56 ポイズンウルフの襲撃
森の出口、街道付近までライトニングタイガーに乗り、ゴブリン・インテリジェンスのレブンに案内をしてもらう。
「この街道を北に進めばタラゼアの町に辿り着きます」
「おう、ご苦労さん」
ライトニングタイガーから降り、彼らに労いの言葉を掛ける。
「本当に、町まで送らなくてもよろしいのですか?」
「ここから徒歩で一日ぐらいなんだろ? それなら何とかなるって」
「そうですか。この周辺には大したモンスターもおりませんが、お気をつけて」
「ああ。お前たちも気をつけてな」
「勿体ないお言葉です」
では、と言ってレブンとライトニングタイガーたちは走り去っていった。
「なあダイチ」
彼らを見送ると、タツマキが声を掛けてきた。
「町まで行くのに、ここから歩くのか? なんであの虎に乗って行かないんだ?」
ああ、そうか。タツマキには説明してなかったな。
「この辺りのモンスターはレベルがせいぜい30ぐらいが最高らしい。そんな場所をライトニングタイガーみたいなモンスターが走ってたら騒ぎになるだろ?」
「なら、ボクが<音速飛行>で運んでやろうか?」
タツマキはA級スキル<高速飛行>の上位スキル<音速飛行>を持っている。<高速飛行>ですら最近やっと慣れ始めた俺には未知の領域だ。
「この数を運べるのか?」
「あ~、ちょっと危ないかな。
でも二回ぐらいの往復で行けると思うよ。歩くより早いんじゃない?」
その手があったか。
「いや、やっぱり止めとこう。誰かに見つかって騒ぎになると面倒だ」
「そんなもんかなぁ」
「俺の国の言葉に『急がば回れ』ってのがある。歩くのも、たまには良いもんだぞ。健康とかに」
「なにジジイみたいなこと言ってんだよ」
とまあ、こんな会話をしながら街道を進んでいく。適度に整備されていて歩きやすく、天気も良いので中々快適だ。
そうやって陽が真上ぐらいに来たところで昼食をとる。昼は俺の世話係であるカーラが作ってくれたサンドイッチだ。けっこう美味い。
「・・・ん?」
そうやってのんびりしていると、俺たちが来た道の方から騒がしい音が聞こえてきた。桜花が立ち上がり、警戒する。
「チャーリー、何かあったのか?」
Answer.
後方1kmより、商隊と思われる一行をポイズンウルフの群れが襲撃しているようです。
俺の前にマップが表示される。
うわ。なんだよ、この数。
表示されたマップには、黒い●を取り囲んでいる百体以上の黄色い●だった。
Answer.
ポイズンウルフは群れで行動する修正がありますが、この数は異常ですね。
同じ狼タイプのモンスターなら牙狼族が思い出される。しかし、彼らでさえ有事でもなければこんな数で行動しないだろう。
しかしそうなると、商隊の人たちが心配だ。護衛はいるだろうが、こんな襲撃に耐えられるとは思えない。
Answer.
毒を受けている者も何名かいるようです。
早く言えよ!
「桜花、アクア、紅葉、タツマキ!」
俺は四人に声を掛けると、全速力で飛び出した。もちろん四人は付いてくる。
数分もしない内にポイズンウルフの群れが見えてきた。既に馬車が襲われ始めている。
「タツマキは馬を守れ! 他は雑魚を片付けろ!」
四人に指示を出すと、返事を待たずに<短距離転移>を発動する。
ポイズンウルフの体当たりを受けて馬と馬車が転倒。転倒した馬車から少女が投げ出される。その少女に向かって、一匹のポイズンウルフが飛び掛かる。正にその瞬間だった。
「おらあっ!」
「!?」
少女の目の前に転移し、飛び掛かってきたポイズンウルフを殴り飛ばす。首があらぬ方向を向き、絶命した。
突然現れた俺に、周囲を囲むポイズンウルフの群れに動揺が走る。その隙を見逃すはずもない。
「シッ!」
A級スキル<韋駄天>を全開にし、動きの止まっているポイズンウルフたちを次々にブッ飛ばす。
「チャーリー!」
Answer.
魔法構築完了。
ターゲットロックオン。
発動準備完了しました。
「【フレイムアロー】!」
俺は<力ある言葉>を叫び、魔法を発動した。発動した魔法【フレイムアロー】は初歩的な攻撃魔法だが、俺の魔力なら何十本という数を撃てる。
「ギャン!」
「ガウ!」
放たれた【フレイムアロー】は全て、正確にポイズンウルフを撃ち抜いた。俺の周囲を囲んでいたポイズンウルフは呆気なく全滅する。
「大丈夫か?」
安全を確認し、俺は少女に聞いた。少女と言っても、年齢は俺と変わらないぐらいに見える。肩まで伸びた栗色の可愛い少女だった。
彼女はポカンと俺を見ている。驚きで声が出せないのだろうか?
チャーリー、どうだ?
Answer.
馬車から投げ出された時の擦り傷は見られますが、骨折等はありません。
ステータス上は問題ないようです。
なら、ひとまず安心だな。俺は周囲を見渡した。
馬車の馬はタツマキが無事に守っていた。<瞬動>で馬に接近、竜巻を起こしてポイズンウルフを切り裂いている。
アクアは水の槍でポイズンウルフを貫き、桜花は木刀で殴り飛ばし、紅葉は俺と同じく【フレイムアロー】で討ち取っていた。
ポイズンウルフの群れはみるみる内に数を減らし、生き残った群れは逃走していく。残されたのは、おびただしい数の死体と、呆気にとられる冒険者らしき者たちだった。




