第六十話 増援
領主館の中庭。
ガルドは歯を食いしばっていた。
重い金属音が夜へ響く。
リリアの銃剣。
ガルドの大剣。
互いの武器が激しくぶつかり合う。
「チィッ……!」
ガルドは後ろへ飛び退く。
額から汗が流れる。
予想以上だった。
リリアが強いことは知っている。
だが。
問題は武器だった。
(あの退魔の銃剣か……!)
あの武器の前では。
魔力による強化が意味を成さない。
身体強化。
武器強化。
防御強化。
ありとあらゆる魔法が斬り裂かれる。
ガルドは慣れ親しんだ戦斧ではなく、大剣を選んでいた。
戦斧では受け流しが難しい。
少しでも受け止めやすい武器を選んだ結果だった。
それでも苦しい。
一歩間違えれば。
武器ごと身体を両断される。
「聖国も……とんでもない物を作りやがって」
ガルドは吐き捨てる。
リリアは答えない。
静かな表情のまま。
ただ銃剣を振るう。
一閃。
二閃。
三閃。
ガルドは全てを受け止める。
防ぐだけで精一杯だった。
攻撃へ転じる余裕などない。
それでも。
時間だけは稼いでいた。
そして。
夜空へ一つの魔法陣が浮かぶ。
「来たか!」
ガルドが安堵の息を漏らす。
次の瞬間、巨大な転移魔法陣が領主館前へ展開された。
眩い光。
その中から次々と人影が現れる。
純白の法衣を纏った神官たち。
聖国から派遣された回復術師部隊だった。
さらに。
別の魔法陣から現れる。
王都。
そして各地方で活動していた手の空いているAランク冒険者たち。
一流だけが揃えられていた。
その最後。
一人のエルフが静かに前へ出る。
長い金髪。
鋭い翠眼。
落ち着いた雰囲気を纏う女性。
勇者パーティー元参謀。
現・冒険者ギルド総マスターの右腕。
フィリア・エルフォード。
彼女は惨状を一目見ただけで状況を把握した。
「神官隊は負傷者の治療を最優先!」
「はい!」
神官たちは即座に散開する。
倒れている騎士。
瀕死の兵士。
生き残っている者から次々と回復魔法を施していく。
フィリアは今度は冒険者たちへ視線を向けた。
「Aランク冒険者は私と共に対象を制圧します。目的は討伐ではありません。捕縛です」
「了解!」
冒険者たちが一斉に武器を構える。
その様子を見たガルドが苦笑した。
「助かった」
フィリアは小さく頷く。
「事情は後で聞きます」
そう言って。
ゆっくりとリリアを見る。
その瞬間。
フィリアの表情が僅かに曇った。
「……リリア」
かつて。
勇者パーティーで共に旅をした仲間。
その姿が。
今は返り血に染まっていた。
リリアもまた。
フィリアへ視線を向ける。
数秒。
互いに動かない。
やがて。
リリアが静かに銃剣を構えた。
敵。
そう判断したのだ。
フィリアは静かに息を吐く。
「全員」
冒険者たちへ視線を向ける。
「死なせないようにしてください。ですが、油断すれば、こちらが死にます」
その一言で。
その場の全員へ緊張が走った。
次の瞬間。
リリアの姿が消える。
「来ます!」
フィリアの声と同時に。
領主館を舞台とした。
Aランク冒険者総出による。
リリア捕縛作戦が始まった。
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