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51 三島順平の奔走

亜久通高校の面々が異世界に飛ばされ、1ヶ月が経過しようとしていた。その間、彼らはプリトニア城内での訓練に追われていた。

衣食住の心配は無かったが、訓練付けの日々は彼らにとって辛いものだった。娯楽に溢れ、学校生活という青春を過ごしていた彼らからすれば、いきなり軍隊に放り込まれたようなものである。ストレスを溜めるなという方が無理だろう。


そんな中、三島順平は精神的に不安定なクラスメイトたちを何とかまとめ上げていた。ホームシックに駆られる者を励まし、訓練を嫌がる者たちにはその必要性を説いて回った。

また王国側と交渉し、待遇の改善にも一役かった。彼らの生活形式とブリトニアの生活形式は、あまりにも違いすぎた。それは入浴や食事、価値観に至るまで幅広く、粘り強い交渉が必要だった。


代表的な成果は休日の導入だ。一週間という曜日の概念が無かったために苦労したが、7日に一度は訓練を休み身体を休める一日を勝ち取った。訓練漬けで町に出ることは許されていないが、将棋やチェスといったボードゲーム、トランプやUNOといったカードゲームなら、素材さえあれば簡単に再現できた。特にトランプはブリトニア王国の兵士たちにも人気があり、流行している。主に賭け事としてだったが。

その甲斐あって、亜久通高校の面々は異世界の生活に慣れ始めていた。訓練は厳しいが、アークノギアの人間と異世界人である順平たちはスペックがまるで違ったのである。結果、1ヶ月足らずで彼らは魔力の扱いを覚え、ブリトニアの一般兵たちを圧倒して見せた。一条冴などは、兵士を訓練する側に回っている。異世界に来ても、家とやることが変わらないと愚痴をこぼしていた。


そうして自分たちの生活基盤を着々と整えることに三島は奔走した。委員長の木内知子からは、ちゃんと睡眠をとるよう釘を刺されるほどに。

そんな三島は、恒例となったゲルオグ将軍との面談を終え、難しい顔をして彼らが住む通称<異世界人宿舎>の廊下を歩いていた。


「三島じゃないか。どうしたんだい、難しい顔をして」


不意に声をかけられ、順平は顔を上げた。肩にタオルのような布をかけた一条冴と、草壁護が自分を見ていた。


「一条に草壁か。今日も訓練か?」


今日は休日となっているが、二人は午前中に軽い訓練に参加していることが多い。運動や武術が前の世界でも身近だった二人にとって、身体を軽く動かすのは気分転換になるらしい。

草壁護は亜久通高校で柔道部に所属していた。両親が警察官らしく、幼い頃から習っていたとのことだ。身長190cm、体重90kgの巨漢で、頭は角刈り。絵に描いたような柔道家である。しかし瞳はつぶらで、彼が乱暴な男でないことを物語っている。大地は彼のことを「草壁は男っていうより、漢って感じだよな」と訳のわからないことを言っていた。


対する一条冴は身長175cmと女子にしては身長が高く、髪型もベリーショートで一見すると美少年に見えなくもない。実家は代々<飛燕流剣術>というものを受け継いでいる道場で、彼女もまた幼い頃から剣術のイロハを叩き込まれて育ったらしい。

ちなみに“剣術”であって“剣道”ではない。スポーツに分類される剣道と違い、飛燕流剣術は実戦に重きをおいている。分類としては護身術に位置付けられるらしい。

実は順平も中学に入学するまでは一条の道場に通っていた。彼がサッカーを部活動として始めたのは中学からだ。本人いわく、内申点を稼ぐために部活動を優先させたとのことだった。余談だが、大地は一条がポニーテールでないことを悔やんでいた。あいつの思考は、どこまで行ってもマンガだったなと順平は思う。


「訓練の様子は、どうだ?」


「あたしからすると、実家でやっていたことと大差ないね。スキルってのは便利だけど、この世界の人間はそれに頼りすぎだと思うよ」


「そんなことを言うのは、お前ぐらいだろ」


「話をはぐらかしたね。何を悩んでいるんだい?」


順平は驚いて冴を見た。冴は笑顔を浮かべている。


「アンタがウチの道場に来たのは5才の時だったね。それ以来の付き合いだ、何かで悩んでいるのは一目で分かるよ」


冴は笑みを崩さない。


「・・・俺は、そんな顔をしていたか?」


「ああ」


「三島」


二人の会話に草壁が割り込んだ。


「お前は一人で抱え込みすぎだ。もっと俺たちを頼れ」


草壁は無口な男だった。しかしデカイ図体とは裏腹に、細やかな気配りのできる男だ。彼も順平のことを心配しているのだろう。


「・・・分かった。今、時間は空いてるか?」


二人は頷いた。


「なら、俺の部屋に行こう」


「知子を呼んでもいいかい? アンタのこと心配してたからさ」


「ああ、頼む」


冴は知子に声をかけるべく、走り去っていった。




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