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27 オーガ姫の闘い

私は一族の秘剣を抱え、霊峰に向かって真っ直ぐに進んでいた。森の木々など、我らにとって障害でも何でもない。

易々と飛び越え、霊峰との距離を縮めていく。

空を縄張りとする魔物ですら、私が本気を出せば追い付くことは難しいだろう。

それ以前に、オーガに手を出そうとする魔物など竜種を除けば皆無と言っていい。我らは進んで争いをしないが、戦いとなれば手を抜くことなどあり得ないのだ。


しかし、今日は何とも不思議な日だ。


父が暴走し、一族が壊滅しかかった時は流石に焦りもしたが、今は落ち着いた気分だ。

特に、あのダイチというニンゲンには驚かされた。


あの数の半妖種やサーベルタイガーを従えているだけでも驚きだというのに、オーガを前にしても動じる気配すらない。

あのポーションにも驚かされたが、最も目を見張ったのは、あの精霊だ。

始めこそ気配を絶っていたため気にもしなかったが、ハッシュベルトの話が出て殺気を剥き出しにした時。奴もまた殺気を隠さなかった。

その時に感じた限り、我ら四人に匹敵する力を持っていると確信した。


そんな猛者をも従えるニンゲン。

インテリジェンス・モンスターであるサーベルタイガーたちが従っているのも頷ける。

本来ならば<堕天の魔王>に捧げるべき忠誠を彼らが放棄した点については、私にも思うところはある。

だが真に仕える主は己で探すものだ。確かに<堕天の魔王>への忠義は大切だが、自身が認めた主に従うのは自由だろう。

もっとも、それがハッシュベルトのような魔族であれば、話は変わっていたところだが。


あのニンゲンがどれだけ強いのか図るため、村までの移動を全力で行った。

あの男―――ダイチは、余裕すら持って着いて来た。オーガの精鋭である付き人の三人ですら、追いかけるのがやっとだというのに。少なくとも、虎の威を借る狐ではないということだ。


(生きて帰ることができれば、ぜひ手合わせしてみたいものだ)


自分を越えるものなど、父以外では里に居なかった。

久々に出会った強敵に後ろ髪を引かれる思いはあるが、父を放置することは出来ない。



霊峰シルバーでピークの麓に差し掛かった。

そこに父は居た。

雄叫びを上げ、向かってきた地竜を叩き潰したところだった。

周囲には亡骸となった地竜が三体も倒れている。


流石は神龍王が住むとされる霊峰。この大森林で最も遭遇する確率の高いとはいえ、麓で四体もの地竜に遭遇するとは。

彼らの姿が近い未来の自分達を写しているようで、少し寒気を感じた。

この程度で呑まれるな。

父の教えを思い出すのだ。


「父上!」


私は叫んだ。

父が振り返る。

その顔が少し歪んだような気がした。


「お命、頂戴する!」


「グオオオオオ!!!」


叩き潰した地竜を蹴り飛ばし、父が―――いやキング・オーガが威圧を込めた咆哮を放つ。

大地が震え、目に見えない衝撃が来るが、無視する。


「散開!」


私についてきた三人が散り、キング・オーガの気を反らす。

彼らは里でも指折りの使い手。そうそう遅れはとらないはずだ。

その隙に私はキング・オーガに肉薄すると、全力を込めて剣を振るった。


轟!


圧倒的な熱が解放され、キング・オーガを炎が包む。

この大剣は三百年前に魔法を苦手とするオーガに対し、当時の魔王が与えたものだと言われている。


全てを灰尽に帰す業火の炎。

手応えを感じた。

しかし荒れ狂う炎の中から太い腕が延びてきたかと思えば、一瞬で捕まり投げ飛ばされた。

霊峰の岩壁に身体が打ち付けられ、呼吸が止まる。

大剣を手放さなかったのは奇跡に近い。


「姫!」


「おのれ!」


付き人のオーガが私に駆け寄り、身体を起こしてくれる。

炎が収まると、そこには少しだけ身体を焦がしたキング・オーガが怒りの視線を向けていた。


効果がない?


