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64 王女の治療

俺たちはギルバート王子から正式に依頼を受け、そのまま王城に向かうこととなった。

馬車で約二日の道のりである。その間にギルバート王子は城に早馬を送り、自身が王女の治療のため登城することを伝えている。


この旅路だが、バナスさんの好意でクエスト扱いになった。名目はギルバート王子の護衛。Dランク相当の依頼ということで、王子を城まで送り届ければ依頼は達成ということになっている。

そもそもギルバート王子の登城目的が、俺たちを城に招き入れて王女の治療をさせることである。しかもギルバート王子はAクラスの冒険者で、護衛が必要とは思えない。

バルカスたちの件に関しての謝罪を含めて、ギルド長のバナスさんが便宜を図ってくれたのだ。

ちなみに、この依頼が達成されると、俺たちはEランクからDランクの冒険者になる予定だ。


さしたるトラブルもなく、俺たちはエスペランサ王国の首都であるエスペランサ・シティに到着。そのまま王城に入った。

そしてギルバート王子の案内で、エリザベート王女の寝室へと向かう。

普通は王様への謁見とかあるはずだが、「そんな面倒はしていられない」とギルバート王子が言っていた。なるほど、彼が王族に向かないことが良く分かった。

一直線に王女の寝室の前まで来ると、彼はノックもせずに部屋に入る。


「邪魔するぞ」


いや、アンタ本当に王子様なのか?


「ギルバート王子?」


「なんですか、突然!?」


部屋の中にはスーツ姿の女性が一人と、騎士らしき男性が一人だった。中央には大きなベッドがあり、点滴が目に入る。


「姉貴を治療できる奴を連れてきた」


「まあ、その方たちが?」


「なんです? 私は聞いていませんよ!?」


スーツ姿の女性は物腰が柔らかく、こちらに対して好意的だ。

対して騎士の男は余裕がなく、かなり威圧的だ。


「ギルバート様からの手紙で、エリザベート様を治療できるかもしれない特殊なスキルを持つ者たちを連れていくと知らせを受けていました」


「だから私は聞いておりません!」


「あなたに話すと、ギャーギャーうるさいので」


「私はエリザベート王女の筆頭護衛騎士ですよ!?」


「だからなんです?

 誰彼構わず威圧するのは、お止めなさいと前にも言いましたよね。仮にも王子の御前ですよ」


女性の射殺さんばかりの視線を受け、騎士が沈黙する。


「お見苦しいところを見せてしまい、申し訳ございません。王女付きのお世話係りをしておりますメルディと申します。あちらは護衛騎士のハンスです」


「ダイチです。こちらはアクア」


ちなみにアクア以外は城の外で待機してもらっている。大人数で押し掛けて刺激することは無いとギルバート王子が言っていたのは、ハンスという護衛騎士のことだったようだ。


「治療に必要なものはございますか? ご用意致しますが」


「あ、何も必要ありません。王女様に近付くことができれば」


「では、こちらへ」


そう言って俺たちをベッドまで案内しようとするメルディさん。できる女って感じだな。

しかし、


「止まれ」


その前をハンスが塞ぐ。彼は剣の柄に手をかけていた。


「エリザベート様に近付くな」


「ハンス、どきなさい。治療ができないでしょう」


「そんな連中がエリザベート様を治療などできるものか! 害を為すに決まっている!」


彼の言葉にメルディさんは目を細めた。


「王子が連れてきた方に無礼ですわね」


「何と言われようと、私は私の職務を全うする」


「では、あなたにエリザベート様を目覚めさせることができると?

 お伽噺のように、キスで目覚めさせますか?」


「破廉恥なことを言うな!」


「では、今のあなたに何ができるのです?

 王子がエリザベート様を救おうと手を尽くしている間、あなたは何かしましたか?

 点滴をしようとする薬師にまで威圧し、王から厳重注意を受けたことを忘れたとは言わせませんよ」


「ぐっ!?」


「あなたがあなたの仕事を全うしているように、王子も自分にできることをされているのです。それともあなたは、ギルバート様がエリザベート様に害を為さろうとしていると、本気で思っているのですか?」


「それは・・・」


「分かったなら、腰に下げたものから手を離しなさい。あなたの敵は、彼らではないはずです」


ハンスは肩を落とすと、道を空けた。


「・・・すまない。エリザベート様をよろしく頼む」


彼なりに、王女を本気で心配しているのだろう。

俺たちは王女の前に立った。金髪の長い髪をした綺麗な女性が静かに寝息を立てている。

肌の色は白く、しかし頬が痩けていて健康な状態とは言えそうにない。もう眠ったまま二月になるらしいので、栄養が足りていないのだろう。点滴だけでは限度がある。

チャーリー、どうだ?



