第八十七話 前期首席
決勝戦。
演習場全体が、これまでとは比較にならないほどの熱気に包まれていた。
「いよいよ決勝か」
「相手は前期首席だぞ」
「流石にエリナも苦戦するんじゃないか?」
観客席では生徒たちが口々に予想を語り合っている。
やがて。
対戦相手が演習場へ姿を現した。
長身の男子生徒。
整った身なり。
胸には首席を示す金色の徽章。
「前期学年首席。エドワルド・フォン・ヴァイス」
その名が告げられると、会場から自然と拍手が起こった。
王都でも名の知れた名門貴族。
魔法の成績は学年トップ。
実技でも無敗を誇る優等生だった。
エドワルドはエリナの前まで歩み寄ると、静かに口を開く。
「一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
「何でしょう?」
エリナも礼儀正しく応じる。
「先ほどから使用されている雷槍」
「……はい」
「あれは、どなたから教わった魔法なのですか?」
会場が静まり返る。
誰もが気になっていたことだった。
教師たちも耳を傾ける。
エリナは少しだけ考えた後、小さく微笑んだ。
「とある人に教えていただきました」
それだけだった。
エドワルドは苦笑する。
「その方のお名前を伺うことは?」
「申し訳ありません」
エリナはゆっくりと首を横へ振った。
「その方のお名前を明かすつもりはありません」
「……そうですか」
エドワルドもそれ以上は追及しなかった。
代わりに静かに杖を構える。
「ならば、この試合で、その魔法を見せていただきます」
エリナも黒い杖を静かに構えた。
互いに距離を取る。
審判教師が二人を見渡す。
「それでは、決勝戦――始め!」
開始の合図が響く。
エリナはすぐに右手を掲げる。
深く息を吸い込み。
詠唱を始めようとした。
「Land of—」
その瞬間。
「させません!」
エドワルドの杖が振られる。
バシュッ!!
風刃が一直線に飛ぶ。
エリナは咄嗟に横へ跳ぶ。
風刃は先ほどまで立っていた場所を切り裂いた。
詠唱は中断。
「……!」
エリナは小さく舌打ちする。
間髪入れず。
第二撃。
「ファイアーボール!」
炎弾。
さらに。
「ウィンドカッター!」
「アイスニードル!」
エリナは相殺させるも、休む暇もない。
攻撃の連続。
エリナは回避へ専念するしかなかった。
(速い……!)
魔法の威力だけではない。
発動速度。
次の魔法への繋ぎ。
どれも今までの相手とは比較にならない。
流石は前期首席。
エリナへ詠唱する時間を一切与えない。
(完全に読まれていますね……)
エリナは距離を取りながら状況を分析する。
雷槍は強力だ。
だからこそ。
発動される前に潰す。
それがエドワルドの狙いだった。
「詠唱さえさせなければ!」
エドワルドは冷静だった。
相手の未知の魔法を恐れてはいない。
発動させない。
ただそれだけを徹底していた。
「そこです!」
雷撃。
風刃。
炎弾。
間断なく放たれる魔法。
エリナは避ける。
防ぐ。
下がる。
詠唱を始める隙が、一瞬たりとも生まれない。
試合開始から数分。
完全に試合の流れはエドワルドが握っていた。
観客席でも驚きの声が上がる。
「やっぱり首席は違う」
「エリナに何もさせてないぞ」
「未知の魔法も、詠唱できなければ意味がないってことか」
教師たちも静かに頷いていた。
エドワルドの戦術は極めて合理的だった。
未知の魔法なら、完成する前に潰す。
魔法使い同士の戦いでは、ごく基本的な考え方である。
そして、エリナもまた理解していた。
(このままでは……負けます)
初めて、雷槍が封じられた。
エリナは激しく飛び交う魔法をかわしながら、静かに次の一手を考え始めていた。
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