54 ＶＳ竜巻龍
「オオオオオッ！！」
小細工は無しだ。初めから全力で行く。
俺はＡ級スキル＜金剛＞＜韋駄天＞＜天馬＞を全開にした。
＜金剛＞は身体能力を向上させるスキル。＜韋駄天＞は瞬発力を、＜天馬＞は跳躍力を高めることができる。
利点は魔力を込めれば込めるだけ効果が上昇し、基本的なスキルなので扱いやすいこと。＜天馬＞には更に“空中で足場をつくる”という機能があり、空も跳べるし立体的な動きができるようになる。
これらの強化系スキルを瞬時に発動させた俺は、その直後にＡ級スキル＜短距離転移＞でタツマキの背後、死角になる位置に移動した。そのまま全力の蹴りを放つ。
―――とった。
そう思ったが、俺の蹴りはタツマキの左腕に阻まれていた。＜吹き飛ばし＞のスキルを乗せていたはずだが、タツマキの身体は全く動いていない。その不敵な笑みを浮かべる瞳が目に映った。
「っ！？」
瞬間、俺は蹴りを放った足に痛みを感じて飛び退いた。それを追ってくるタツマキ。
速い！
振りかぶった右の拳を避けられないと判断し、俺は両腕にＡ級スキル＜錬気甲＞を発動し、腕をクロスさせて防御の構えをとる。
タツマキはガードの上からでもお構い無く、強烈な一撃を叩き込んできた。
「ぐっ！？」
俺の身体が自分の意思とは反対に、大きく後ろに吹き飛んだ。
Ａ級スキル＜大地人＞を発動させていたはずなのに、こんなに飛ばされるのか！？
Ａ級スキル＜大地人＞は使用者の質量を増し、大地に根を張るスキルだ。これを発動させれば生半可な攻撃ではピクリとも動かすことは出来なくなる。要するに、その場での“踏ん張り”が効くので反撃に移りやすいのだ。難点は地面に立っていないと発動できないことだが、このスキルをもってしてもタツマキの一撃を防げなかった。
カイザーがブッ飛ばされるわけである。
弾かれたようにこちらに向かって追撃してくるタツマキ。相変わらず速い！
本来なら＜短距離転移＞で距離をとりたいところだが、＜短距離転移＞は一度発動すると、しばらく使えなくなるという欠点がある。便利なスキルで奇襲にはもってこいだが、タツマキには通用しなかった。
「ちいっ！」
俺は空中で体勢を整えると、発動している＜天馬＞で足場を作り、タツマキを迎撃する。
立体的な動きで跳弾のように四方八方から攻撃を仕掛けるが、全て防がれる。しかも何故か、攻撃する度に俺に小さな痛みが走るのだ。
ＣＡＵＴＩＯＮ！
Ａ級スキル＜旋風拳＞です。
チャーリーがそのタネを明かしてくれる。
Ａ級スキル＜旋風拳＞は腕や脚に小さな竜巻を発動させるスキルらしい。攻撃するときは回転の加わった痛烈な一撃が、防御するときは高い防御力を誇り、なおかつ攻撃してきた相手を竜巻が傷付ける。攻防一体の厄介なスキルだ。
しかも―――
「くっ！？」
俺はまたしてもタツマキの姿を見失った。タツマキはＡ級スキル＜瞬動＞を発動し、目に見えない速度で死角から攻撃を仕掛けてくる。
＜瞬動＞は＜韋駄天＞と＜天馬＞の上位スキルで、その名の通り瞬時に移動することのできるスキルだ。俺は＜第六感＞のスキルで死角からの攻撃を防いでいるが、＜旋風拳＞のダメージを防ぐことができずにいる。
俺の戦闘スタイルは素早い動きや奇襲で相手を撹乱し、必殺の一撃を叩き込んでいくのが基本だ。しかしタツマキは俺よりも速く、そして攻撃力も高い。＜短距離転移＞やチート級の魔力で強化した＜金剛＞＜韋駄天＞＜天馬＞で対抗しているが、押されているのは明白だった。
「いいね！ すごく楽しいよ！」
しかもタツマキには余裕がある。近接戦闘の殴り合いでは分が悪い。
ならば、どうするか？
頭を使うのである。
王牙、お前のスキルを使わせてもらう！
「シッ！」
＜短距離転移＞で距離を取った俺に、すかさずタツマキが＜瞬動＞で肉薄してくる。
「オオオオオッ！！」
俺は構わず、地面に腕を叩き込んだ。地面が隆起し、尖った大地の槍がタツマキを襲う。
王牙からコピーした攻撃用のＡ級スキル＜地爆撃＞である。
「なんの！」
タツマキは上手く回避すると、大地の槍が届かない場所、つまり頭上から攻撃を仕掛けてきた。
俺がいつぞややった＜地爆撃＞の正しい攻略方法である。しかし王牙と違うのは、俺がその動きを誘ったことである。
「＜閃光拳＞！」
「！？」
タツマキの顔から笑みが消え、＜閃光拳＞の波動をまともに受けた。戦闘開始から、初めてのクリーンヒットである。
タツマキが後方に飛ばされ、無防備になる。
「おらああああああ！」
その隙を見逃すはずもない。俺はタツマキに飛び掛かると、Ａ級スキル＜爆裂拳＞を発動する。＜旋風拳＞を纏った両腕ででガードするタツマキ。
殴り続けた俺の拳から血が飛び散るが、＜爆裂拳＞により＜旋風拳＞の強度が薄くなった。いける！
「はあっ！」
止めとばかりに＜閃光拳＞の派生スキル＜閃光脚＞で強烈な蹴りをお見舞いしてやった。
＜旋風拳＞のガードを破り、タツマキが吹き飛んでいく。有効打にはなっているが、決定打の一撃とは言えない。
まだか！
俺は魔力を高めた。
同時に、タツマキが大きく息を吸い込むのが見えた。
ＷＡＲＮＩＮＧ！
ブレスです！
上等！
俺は両手に収束させた破壊エネルギーを解き放つ！
「＜閃光砲＞！」
「＜王龍の吐息＞！！」
大規模破壊のスキルがぶつかり合い、爆ぜた。
