15 魔剣具象
俺は走っていた。目的地に向かって最短距離を爆走していた。障害となるはずの木々も気にならない。何を避け、どうやって動けばいいのか、まるで上空から見ているように分かった。
これがS級スキル<鷹の目>の効果だ。更にA級スキル<金剛><韋駄天><天馬><隼>を使用し、極限まで『速さ』を高めている。
それでも目的の場所まで、時間が少しだけ足りない。先に赤●であるタイラント・ドラゴンが緑●のリンに接触する。
(耐えてくれ!)
こればかりはリンの悪運に掛けるしかない。
頭の中ではチャーリーが警告を発し、念話らしきアクアの声が響いていた。しかし、そんなものに構っている時間が惜しい。
あの光景が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。血だらけになって、泣きながら俺の名前を呼ぶ加奈の姿が。俺を抱き締めて守る母さんの姿が。
もう、俺から何も奪わせねぇ!
俺は気持ちだけでも更に加速させた。そして見つけた。座り込むリン。その頭にかぶりつこうとするトカゲの化け物。
「やめろォォォォォォ!!」
A級スキル<吹き飛ばし>を発動した拳で、俺は巨大トカゲをぶん殴った。
「!?」
声にならない声を上げ、トカゲがブッ飛ぶ。
「リン! 大丈夫か!?」
「ヤマモトお兄ちゃん!?」
「立てるか?」
「ごめん、無理」
完全に腰が抜けているようだ。
そこに、
「ギャルルルルルルルル!!」
怒りの咆哮を上げ、地竜が立ち上がる。さっきの攻撃は、あまり効いていないようだ。
「っ! お兄ちゃん、逃げて!
あいつはヤバイよ!」
「・・・任せろ。何とかする」
地竜のステータスを改めて確認する。
種族名:タイラント・ドラゴン
レベル:98
状態:暴走
危険度:レッド
『状態:暴走』ってのは、何だ?
Answer.
理性を失い、身体機能が増大した状態です。
つまり、亜種とはいえドラゴンが身体機能を強化した状態で敵対しているわけだ。なんという理不尽。
レベル1でチート強化している俺と、どっちが強いだろうか。
「ギャルルルルルルルル!!」
空気が震え、地竜の咆哮が大地を揺らす。
CAUTION!
A級スキル<竜の威圧>です。
<威圧>なら俺も負けねぇ!
俺はS級スキル<覇王の威圧>を発動した。
「!?」
一瞬、地竜に動揺が走る。
だが、
「ギャルルルルルルルル!!」
そのすぐ後に、こちらにダッシュしてきた。S級スキル<覇王の威圧>は、格下の相手を怯ませ、戦意を喪失させるスキルだ。つまり地竜は俺より格上ということか。
Answer.
竜種はプライドが高いため、威圧系スキルの効果が薄いです。
そいつは貴重な情報をどうも。
牙を剥き出し、猛然とこちらに向かって来る地竜。A級スキル<金剛>と<大地人>を発動させ、俺は地竜の体当たりを真正面から防いだ。
「ギャル!?」
これにはさしもの地竜も驚いたらしい。
「うおおおおおっ!」
雄叫びを上げ、地竜を投げ飛ばした。
空を舞い、地竜は地面に叩きつけられたが、すぐに何事も無かったかのように立ち上がる。
「頑丈だな」
少し痺れた両手をプラプラと振りながら、背中に走る冷や汗を感じていた。
どうやら地竜と俺の実力は拮抗しているらしい。だが攻撃力と防御力の高い地竜に対し、俺には決定打となる攻撃方法が無い。
どうする?
再び襲いかかってくると思われた地竜は、その動きを止めていた。代わりに大きく息を吸い込んでいる。
まさか!?
WARNING!
ブレスです!
やっぱりか!
地竜の口が光ったかと思いきや、凄まじい衝撃波が襲い掛かってきた。
まずい、俺の後ろにはリンがいる!
