に行くような鍛冶師はいないだろうな」
ギルバート王子からも忠告が入る。思っていたより難儀そうだな。
「ただ、隣国のバルデビア大公国なら確保できるかもしれないぞ」
「なるほど、その手があるか」
「どういうことです?」
「鍛冶職人にはドワーフ族が多い。彼らは火と土の属性に親和性が高く、見た目に似合わず手先が器用だからな」
やっぱりな~。鍛冶と言えばドワーフだよな!
「だが大陸の東に行けば行くほど人族至上主義の風潮が強くて、亜人種への差別が根強い。奴隷も亜人種が多いと聞くから、最悪元鍛冶職人のドワーフが見つかるかもしれないし、スカウトもしやすいだろう」
なるほど。
大陸の東と言えばブリトニア王国がある。あそこは異世界人ですら奴隷扱いする国だし、そういった影響を受けているのかもしれない。
バルデビア大公国は位置的にブリトニア王国の隣にある。
う~ん。ブリトニア王国に近付くのは少し抵抗があるが、仕方ないか。
「ありがとう。そっちを当たってみるよ」
「すまんな。だがそれ以外の人材については、期待してもらっていい」
「いえ、こちらも無理を言ってすいませんでした」
その後、俺達は少し雑談をしてから、部屋を出ていった。次の目的地はバルデビア大公国だが、その前にノーランド商会のホフマンさんとナーシャに呼ばれている。
<フォレストピア>の代表としてエルゼフや王牙も呼ばないといけないし、忙しくなりそうである。