いや、手応えはあった。


ダメージが無いなどということは考えられない。


「まだだ!」


私は駆け出した。

他のオーガたちも動いている。

しかしキング・オーガは私しか見ていなかった。三人のオーガの攻撃など蚊ほどにも効かない。そう言っているようだった。


「舐めるなあっ!」


私は豪腕を掻い潜り、再びキング・オーガに肉薄した。


「くらえっ!」


その首筋に、ありったけの一撃を叩き込んだ。

再び業火が炸裂する。

しかし、キング・オーガには傷ひとつ付かない。


「何故だ!?」


私は叫んでいた。

これだけの炎に焼かれているというのに、火傷の一つも付かない!


「かはっ!?」


『姫様!!』


こちらの動揺を見透かしたかのように、キング・オーガの一撃が私に直撃した。

再び吹き飛ばされ、為す術なく岩壁に叩きつけられる。ダメージで力が入らない。


「姫様をお守りしろ!」


付き人のオーガたちが前に出るが、キング・オーガが羽虫を払うように腕を軽く振るうだけで私の側まで吹き飛ばされてくる。

力の差は歴然だった。


「おのれ・・・!」


呪詛の言葉を吐くが、それは自身が敗者であることを認めるものだった。身体を動かそうにも、指先にすら力が入らない。

キング・オーガが我らに止めを刺すべく歩み寄ろうとしていた。


(ここまでか)


刺し違えてでも父を止めたかったが、これまでのようだ。

私が諦めようとした、その時、


「そんな戦い方じゃダメだろ」


聞き覚えのある声に、顔を上げた。いるはずない男が、そこには立っていた。


「・・・ダイチ殿?」


「よう。やっばりボロ負けだったな」


まるで道端で出会った友人にでも話しかけるようにダイチ殿の仕草は自然だった。

ここが戦場であることを疑ってしまうほどに。


「オーガってのは魔力解放が苦手だろ?

 この剣の魔力は高いが、お前らじゃ扱えないな。あんな炎は見た目が派手なだけで、圧縮されていないからダメージが通らないんだよ。

 炎属性の魔法はノックバックが一番強いけど、熱さをあまり感じてなかったんじゃないか?

 お前、魔力障壁も張ってないだろ」


なんだ?


彼は何を言っているんだ?


いや、言っている意味が理解できないというわけではない。

それを、いま言うべきことなのかという意味だ。

後ろを見れば、キング・オーガも戸惑っているのか動きを止めている。


「おい、聞いてるのか?」


その言葉で我に帰った。


「な、何をしているのだ!?」


「何って、ちょっとオーガのお姫様を助けようかと思ってな」


「なっ!?」


変わり者だとは思っていたが、ここまで来ると只の阿呆である。


「ふざけるな! 早く逃げろ!」


「いやあ。俺にも事情があって、アレをそのままにするわけにはいかないんだよな」


言って、ダイチ殿はキング・オーガに向かって歩き出した。


「ま、待て!」


「動かないで」


いつの間に立っていたのか?

我らの前に、あの精霊が立っていた。


「アクア、後ろを頼む」


「任せて」


精霊の魔力が高まるのが見えた。

目に見えるほどの濃密な魔力だと・・・?


「【ウォーターシールド】」


【力ある言葉】が紡がれ、魔法が具現化する。我らの前に、薄い水の膜のようなものが現れた。


「そこの精霊! あの阿呆を止めろ!」


「マスターは阿呆じゃない」


「なんでもいいから止めろ! 主人が死んでもいいのか!?」


「マスターは死なない。黙ってみてるといい」


そんなやり取りをしている間に、ダイチ殿はキング・オーガの目の前に立っていた。


「ガアアアアアアアアッ!!」


キング・オーガが怒りの拳を降り下ろす。

ダイチ殿がミンチになる未来を予想し、だからこそ驚きに目を見開いた。

屈強なオーガを紙切れのように吹き飛ばしてきた豪腕が受け止められていたのだ。

ニンゲンに。

しかも片腕で。


「こんなもんか?」


次の瞬間、父の―――キング・オーガの身体が後ろに吹き飛んだ。木々を薙ぎ倒し、大岩を砕いて、やっと止まる。

ダイチ殿が何をしたのか見えなかった。

だが突き出されたままの拳から、殴ったのだという予想はできた。

私は口を開けたまま、その光景から目を離せないでいた。


H28.7.26

前話までの内容に合わせて修正しました。

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