Answer.

解析完了しました。

<永眠>のステータスを解除可能です。

解除しますか?



早ぇえな、おい!?



Answer.

この部屋に入った瞬間から解析を始めましたので。



あ、なるほど。

確か目で見える範囲なら解析できるんだったな。目の前に立つ必要は無かったわけだ。

じゃ、サクッと解除してくれ。



ALL Right.

ステータス<永眠>を解除しました。



王女から微かに呻き声が聞こえるのと同時に、黒い靄のようなものが立ち昇り、消えていった。


「なんだ、今のは!?」


ハンスがまたしても剣の柄に手をかけた。ギルバート王子もメルディさんも咄嗟に身構えている。

俺は彼らに微笑むと、「終わりました」と声をかけた。


「・・・は? もう終わったのか?」


「ええ」


「・・・ん」


『姫様!?』


王女が寝返りをしたことで、お付きの二人が一斉に駆け寄った。


「んん、ふあー」


大きく伸びをしながら、王女が起き上がる。


「あら、ハンスにメルディ。二人して、どうしたの?」


「エリザベート様、お身体に障りはございませんか?」


「いえ。そういえば、少し身体が重いわね。

 けれど目覚めは良いわね。少し寝不足気味だったはずだけれど、気分は悪くないわ」


「そりゃあ2ヶ月近く眠っていたんだから、気分爽快だろうよ」


「あら、ギルじゃない。珍しい。でも2ヶ月近く眠っていたって、どういうこと?

 それにわたくし、どうして点滴をされているのかしら?」



ギルバート王子は王女に事の顛末を説明した。その間、ハンスはずっと泣いていた。


「<永眠>ね。恐ろしいスキルがあったものね」


王女は俺たちに視線を移した。


「あなた方がわたくしを助けて下さったのですね、ありがとう。

 エリザベート=エスペランサです。このような格好で、失礼致します」


「いえ、勿体ないお言葉です」


「お二人には、然るべくお礼をさせていただきますわ。

 ハンス、お父様にご報告を」


「御意にございます」


ハンスは泣き腫らした顔のまま退室していった。


「これから忙しくなるわね」


「その前に身体を動かせるよう回復しないとな」


「そうね。とりあえず、お腹が空いたわ」


「では、シェフに栄養価の高いスープを作らせましょう」


「ええ、お願い」


さすがに2ヶ月も飲まず食わずだったのだ。軽い食事でないと胃が受け付けないだろう。足の筋力も弱っているはずだ。回復には時間が掛かる。

ふむ。

もう少しぐらいサービスしとくか。王女様には早く回復してもらいたいし。幸い、うるさそうな奴はいなくなったことだし、な。


「僭越ながら申し上げます。王女様の回復に役立つスキルがございます」


俺が頭を垂れて進言すると、彼らは顔を見合わせた。


「回復に役立つスキルですって?」


「はい。衰弱した身体に栄養を与え、回復を促進できるスキルです。ただ、少し驚かれると思いますが」


王女は「う~ん」と言ってギルバート王子を見た。彼は静かに頷いた。


「この身体が少しでも快方に向かうならば、願ってもないことです。お願いできますか」


「御意。アクア、頼む」


「ダルい」


お前、王族の前だぞと心の中でツッコミを入れる。

アクアは気にした素振りもなくS級スキル<回復の泉>を発動した。


「きゃっ!?」


「エリザベート様!?」


王女の身体が緑色の液体に包まれると、メルディさんが動揺した声を上げる。

王女はそれを手で制した。


『この中でも息ができるのですね。何とも不思議な感覚ですが、とても心地好いです。

 力がみなぎってくるような感覚もありますね』


少し籠ったような声だが、あの中でも声を出すことはできるみたいだ。


「彼女のS級スキル<回復の泉>です。細胞に栄養を与え、代謝を促進することで身体状況を改善するスキルらしいです」


「よく分からないけど、弱くなった自分を元の健康な身体に戻すみたいな感じかしら」


「・・・そうですね」


理解されるとは思っていなかった。


「どれぐらい、かかりそうかしら?」


「だいたい三時間」


「ふふふ。心地好いから、また寝てしまいそうだわ」


「勘弁してくれよ」


王女の冗談にギルバート王子が笑う。メルディさんは、ただただ驚愕していた。


そこに、


コンコン


「ハンスです。国王陛下が面会に来られました」


全員が固まった。

ややあって入室したハンスの悲鳴に近い絶叫が寝室にこだましたのは言うまでもない。



最近、連絡事項をミスしてしまっています。ごめんなさい。

毎日0時に次話を更新しています。

よろしくお願いします。


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