フーの異変
25 フーの異変
「よ、よかったぁ〜。捕まえられちゃうかと思ったよ〜」
「東共は大坂より抗争激しいからね〜」
「まあここも安全とは言えないんだけど」
にんぽうで無事大坂へ帰ってきた7人は、大坂の中心地、通点角の真下にいた。いつも賑わっていたこの場所も、今はしーんと静まり返っている。
「もうここにはあんまりソルドって残ってないのかな?」
辺りを見回しながらチェリーが言った。
「そういえばそうだね。ソルドまで家に隠れるってことはないだろうし。みんな東共に行っちゃった感じかな?」
店が沢山ある商店街も、ルワノの店、ソルドの店を問わず全て閉まっている。開いているのは年中無休で24時間営業であるコンビニのみ。びくびくと肩を震わしながら、ルワノの店員がレジに立っていた。
「いつまでこんな生活が続くんだろう……」
「早くうちらが解決したらななっ!」
そんなことをうだうだと話しながら歩いているうちに、大坂駅に辿り着いた。
いつもルワノやソルドでごった返していたこの場所も、廃駅のようにその姿を変えていた。
「なんか寂しいね」
そんな駅の電車が動いている訳もなく、ただ自動改札機が丸の光を灯しているだけだった。
たった数日でこんなにも世界が変わってしまうものなのか、と思い知らされた。
「俺たちのせいだ、出しゃばったまねなんかするから……」
リールは自分を責め始めた。
「いや、あんたらのせいちゃうよ、父親と母親が遺してくれた真実を知るために、ルワノの真実を知るために必要やったことなんやから」
暗い話をしているみんなに対して、フーとチロは明るく、
「ねえねえ、駅まで来たけど、どうやって帰るの?電車動いてないよ?」
と言った。
「無駄に歩いてたけど、またにんぽう使えばよかったんじゃない?」
コールが言った。
「最初っから大きな区切りじゃなくて、フールーけいさつか俺たちの研究所を目的地にしとけばよかったんだ。テンパってたからな。忘れてた」
その時、駅の改札口から、誰かが出てきた。
「電車動いてんの!?」
ルーは驚いた。が、駅員の制服を着ていたので疑問は解ける。
チロは見知った顔を見つけ、走る。
「チイター!」
聞き慣れない名前を呼び、チロはチイタというルワノに抱きついた。……抱きついたのだ。
「おっ、もしかして……?」
事前に聞いていた女子たちはニヤリ、とする。
「そう、そのもしかして!じゃじゃーん、チロの婚約者でーす!」
「えええええええええええ!!」
驚いたのは三人。そのうち二人は同じ理由。
「お前、そんな幼い思考してよく婚約なんかできたな!」
「尊敬しちゃうわ!」
リール、コールの二人は感心しながらチイタを見た。よく見るとチロに似ている。チイタもチロと同じ、ゴールデンしば犬だった。
そして驚いたうちのもう一人。フーは口をパクパクとさせながら、声にならない声をあげていた。
「あわわわ、あわ」
フーの気持ちを知っていたアップルが解説する。
「フーはね、チロのことが好きだったんだって!」
「そうなのっ!?」「そうやったん!?ってお前好きになんの早いな!まだ出会ってそんな経ってへんで!」
驚くチェリーとルー。それに対してチロは、
「そうだったんだー。ごめんねー」
あまりにもあっさりと断った。
チイタはというと、一言も発さずフーを迷惑そうに見ている。
ここからがもう一つの事件の始まりだった。
フーは目に涙をため、「うわああああ…」と叫び声をあげながら泣き出した。
「おいおいそんなに好きだったのかよ」
この時はみんな、フーはただ泣いているだけだと思っていた。
「まあまあ、落ち着いて」
チェリーとコールが慰める。
その間もチロとチイタはなにやら楽しそうに話し込んでいる。こう見ると、普段落ち着きがなくて幼い感じのチロも、ちゃんと成生しているんだなぁーと感じれた。
ますます激しさを増したフーの泣き声の中、チイタはみんなに自己紹介をする。
「どうも、はじめまして。チロの幼なじみで婚約者のチイタといいます。よろしく」
チロの婚約者にしては少し無愛想だったが、まあまあしっかりしてそうというのがみんなの第一印象だった。まあその考えはすぐに覆されるのだが。
自己紹介をしている間も、フーは叫び声に近い泣き声をあげながら泣いていた。
「ちょっとウザなってきたんやけど……」
その後の話し合いで、ここにいても無駄なだけなので、またにんぽうを使ってフールーけいさつへ帰ることになった。
だが、
「ほら、フー!いくよ!手繋がないと帰れないんだから!」
いくら説得しても、フーは手の平を固く握ったまま、開いてくれなかった。
「う''わ''あ''あ''あ''あ''あ''あ''あ''」
耳を塞がないと近くに寄れないほどの大きな泣き声になり、しーんと静まり返っていたこの場所も、何があったんだと見に来るルワノが現れはじめた。
「ほらほら、近所迷惑だから……」
そんな呼びかける声も叫び声にかきけされ、フーには全くと言っていいほど届かなかった。
そして、フーの体がおかしくなった。
ガタガタと震え始めたのだ。
ガタガタガタ
その間も叫び続け、しまいには白目をむいて硬直した。その瞬間パタリと叫び声は消え、代わりに不思議な現象が起こった。
半開きになったフーの口から、もわあっとしたものが飛び出てきたのだ。
よく見ればくまの形をしている。
「こ、これ、フーの魂じゃない!?」
チェリーがそう言った。
そしてフーの魂は、
「さよーなら」
微かな声でそう言い残して、消えた。
カチンと固まったフーの体が、ぐらりと傾き倒れた。