跳んで逃げるという選択肢が消えた。
「うおおおおおっ!」
A級スキル<防御壁>を発動するが、地竜のブレスの方が威力が高かったらしい。<防御壁>は砕け散り、ブレスの余波が俺を吹き飛ばした。
「っ!」
痛みを感じるが、立てないほどじゃない。切り札が防がれたのだろうが、地竜の瞳に怯みは無かった。
しかし、どうする?
考えてみれば、必殺技とか強力な魔法攻撃とか知らないな。そういえば今までの相手は格下ばかりだった。チャーリーが戦闘を練習させるために、そうしていたのだろう。
何故か?
安全のためということもあるだろうが、おそらく俺がモンスターとはいえ命を奪うことに抵抗を感じていたからじゃないだろうか。だから『命のやりとり』が必要となるような相手と戦闘になることを避けていてくれたのだ。
だが、こいつは違う。
殺らなければ殺られる相手だ。
しかも掛かっている命は俺のもの一つじゃない。リンの命も掛かっているのだ。
覚悟を───決めろ。
理不尽に立ち向かう覚悟を。
掛かってこいよ理不尽。
俺は負けない!
「チャーリー、応えろ」
YES,MY MASTER.
「俺は、あのトカゲに勝てるか?」
OF Course.
そうか。
なら問題無いな。力を貸せ。
ALL Right.
バトルモードを模擬戦形式から実戦形式に変更致します。
地竜の脅威レベルがレッドからオレンジに下がった。なるほど、今までは殺さないように手加減していたということか。瞬時に地竜への攻撃パターンがチャーリーから提示される。
お、おう。
まだ使ったことの無いスキルが、こんなにあったのか。
俺はその中の一つを選択する。気になるスキルを見つけたからだ。
ALL Right.
S級スキル<魔剣具象>を発動します。
S級スキル<魔剣具象>。
俺の記憶が確かなら、これは三島順平のS級スキル<聖剣具象>のことじゃないのだろうか?
スキルの発動と同時に、身体から一気に魔力が抜けていくのを感じた。
「ギャル?」
俺のしていることに警戒しているのか、ブレス後で動けないのか、地竜が首を傾げる。そして地面に出現する巨大な魔方陣。
「ええ!?」
リンが声を上げる。
光り輝く魔方陣からは、それとは対照的な黒い闇が溢れ出ていた。闇は俺の目の前に集まると、剣の───いや、刀の形に変わっていく。
魔方陣が消えると、そこには真っ黒な刀身を持つ一振りの刀が浮かんでいた。
Report.
<魔剣>の具象を確認。
<魔剣>に名前をつけてください。
<魔剣>に名前?
銘打ちみたいなものか?
「なら、こいつの名前は<新月>だ」
闇よりも暗い刀身から、月の無い夜を連想した俺は、そう名付けた。
ALL Right.
<名も無き魔剣>は<魔剣:新月>となりました。
その瞬間、<新月>から凄まじい魔力が放出される。その魔力に、俺は後ずさってしまった。
「ギャルル!?」
様子を見ていた地竜も魔剣のヤバさに気付いたらしい。牙を鳴らし、慌ててこちらに向かって来る。
「ちっ!」
俺は咄嗟に<新月>を手にした。その瞬間、言葉にし難いほどの力を感じた。地竜は間合いの遥か先にいたが、何故か『斬れる』と感じた俺は、素振りでもするように刀を振るった。
刹那、
轟!!!
空間を割り、大地を裂く斬撃が発せられた。次いで、全力疾走した直後のような虚脱感が俺を襲った。
・・・おい、軽く振っただけだぞ。
それなのに地竜は真っ二つになり、遥か先の大地に切れ目が入っている。
これ、使ったらダメなやつじゃないか?
何にせよ、命を賭けた初めての戦闘は、呆気なく幕を閉じたのだった。
キリが良いところまでいっとこうということで、二日続けての投稿になりました。
投稿予定を変更です。




